「次のコアビジネスをつくらなければ」インキュベーション思考をうながす危機意識とは
HIP:NTTグループには、外部とのコラボレーションで新しいビジネスを創出する文化がもともとあったのでしょうか?
笹原:数年前からNTTグループは、いわゆる「自前主義」をやめて「他社と共創して新規事業を開発しようという動きが出てきています。それまでは研究所の技術を優先的に使うとか、他社と協業せずすべて自分たちでやるというガリバー企業的な考え方でしたが、いまは苦手な分野は得意な企業と組んで、スピードを上げて事業を進めていこうという風潮があります。
笹原:また、以前は「完璧なものをつくってからでないとリリースできない」という空気がありましたが、現在はお客様の声を聞きながら、トライアンドエラーで精度を上げていく事業創出方法にシフトしています。
HIP:その潮目が変わったきっかけは何だったのでしょうか?
笹原:ハッキリとしたきっかけがあったわけではありません。ただ、NTT西日本は固定通信サービスを提供している会社ですので、5Gなどの発展とともに移動体通信にとって代わられるリスクは常にある。「フレッツ光の次のコアビジネスをつくらなければ」という危機感が、グループ全体のインキュベーション思考につながっているのではないかと思います。
新規ビジネスを生み出す秘訣は、「オフェンス型」人材?
HIP:みなさんが所属するビジネスデザイン部は2019年に単独部署として独立しましたが、そういった会社の変化を汲んでのことだったのでしょうか?
笹原:ひとつの理由だとは思います。部署になる前から、コミック配信事業を核とする会社を立ち上げたり、エネルギー資源の効率活用を目指した株式会社NTTスマイルエナジーを、オムロンと合併で設立したり、新規事業・サービスをつくり出してきた部門です。この動きを加速させるということですね。
HIP:すでに数多くの実績があるのですね。ビジネスを創出するチームの秘訣は何ですか?
笹原:人材が多様で、かつ能動的であることです。NTTは通信キャリアなので、いかに通信を維持するかが最重要事項です。そのためリスクヘッジを重んじるいい意味でディフェンシブな文化で、保守・保全の感度が高い。一方、ビジネスデザイン部は社内で少数派のオフェンシブで、個性の強い人材が集まっています。イントレプレナーが集まって、うまくチームを形成している感じですね。
江村:最近は「スペシャリスト枠」という他業種からの人材採用があり、人材の多様性も増しています。ちなみに、私もそのひとりです。前職では複合施設のイベントの企画・広報をしていたのですが、もともとはミュージシャンとして活動していました。今回のプロジェクトには、音楽とエンタメの専門家として参画しています。スペシャリスト人材はこれから増えていくそうですよ。
HIP:人材の多様性がさらに増していきそうですね。
笹原:そうですね。それぞれの持っている知見や人脈も多様になっていくと思いますので、新しいものがより生まれやすい環境になると期待しています。
「できなければ倒産する」。危機感を持って新しいチャレンジを続けていくということ
HIP:では最後に、今回の新規事業創出はNTT西日本に何をもたらしたと思いますか?
笹原:ひとつは、新規事業開発の処方として、出資の有用性を示せたことです。じつは今回、NTT西日本創立以来初のベンチャー出資でした。大企業だけでなくベンチャーと組む事例をつくれたことはとても意義深いです。
もうひとつは、エンタメ領域への進出です。その意味で「REALIVE360」には大きなインパクトがあったと思います。会社が法人向けのサービスに舵を切っているなかで、エンタメ産業という巨大なジャンルに踏み込む大きな一歩になりましたね。
HIP:「REALIVE360」は会社にさらなる変化をもたらす一手となったのですね。そして、この経験を糧に、今後も新しいチャレンジを続けていくと。
笹原:はい。先ほども言ったように、会社も「次なるコアビジネスを生んでいこう」という気概を持っています。私としては、それができなければNTT西日本は倒産するとさえ思っている。あと5年から10年は安泰でも、私が引退する20年後にどうなっているかはわかりません。このような危機感があるからこそ、当事者意識を強く持って会社の課題にコミットできるのです。