INTERVIEW
部署横断で生まれた新規事業FOODATA。伊藤忠が目指す「食」のDX
青木寛 / 塚田健人 / 橋本正有(伊藤忠商事株式会社)

INFORMATION

2021.10.11

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伊藤忠商事は2021年7月、食の商品企画・開発領域における DX支援サービス「FOODATA」の提供を開始した。食品メーカーの商品企画・開発担当者が必要とするさまざまなデータを収集・分析するサービスで、これまで定量化しづらかった味覚や食感といった感覚の分析も可能にする。ローンチして間もないサービスだが、すでに多くの開発現場で活用され始めているという。

総合商社の伊藤忠は「食料」「繊維」「機械」「金属」「情報・金融」など分野ごとに体制が分かれるカンパニー制度を導入している。しかし、今回の「FOODATA」に関しては、そうした部門の垣根を越え、「食料カンパニー」と「情報・金融カンパニー」の連携によって進められた。

カンパニーを横断する事業は非常に珍しいとのことだが、このプロジェクトはどのように実現したのか? 食料カンパニーの部長・青木寛氏、塚田健人氏、情報・金融カンパニーの橋本正有氏にお話をうかがった。


文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

現場担当者の「勘と経験」の価値を最大化するDXツール

HIP編集部(以下、HIP):まずはFOODATAの概要を教えていただけますか?

塚田健人氏(以下、塚田):食品メーカーの商品企画や開発領域におけるDXを支援するサービスです。商品企画・開発の際に担当者の方が必要とする、さまざまなデータを収集・分析し、ダッシュボードで可視化できるソリューションを提供しています。

右から食料カンパニーの塚田健人氏、青木寛氏、情報・金融カンパニーの橋本正有氏

HIP:具体的にどのようなデータを活用できるのでしょうか?

塚田:味や栄養、原材料といった食品に関する「モノデータ」と、ID-POS(※)、意識調査や口コミといった消費者の行動・嗜好に関する「ヒトデータ」を掛け合わせて分析することができます。

食品企画・開発の現場では、膨大かつ多様なデータを収集・分析するので相当な手間と時間がかかりますし、なかでも味覚や食感といった感覚は定量化しづらいという課題がありました。

しかし、FOODATAを活用するとこのような感覚も可視化できるので、現場の担当者は新商品の企画・開発に生かすことができるだけでなく、企画を通すうえで上層部に商品の魅力をより伝えやすくなると思います。

また、もう一つの大きな目的が、「『勘と経験』の価値を最大化」することです。従来の商品企画・開発は、一人のヒットメーカーが長年の勘と経験をもとにアイデアを生み出すというやり方が一般的でした。

(※)ID-POS:その商品を「誰が」購入したかの情報を取得・管理する仕組み。過去の購買履歴なども参照・分析可能で、マーケティングにおける重要なデータとなる。現在のFOODATAでは、全国のさまざまなチェーンのID-POSデータを統合したかたちでデータ分析が可能。

味・栄養・原材料などの食品に関する「モノデータ」と、トレンドやクチコミなどの消費者の行動・嗜好に関する「ヒトデータ」を掛け合わせるFOODATAの仕組み(提供画像:伊藤忠商事)
ダッシュボード上では「モノデータ」と「ヒトデータ」を商品軸でデータ集計し、可視化して分析することができる(提供画像:伊藤忠商事)

HIP:そのなかから、たまにヒット商品が出れば御の字と。

塚田:はい。大量生産・大量消費の時代であれば、それで良かったのだと思います。新しい商品を一定のスピードで投入し、小売店の棚に並べれば、ある程度の確率で売れるものが出てきましたから。ただ、昨今はますます消費者ニーズの多様化が進み、開発担当者はターゲットニーズを的確にとらえた商品を短期間で市場に投入していくことが求められています。

勘と経験はもちろん大事ですが、それだけに頼っていては限界があるわけです。勘と経験だけでなく、そこにデータにもとづくエビデンスを加えて、裏付けのある商品開発をしていく必要があります。

HIP:その裏付けの部分をデータで補強するという意味で、「『勘と経験』の価値を最大化する」ツールなんですね。

橋本正有氏(以下、橋本):多くの食品会社では、企画は「マーケティング系」の担当者の方が担い、開発は白衣を着たいわゆる「理系」の方々が担当しています。この企画と開発のあいだで交わされるコミュニケーションでは、「もう少し塩味を加えて」「やや甘めに」といった形容詞が使われるケースがあります。すると結果として、イメージする試作品ができ上がるまでに、かなり時間がかかってしまっているというお話もよくうかがいました。

ですから、FOODATAに格納された味覚データなどのダッシュボードが、企画者と開発者の間をつなぐ「共通言語」となり、新商品開発の実現に少しでも貢献できたら、と思っています。

青木寛氏(以下、青木):また、取り扱うデータは、食品会社の開発担当者から意見をヒアリングしたうえで「本当に必要なもの」だけを厳選しました。開発段階では50社、約200名の食関連の開発担当者にお話をうかがっています。彼らは企画・開発のプロなので、そのぶん、使用する人が使いやすいものになっていると思いますし、情報を絞り込んでいるぶんコストも抑えることができています。

塚田:われわれとしては、とにかく企画・開発の現場担当者の方に、これを使っていただきたいんです。というのも、イチ担当者が斬新なアイデアをひらめいても、そのアイデアが斬新さを失わないまま商品化されることはまれです。社内の商品化決定プロセスの過程でさまざまな意見や調整が入って、最終的には最初のコンセプトがまったく反映されていない商品になってしまうことも少なくありません。

橋本:実際、食品メーカーの企画・開発の現場の方と話していて、「本当につくりたい商品って、なかなか通らないんですよね……。運よく商品化されたとしても、次は営業部署や取引先にそのコンセプトを理解してもらわないと、消費者に本当の良さが伝わっていかないので大変です。」と、ぼそっとおっしゃることもありましたね。

でも、本当に良い商品って、最も消費者に近い現場のイチ担当者の主観からこそ生まれるものではないかと。それを、信頼性の高いビッグデータを使って、新商品の必要性を裏付けできれば、企画に説得力をもたらすことができるはず。

商品企画・開発の担当者の方が、「本当につくりたい商品」を世に出すために、手間少なく説得力あるデータを抽出し、見やすくアウトプットできるのがFOODATAの強みだと考えています。

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