新規事業は危機意識から生まれる。NTT西日本グループがVRエンタメ事業を始めた理由
笹原貴彦 / 江村正規 / 深谷崇文(NTT西日本 ビジネスデザイン部 ビジネスクリエーション部門)
2020.05.29

新型コロナウイルスで自粛ムードが続くなか、注目を集めているのが家でも楽しめる動画配信サービス。リアルイベントに代わる新たなエンターテイメントとして需要が急増中だ。

NTT西日本グループのVR動画配信サービス「REALIVE360(リアライブサンロクマル)」もそのひとつ。2019年に、ももいろクローバーZのライブ会場で、有料コンテンツが視聴できるチケットを販売し、サービスをスタートさせた。

手堅いイメージのあるインフラ通信企業だが、会社創立以来初となるベンチャー企業への出資や、エンタメコンテンツの制作など、大胆に舵を切っている。一体どのような想いで、この事業を立ち上げたのか。「REALIVE360」のマネージャー・笹原貴彦氏、技術面を担う深谷崇文氏、コンテンツ営業担当の江村正規氏の三人に話を聞いた。

取材・文:末吉陽子(やじろべえ)

(※本取材はオンラインで行い、写真は提供画像を使用しています)

会場に行かなくてもライブは体感できる時代。NTTの新技術満載「REALIVE360」とは?

HIP編集部(以下、HIP): マルチアングルVR配信サービス「REALIVE360」を開発するきっかけは何だったのでしょうか?

笹原貴彦氏(以下、笹原):エンタメ系のイベントは都市部に比べ、地方での開催が少ないというデータを見て、地域によって体験格差があると感じたのが発端です。そのギャップを埋めるのがICT技術であり、通信キャリアの役割だと考えました。

また、個人的な体験ですが、以前とあるイベントに参加した際、ハンディキャップを持つ方と少しお話しする機会がありました。その方いわく「イベントに行きたけれど腰が重くて諦めてしまうことが多い」と。そのとき「会場に行けない人でもエンタメを楽しめるサービスにしたい」と強く想ったことも、REALIVE360を成功させるためのモチベーションのひとつになりました。

NTT西日本 ビジネスデザイン部 ビジネスクリエーション部門 笹原貴彦氏(写真提供:NTT西日本)

HIP:会場に足を運べない人にとって、リアルに近い体験の価値は大きいですね。サービスにはどのような特徴がありますか?

深谷崇文氏(以下、深谷):ひとつは、「マルチアングル」を採用したことです。ユーザーはスワイプや端末の傾き、回転でアングルを自由に選択し視聴できます。視覚と聴覚を連動させるため、アングルや顔の動きに合わせて音の聞こえ方が変わる「立体音響」も活用し、高い臨場感を出すことを目指しました。360度VRとこれらの技術のかけ合わせは、かなり先駆的なものだと考えています。

NTTのVR高効率配信技術を使うことで、容量の大きいマルチアングル映像を、4G / LTEでも視聴することが可能になりました。

NTT研究所の「パノラマ超エンジン」を活用し、低容量高画質での配信を実現した「REALIVE360」

HIP:リリース後の反響はいかがでしょうか?

笹原:はい。体験したユーザーからは「さまざまなアングルを選んで瞬間移動ができる、まさに現地以上の体験だった」とのお声をいただいています。一方で、イベント主催者側にもメリットがあります。イベントによるチケット収入は会場の動員数が上限ですが、そのリミットを外せるソリューションにもなり得ます。

江村正規(以下、江村):いま、新型コロナウイルスの影響で、主催者は「開催したくてもできない」、消費者は「行きたくても行けない」という状況が続いているので、具体的な支援策を現在模索中です。主催者と消費者、両者の課題を解決するサービスとして拡大していきたいですね。

NTT西日本 ビジネスデザイン部 ビジネスクリエーション部門 江村正規氏(写真提供:NTT西日本)

「通信会社のNTT」からの打破。ベンチャーとの協業でVR事業に参戦

HIP:通信のインフラを担うNTT西日本が、コンテンツ領域を開拓されている点に、新規性を感じます。

笹原:今後の伸び代を考えたときに、NTT西日本は「土管屋」に留まらず、新しい事業を創出することで可能性を広げていこうとしています。そういったなかで、エンタメだけでなく教育や医療など、多様な活用方法が期待できるVR事業に興味がありました。

HIP:VR事業参入にあたり、VRのライブ映像制作や配信事業を手掛けるアルファコードと協業されていますね。経緯についてうかがえますか?

深谷:きっかけは、ビルボードが「エンターテイメント体験の拡張」をテーマに主催したハッカソンです。NTT西日本は、ハイレゾ音源をストリーミング配信する技術提供企業として参画していました。他にも数社が技術提供していたのですが、そのうちの1社がアルファコードです。

NTT西日本 ビジネスデザイン部 ビジネスクリエーション部門事業開発 深谷崇文氏(写真提供:NTT西日本)

笹原:VRはNTT内部では深く検討していない技術でしたし、「マルチアングル」のアイデアも面白かった。高い技術力とチャレンジングスピリットを持つこの会社となら、思い描いたサービスが実現できるのではないかと考え協業を決めました。

ハッカソン終了後、NTT西日本は配信基盤を、アルファコードはVRコンテンツ制作を担うという住み分けにお互い合意したうえで業務提携を行い、ビジネスを開拓していくことになりました。

HIP:コラボレーションは円滑に進みましたか?

笹原:そうですね。うまくいった要因は、最終的に資本提携に切り替えたことだと思います。業務提携のままプロジェクトを進行すると、例えば両社の狙いが微妙にずれたり、利益相反になるケースに直面したりすることがありました。それを回避するための転換でした。

資本提携により仮想的にひとつの組織体になったことで、ビジョンが1本化されましたし、ディレクションの統合もできるため、物事が円滑に進みます。判断時間とネゴシエーションの短縮は、協業事業の加速に欠かせないですね。

業界が違えば文化が違うのは当たり前。共通のキーワードが協業成功の鍵となる?

HIP:「REALIVE360」の配信コンテンツ制作ではエンタメ業界との連携も重要ですね。プロジェクト進行で気をつけたことはありますか?

笹原:コンテンツパートナーとして博報堂、SDPと連携していますが、業界文化の違いによる意見の相違はもちろんあるので、お互いが納得できるポイントを探すように心がけました。

HIP:具体的にどのような話し合いをされましたか?

笹原: NTT西日本は、ICT活用した新規事業創出を実施している会社のためトライアンドエラーの思想があり、β版からスタートするイメージでした。一方、パートナーのSDPと博報堂はハイクオリティなコンテンツを発信し続けている会社です。どの段階でサービスを発表するのか、擦り合わせが必要でした。

そこでキーとなったのが、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)が「ファンとともに成長してきた」という歴史です。「ももクロのように、ファンを巻き込んでつくり上げていくサービスにしませんか?」と提案しました。ローンチ前にファンに対する「REALIVE360」体験会を開催し、アンケートで意見を吸い上げ改善。これを繰り返し、アンケート結果が目標値を達成したらサービスをスタートさせる、という方法です。このアイデアにご納得いただき、プロジェクトを進行することができました。

「REALIVE360」第一弾アーティストのももいろクローバーZ

HIP:相手のフィロソフィーやゴールが何かを知り、話し合うことが大事だと。

笹原:はい。今回は、「ファンとともにつくりあげる」を共通のキーワードとして見つけたことで、全員の意思統一ができた感じですね。

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通信キャリアは過渡期にある。目指すのはフレッツ光に続く大黒柱の誕生

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