INTERVIEW
商船三井の新BtoC事業「MOL CART」の船出。事業リーダーと新卒メンバーが描く航路
斉名(株式会社商船三井 ウェルビーイングライフ営業本部 ウェルビーイングライフ事業部 新規事業創成チーム プロジェクトマネージャー) / 馬場那月(株式会社商船三井 エネルギー事業本部 カーボンソリューション事業群 タンカー事業第一ユニット 統括プロジェクト推進チーム)

INFORMATION

2025.10.29
取材・文:多田慎介 写真:波多野匠 編集:藤﨑竜介(CINRA)

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2025年1月、海運大手の商船三井による、新たなBtoC事業「MOL CART」が始動した。

世界の物流を支えてきた同社が挑むのは、海外に住む人が日本の商品を手軽に手に取れるようにする、越境EC支援のプラットフォームだ。

この新事業を発案したのは、既存事業での経験を基に「日本の産業を盛り上げたい」と情熱を燃やす社内起業家の斉名(さい・みん)さん。また、事業化に向けたプロジェクトには当初新卒1年目だった馬場那月さんも参加し、新人ならではの視点や行動力を生かして、カスタマーサービスなどの仕組みづくりに貢献してきた。

2人はどうやって、社内に前例のない事業をかたちにしたのか。伝統と革新の交差点で生まれたMOL CARTの物語は、新規事業に関わる多くの人にヒントをもたらすはずだ。

事業発案のきっかけになった、訪日客のマニアックな日本愛

HIP編集部
(以下、HIP)
まずはMOL CARTの概要を教えてください。
斉名氏
(以下、斉)

海外在住者に向けた、越境ECを支援するプラットフォームです。

日本のECサイトは海外配送に対応していないものも多く、海外で日本の商品を買いたいとき、不便が生じがちです。それに、「複数の日本のECサイトで買い物をしたい」というニーズもあります。

HIP
通常は複数のサイトで買うと、海外配送に対応していたとしてもサイトごとに送料がかかってしまいますね。
そうなんです。私たちは、日本のサイトで購入したものを一旦MOL CARTの倉庫スペースに送ってもらい、荷物の開封とチェックを経て海外へ一括配送できる仕組みをつくることで、そうした課題に対応できるようにしました。
MOL CARTでユーザーに商品が届くまでの流れ。詳細はサービスの紹介サイトに記載(画像提供:商船三井)
HIP
どんな商品を対象に利用されることが多いですか。

最近は、いわゆる「推し活」関連の品が多いですね。たとえば日本のアーティストのポスター、CD、ファンクラブの会報、ノベルティーなどです。

海外に住む日本人の方からは、食品や化粧品などの注文も多いですね。

HIP
商船三井は長らくBtoBの事業を展開していますが、なぜBtoCに挑戦したのでしょうか。
私は商船三井で営業などの仕事に携わりつつ、国内の市場が縮小傾向にあるなかでも、多くの企業が努力して良い商品を生み出すのを見てきました。海運企業としてそうした商品のために原材料を運ぶのはもちろん大事なのですが、それだけではなく、「もっとダイレクトに日本の産業を盛り上げたい」と思うようになったんです。
商船三井で営業や管理部門などの仕事を経験した後、MOL CARTを起案・事業化した斉名さん
このビジネスを考え始めたのは、コロナ禍の前のこと。インバウンド需要が盛り上がるなか、訪日客は私たちが知らないような日本のマニアックな商品を知っていて、どんどん購入していました。EC上でも、このようなニーズがあるはずだと考えました。

「失敗しても自分の経験値になる!」と不安を封じて事業化へ

HIP
MOL CARTを事業化するまでのプロセスを教えてください。

社内の新規事業提案制度に参加するかたちで、起案しました。2022年度のことですね。入社10年目のタイミングでした。

当社の新規事業提案制度に沿って、事業アイデアが審査を通過したうえで新規事業部門へ異動し、実現性の検証をしたあと、最終的な社内稟議で承認を得ました。それが2023年の6月ですね。

HIP
社内にBtoCの前例がないことによる苦労はありましたか。

そこは、異業種の他社で働く友人らに助けられました。

「新規事業はとにかくスピードが命」「構想段階で精緻に計画を練り上げることも大事」といったアドバイスをもらい、起案時には市場予測や事業戦略などをしっかりと盛り込んでいきました。MOL CARTのシステム基盤をつくってくれているスタートアップとの協業も、そのつながりから生まれました。

あとは、MOL CARTのチームが入居するARCHのネットワークにも、助けられています。ほかの入居企業さんと意見交換する機会などがあって、サービスを拡大していくためのヒントをもらっています。

ARCHは森ビルが運営するイノベーション推進拠点。現在100社超が入居。写真はコワーキングスペースのもの(画像提供:森ビル)
HIP
事業化するうえで、不安は生じませんでしたか。

たしかにありました。進めていく過程で、「こんなにリスクが読めなくて大変なことは、もうあきらめたい」と思ったこともあります。それに会社や自分自身のキャリアへの影響について、漠然と不安が押し寄せることもありました。

そんな思いを上司に相談すると、「ニーズがあるし、新規事業は失敗がつきもの。結果は気にせずがんばりなさい」と励ましてくれたんです。

新規事業をやるにあたって、何もかもうまくいくことは絶対にありません。それも織り込んで、「失敗しても自分の経験値になる!」と思って取り組めばいいのだと、発想を変えることができました。

そして、馬場さんがチームに加わって一緒にがんばってくれました。1人から2人になった心強さは本当に大きかったですね。

社内起業家と新卒メンバーの二人三脚が事業をかたちに

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