医療・介護分野で長年培ってきた睡眠に関する知見を活かし、現在は一般生活者向けのベッドや寝具も手掛けるパラマウントベッド。同社は近年「女性と睡眠」といったテーマでも精力的に事業を推進している。
「日本の女性は世界で一番寝ていない」と言われることがある。実際、日本は他国と比べて男女ともに睡眠時間が短い傾向にあり、家事・育児負担の偏りなども影響し、女性は特に睡眠時間が短いことが指摘されてきた。
こうした状況を打破すべく立ち上がったのが、「Sleep × Femtech」プロジェクトだ。同プロジェクトでは、女性のライフサイクル全体を睡眠から支えることを目的に、大きく3つの取り組みを展開している。
今回は、その取り組みの1つ「わたしとねむり研究所」を中心に、パラマウントベッドの大槻朋子氏に話をうかがった。
なぜ「女性と睡眠」に注目したのか
- HIP編集部
(以下、HIP) - まず、パラマウントベッドが取り組む「Sleep × Femtech」プロジェクトについて教えてください。
- 大槻朋子氏
(以下、大槻) - このプロジェクトには、大きく分けて3つの取り組みがあります。一般生活者向けのコミュニティ型ラボ「わたしとねむり研究所」、企業の従業員向けに更年期と睡眠を支援するプログラム「Menorista」、そしてパラマウントベッド睡眠研究所と連携しながら進める研究調査サービス「ねむり共創リサーチ」です。それぞれが連携しながら、女性のライフサイクル全体を睡眠の視点からサポートすることを目指しています。

- HIP
- どれも「女性と睡眠」というテーマに関わる取り組みかと思いますが、このテーマを掲げたきっかけは何だったのでしょうか。
- 大槻
-
私は以前、当社の「あらゆる人が自分らしい眠りを通じて前向きでアクティブな人生を送れるように」という想いから生まれた、一般生活者向けブランド「Active Sleep」の立ち上げに関わっていました。そのとき、子どもと睡眠、運動と睡眠など、「睡眠」を切り口に支援できる領域はさまざまあると社内で話していたんです。ただ、そのなかでも見過ごされがちだったのが「女性と睡眠」というテーマでした。
そうした流れのなかで、2019年の「健康博覧会」にフェムテックのブースが設けられることになり、小規模ながら比較的安価に出展できるという話を聞きました。それならぜひ何かやってみようと社内で提案したのがきっかけです。

- HIP
- 大槻さんご自身の眠りに関する経験や悩みもプロジェクトに影響したのでしょうか。
- 大槻
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はい。私は2人の子どもがいるのですが、2人目の出産後に復職し、1か月ほど経ったころに体調が悪化してしまって。イライラするし、仕事にも集中できない状態でした。当社の睡眠計測センサーで睡眠の状態を数値化したスコアも20点台(100点満点中)まで落ちていて、「これはまずい」と危機感を覚えました。
そこで、朝起きる時間を決める、朝日を浴びるといったシンプルなことを実践してみたんです。その結果、よく眠れるようになり、メンタルも安定していきました。私の場合、スコアが60〜70点くらいで推移していれば、日々を気持ちよく過ごせるのだと実感しました。
- HIP
- そういった経験からも、「女性と睡眠」の関係を実感されたんですね。
- 大槻
- そうです。展示会では製品だけでなく、社内で睡眠センサーを使用している人たちの睡眠データと月経周期を掛け合わせた簡単な分析結果も展示しました。すると、両者には何らかの関係性がありそうだということが見えてきたんです。社外からの反応もよく、これはさらに掘り下げる価値のあるテーマだと感じました。
有志3人から20人に成長。「巻き込み型」チームづくりの舞台裏
- HIP
- 「Sleep × Femtech」プロジェクトを立ち上げるにあたり、どのようなチームを編成したのでしょうか?
- 大槻
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最初は完全に有志メンバーだけで始まったんです。女性社員のなかで、声をかけたら面白そうだと思える人たちが何人かいて。2019年の展示会では、デザイナーにパネルをつくってもらったり、当社睡眠研究所のメンバーに簡単な調査を依頼したり、そんな小さな動きからスタートしました。
その当時からコアメンバーとして関わってくれているのが、デザイナーの岩井文さん、パラマウントベッド睡眠研究所の塩貝有里さん、そして私の3人です。そこから、私の働きかけに巻き込まれるように仲間が増えていき(笑)、いまでは社内外を含めて総勢20名ほどが同じ船に乗って取り組みを進めてくれています。

- HIP
- チームづくりで重視していることはありますか。
- 大槻
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いまうまく回っているのは、プロジェクトを自分ごととしてとらえて参画してくれる方が多いからだと思っています。
社内外のメンバーにも常に、「一般論ではなく、ご自身の意見としてはどうですか?」と問いかけてきました。そうするうちに、当初はアドバイザー的な立ち位置だった方々も、いまではプロジェクトの一員として主体的に動いてくれるようになって。その変化が、とてもうれしいですね。
社内で新規事業として「Sleep × Femtech」プロジェクトを推進する際、一番大変だったのは、予算の獲得ですね。そもそも当時は新規事業を立ち上げるための仕組みが整っていなかったので、最初は部長に「なんとかお願いします!」って平身低頭で頼み込んでいました(笑)。
資金面では、2023年度の経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に採択されました。補助金を活用して事業に取り組むことはそれまでにほとんど経験がなかったので、大きなチャレンジでした。しかも、1回目の申請は不採択だったんです。
そこで2回目は、協業している「陽と人」(ひとびと)という会社と連携し、申請書の作成に取り組みました。提案書を書き進めるなかで、行政側が何を期待しているのかをより深く理解できたことが、大きな学びでした。代表の小林味愛さんは元経産省の方で、行政側の考え方に精通しています。自分にはない知見を持つ方と意見を交わしながら進めたことで、結果的に採択につながり、協業することの価値をあらためて実感しました。



