女性の眠りにまつわる悩みを共有できる「わたしとねむり研究所」
- HIP
- 「Sleep × Femtech」プロジェクトのなかでも「わたしとねむり研究所」はBtoCの取り組みですね。どのように発展していったのでしょうか。
- 大槻
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展示会などを通じて、多くの女性が睡眠と健康課題の関係に悩みを抱えていることが見えてきました。月経のときに眠くなる、妊娠初期に眠くて仕方ない──。多くの方が「体感としては理解しているけれど、なぜそうなるのかわからない」状況だったんです。しかも、それを自分ひとりの問題だと思い込んでいる方が多かった。
でも実際は、体のメカニズムとして起こっていることで、個人に限った問題ではありません。こうした情報を得ることで、もっと多くの女性が楽になれるのではないかと思い、この取り組みを始めました。

- HIP
- 具体的には、どんな情報発信をされているのでしょうか?
- 大槻
- Instagram(sleep.femtech)での情報発信やウェブサイトでの記事掲載、ポッドキャスト配信に加えて、リアルイベントの開催にも取り組んでいます。2025年には、西山酒造場さんとのコラボイベントとして「発酵と睡眠」の関係を学ぶワークショップを開催しました。今後は、LINEを使ったコミュニケーションの仕組みづくりも進めていきます。

- HIP
- コミュニティ運営や情報発信を通して、どんな気づきがありましたか。
- 大槻
- 睡眠に対する私たちの価値観と、世の中の人々が睡眠に向き合う目線は、思っていた以上に異なるのだとあらためて感じています。ベッドメーカーの私たちは「睡眠から見た○○」という視点になりがちですが、生活者の皆さんにとっては「暮らしを豊かにするための睡眠」「仕事のパフォーマンスを高めるための睡眠」といった日々の生活を起点とした視点が中心なんですよね。
- HIP
- たしかに一般の人たちだと、目的や理由があって初めて、睡眠を改善しようとするケースが多そうですね。
- 大槻
- そうなんです。この違いを理解して、発信の仕方を少し変えるだけで届き方が大きく変わる。その可能性をすごく感じています。
手書きで自分の眠りと向き合う「90日ダイアリー」
- HIP
- 2025年3月には、女性ホルモンと睡眠の仕組みを知り、自分の眠りの状況を把握できる「90日〜わたしをみつめるねむりDIARY〜」もリリースされました。なぜ、日記帳という形式を選んだのでしょうか。

- 大槻
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展示会や座談会を通じて、当事者である女性たちと睡眠や月経、更年期など女性特有の課題についてたくさん話をしました。多くの方が悩みを抱えながらも、家族や会社など「自分以外の誰か」のために時間を使い、忙しい毎日を過ごしている……。睡眠や月経といった、日常に埋もれがちな悩みについて話す場が少ないなかで、私たちに相談することで、表情がすっきりと変わっていく姿をよく目にしました。
そうした場面を重ねるなかで、女性の生活に手軽に、気負いなく寄り添う「睡眠のコンテンツ」をつくりたい、と思ったのがきっかけです。
最初は、アプリの開発を検討しました。ただ、当社の専門領域ではないため、リソースが限られている状況では、どうしてもコスト高になってしまいます。また、「ベッドにスマートフォンを持ち込まないほうがベター」という睡眠アドバイスをしていることもあり、スマートフォン以外の手段を模索し始めました。
そんななか、当時ご一緒していた助産師さんとの会話で「手帳のような……、ジャーナリングのようなものはどう?」というアイデアが出てきました。
手書きというアナログな形式は、私たちが伝えたい世界観とも相性がよく、開発コストも抑えられます。気軽に手に取ってもらえるよう、価格を880円(税込)という手頃な設定にすることもできます。こうした背景から、紙の日記帳という形式にたどり着きました。
- HIP
- リリース後の反響はいかがでしたか。
- 大槻
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女性の体の変化と睡眠の関係をイメージしやすい点や、内容が分厚くないので短時間でも理解しやすい点が好評です。なかには自分の睡眠や月経周期を90日間手軽に記入できるワークシートがあり、そこに記録をつけることで、自分の睡眠の変化に向き合えたという声もいただいています。
女性のなかには、意外と自分の体のことを知らない方も多いんですよね。だからこそ、こうしたツールが意味を持つのだと感じています。

- HIP
- 「わたしとねむり研究所」がコミュニティとしての側面が強い一方で、「ねむり共創リサーチ」や「Menorista」では研究や調査データの蓄積を進めていると聞きました。これらは相互に影響し合っている部分もあるのでしょうか。
- 大槻
- 3つの取り組みはそれぞれ独立しているわけではなく、互いに連動しています。「わたしとねむり研究所」では個人の方々と広く接点を持ち、「ねむり共創リサーチ」ではパートナー企業と睡眠の可能性や価値を調査します。その調査結果を「わたしとねむり研究所」を通じて個人の方々に提供することもあれば、そうした方々に調査への協力をお願いすることもあります。企業を通じて従業員をサポートする「Menorista」はやや独立したプログラムですが、そこで培ったカウンセリングノウハウは「わたしとねむり研究所」の活動にも活かされています。
- HIP
- 今後、睡眠というテーマを通して、どんな社会的変化を生み出したいと考えていますか。
- 大槻
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最終的には、日本の女性が当たり前のようにもう1時間眠れる世界を実現したいと思っています。日本の女性の睡眠時間は世界で最も短く、平均で約1時間不足しているんですよね(※)。この1時間を取り戻せる社会にしたいんです。
ただ、それは睡眠だけを改善すれば解決できる話ではありません。働き方や暮らし方と密接に関わる問題でもあります。だからこそ、さまざまなアプローチを組み合わせながら、10年という長いスパンで変化を生み出していきたい。そうした取り組みは、結果的にジェンダーギャップといった日本の大きな課題の解決にもつながっていくと感じています。






