「Incubation Hub Conference 2014」では、ソニーでSAP(Sony Seed Acceleration Program)の推進に携わる新規事業創出部の田中章愛氏、ヤフージャパンの副社長/COOである川邊健太郎氏、メルカリの山田進太郎氏を交えたパネルディスカッションが行われた。モデレータは、WiLの松本真尚氏が務めた。
パネルディスカッションのために用意されたテーマは3つ。1点目は、日本とシリコンバレーの違いについて。2点目は、IT市場で起こりつつあるパラダイムシフトについて。3点目は、日本を起業大国へと変えていくために必要なこと。まず、1点目の「日本とシリコンバレー」についてベンチャーキャピタルの投資額の違いについて触れられた。
取材・文:HIP編集部
日本のベンチャーはシリコンバレーに追いつける
松本真尚(以下、松本):「日本とシリコンバレー」の関係には、興味深い数字があります。「3兆9,137億円 vs 684億円」前者は米国、後者は日本の数字で、2013Q3~2014Q2のベンチャーキャピタルの投資額です。こうした環境の中で、日本のベンチャーは戦っていかねばならない。そして、「43兆円 vs 9兆円」という数字。前者は、2000年以降に創業した米国の代表的なベンチャー11社の時価総額の合計です。後者は、現在の日本の代表的なベンチャー15社の時価総額の合計です。ここでも5倍近い開きがあります。次に紹介するのが、「40兆円 vs 89兆円」という数字。前者はGoogleの時価総額。後者は、トヨタ自動車やソフトバンクなど、東証一部トップテン企業の時価総額の合計です。Googleだけで、名だたる日本企業10社の半分に匹敵しています。北米に進出されている山田さんは、日本とシリコンバレーの環境の違いを感じますか?」
山田進太郎(以下、山田):「たしかに、シリコンバレーを訪れると、歴史の違いを感じます。イノベーション拠点としての歴史は、1939年に創業したヒューレット・パッカード、1955年に開設したショックレー半導体研究所などから始まりました。その後、大成功した企業から億万長者が何人も現れ、彼らがシリアルアントレプレナーや投資家となり、次々と新しい分野を開拓していった。こうしたサイクルが歴史に厚みを加え、現在の状況を生み出していると思います。しかし、最近は日本においても同じようなサイクルが生まれ始めており、起業家のレベルも上がってきました。日米の格差を埋めるには時間が必要ですが、おそらく10年後には日本のベンチャーを取り巻く環境も相当良くなると思います。」
松本:「なるほど。川邊さんはどのようにお考えですか?」
川邊健太郎(以下、川邊):「追いつけないことはない、と考えています。ヤフージャパン、ソフトバンクは、「爆速」を合言葉に、年々倍々の成長を目指しています。拡大解釈をして、アリババも含めましょう(笑)。ソフトバンクは同社の株式を持っているため、いわばグループです。それぞれ倍々に成長していけば、近いうちに時価総額100兆円も夢ではない。だから、追いつけないことはないです。」
松本:「田中さんはいかがでしょうか?」
田中章愛(以下、田中):「実は昨年1年間、研究員としてスタンフォード大学に留学しましたが、キャンパスのすぐ隣に、世界的ベンチャーのオフィスがあり、当たり前のように企業の方が構内を散歩している。そのような空気感の中で、学生とも気軽に交流し、アイデアや事業をブーストさせていました。シリコンバレーは、イノベーションを生み出す環境がコンパクトにまとまっており、かつ、良い意味での競争もあり、切磋琢磨しながら成長してきたのだと思います。一方、日本には「ベンチャー村」というか、意識の高い人たちがギュッと凝縮している場が少ないと感じており、それが日米の差につながっていると思います。」
日本を起業大国にしていくために必要なことは3つある
松本:「今後、日本を起業大国にしていくために必要なことは、次の3点に集約できると考えています。1点目は、大企業が保有するヒト・モノ・カネなど、様々なリソースを活用していくこと。2点目は、社会を挙げて日本発のメガベンチャーをプロデュースすること。3点目は、ベンチャースピリットの啓発・普及です。大企業のリソース活用という文脈では、SAP(Sony Seed Acceleration Program)は注目の事例だと思いますが、SAP(Sony Seed Acceleration Program)の今後の方向性について田中さんはどのようにお考えですか?
田中:「Sony Seed Acceleration Programを立ち上げた理由は、モノづくりを含め、これらを総合的に提供したいと考えたからです。社内外に関係なく、ユニークなアイデアを持つチームが、Sony Seed Acceleration Programというプラットフォームを活用してモノをつくり出す。ソニーは大企業のリソースを活用し、そのチームを世界デビューさせるべくプロデュースしていく。個人的には、こうしたビジョンを念頭に置いて活動しています。モノの場合、ソフトのように一瞬で世界に配信できないため、IoTが進んだとしても、量産・販売・アフターサポートなどの重要性は変わりません。こうした点についても、長年培ってきたノウハウ・仕組みを持つ大企業のインフラを活用することが有効だと思います。」
松本:「ハードウェアではなく、インターネットサービスを提供してきたヤフーにとって、「大企業のリソース活用」とはどのような可能性があるのでしょうか?」
川邊:ヤフージャパンがさらにイノベーティブになるという意味では、とにかく社内に小さなチームをたくさんつくり、とにかく権限委譲することでイノベーションを加速させる、これに尽きます。外部との結合という意味では、優れたベンチャーとのコラボレーションを数多く仕掛けることで、ヤフージャパン自身のイノベーションも加速できると思います。例えば、あるベンチャーでは資金がネックとなり、優れたノウハウや技術力を有する人が雇えないかもしれない。そうした時に、我々は社員の出向などを通じて総合的にサポートする。あるいは、現時点で4,000億円の貯金がありますから、それを使って優れたベンチャーを買収し、モノもヒトも交流させながら一緒に成長していく。こうしたことも、大企業のリソース活用に当たると思います。」