プラントエンジニアリングと機能材製造の事業を展開する日揮グループ。エンジニアリングの名門として知られる同社が、「食」の未来を見据えフードテック分野に力を注いでいる。2021年に、培養肉の事業を推進する新会社・オルガノイドファームを設立。2025年夏には、初の試作品が完成した。
培養肉は、地球規模の課題であるタンパク質危機の切り札になるのか。また、日揮グループが参入する意義や狙いとは。プロジェクト発足期からのメンバーであり、現在はオルガノイドファームの代表取締役を務める山木多恵子さんに聞いた。
日揮で「おもしろい仕事」を探った結果、まさかの社長就任
- HIP編集部
(以下、HIP) - 日揮といえば「エネルギー関連のプラントをつくる企業」というイメージが強く、培養肉の事業について意外だと感じる人もいるかと思います。参入の背景を教えてください。
- 山木多恵子氏
(以下、山木) -
たしかに日揮グループはエネルギー分野に強いですが、じつはほかにもさまざまな領域の事業を展開してきた企業です。石油やガスのプラントだけでなく、病院、再生医療関連設備、食品工場などの設計・建設も手がけています。
なので、ヘルスケアやライフサイエンス関連の知見も蓄積していて、それらを生かしたビジネス展開として培養肉のプロジェクトが始まりました。
また、日揮グループは「MISSION DRIVEN – 世界に課題があるかぎり。」をコーポレートスローガンに掲げています。当然、食料不足も世界にとって重要な課題の1つ。これまでにも日揮は、海外で植物工場を立ち上げたり、陸上養殖で魚を育てる技術を開発したりしてきました。
培養肉の事業は、それらに続くフードテック関連の取り組みになります。

- HIP
- 山木さんは2021年のオルガノイドファーム設立と同時に代表取締役に就任していますが、どういった経緯でこの事業に参加したのですか。
- 山木
-
新卒で日揮(現日揮ホールディングス)に入社して以来、技術者として石油・ガス精製プラントの設計に従事してきました。国内外の複数のプロジェクトを経験したあと、次のフェーズに進みたいと考えて、社内の「おもしろい仕事」を探っていたんです。
2019年に日揮グループがホールディングス化したあと、国内事業会社の日揮で新規事業の開発などを担う未来戦略室の注力テーマの1つに、培養肉があることを知りました。フードテック分野に関心を抱いていたので、参加の希望を出したんです。
- HIP
- 自ら希望したとはいえ、社長になることは想像していなかったのでは。
- 山木
-
たしかに、まったく想像していませんでした。
「培養肉のような未開の分野はスピード勝負。別会社化したほうが、物事が早く進む」という当時のトップの考えに基づいて、オルガノイドファームを日揮発のスタートアップ企業として切り出すことになったんです。
- 山木
- 私自身も、プロジェクトに参加してから食肉の生産・供給に関するリアルな課題に触れ、少しでも早く培養肉の技術を世に出したいと考えるようになりました。社長になるのは想定外でしたが、だからといって投げ出す選択肢はなかったですね。




