「起業家ファースト」での集中できる環境が、キャピタリストとの議論をより深化させる
HIP:次に『Incubate Camp』について、詳しくお話をうかがいたいと思います。今回で15回目となりますが、このプログラムが誕生した背景などお聞かせください。
南出:なぜ『Incubate Camp』が始まったかというと、2010年の誕生当初はスタートアップもVCも数が少なく、情報の非対称性がありました。
起業を目指している人に対してはどのように事業化していくかを、起業家に対してはどのように成長していくかを伝え、彼らの視座を上げることを目指して『Incubate Camp』を立ち上げたのです。スタートアップエコシステムの発展に寄与したいという思いは、いまも昔も変わらず持ち続けています。
HIP:『Incubate Camp』の特徴について教えてください。
南出:すでに北山さんと新田さんがお話ししてくれたことと重複しますが、実績あるVCのなかでも意思決定権があるエース級の方や各ファンドのパートナーになっている方など、レピュテーションが高いキャピタリストに、メンターとして参加してもらっている点は大きな特徴だと思います。
HIP:南出さんが本プログラムに関わるなかで、印象に残っているスタートアップはありますか。
南出:特に、毎年の『Incubate Camp』で総合3位までに入るスタートアップは、グロースしていると感じています。私が個人的に印象に残っているのは、TERASSという不動産領域のスタートアップです。
グロービス・キャピタル・パートナーズの今野さんと『Incubate Camp 13th』をとおしてペアとなり、その後ファイナンスも決まって3、4か月で一気に成長。売上も6〜10倍ほどの伸びを見せました。こんなに成長するのかと、正直驚きましたね。
HIP:今回の『Incubate Camp 15th』で、過去のプログラムとは違った工夫などはされたのですか。
南出:起業家ファーストでオペレーションを進めていくことに注力しました。その具体策として、今回の『Incubate Camp 15th』から起業家とキャピタリストのペアをサポートするメンバーを、当社(インキュベイトファンド)から1人つけるようにしました。
どうしてもメンタリングやディスカッションに集中してしまうため、議事録を取ることやピッチ資料のアップデートに手が回らなくなってしまう場合があります。それらを改善するため、当社メンバーがサポート役を担いました。
新田:あのサポートはとても助かりましたね。ただ手伝っていただくだけでなく、こちらが頭のなかで思っていることまで慮ったうえで親身に行動してくれて、心の支えにもなりました。ぜひこの体制は続けてほしいです。
新田:北山さんはいかがでしたか?
北山:資料作成を手伝ってくれたり、客観的な意見も言ってくれたりするので、私もとても助かりました。
南出:一方で、初めての試みだったこともあり、各担当のサポート内容の量と質に少なからずばらつきがでてしまったのは課題ですね。今後はサポートのクオリティが均等になるように標準化し、改善できればと思っています。
起業家とキャピタリストのやり取りに入り過ぎて邪魔になったら意味がないので、巻き取る部分は巻き取って、引くときは引くと、バランスを見てサポートしていければと考えています。
事業や技術と向き合うだけでは、成長できない。高いフェーズに進み続けるために必要なキャピタリストとの対話
HIP:起業家のお二人は『Incubate Camp』に参加し、ポジティブな刺激が多くあったと思います。そうしたことを踏まえ今後の事業における展望などを、お聞かせください。
北山:『Incubate Camp』をきっかけに、資金調達が動き始めました。多くのVCから声をかけてもらっています。メンターの手嶋さんと検討した事業戦略を実現させるために、エンジニアとセールス、カスタマーサクセスに力を入れ、人員を拡大させていきます。
HIP:次年度以降、『Incubate Camp』参加を検討しているスタートアップにアドバイスがあればぜひ。
北山:起業家は自分の事業に全力で向き合いますが、それだけだと考えが凝り固まってしまいます。私たちも事業領域に詳しくなり過ぎて、かえって柔軟に考えることができなくなっていたと感じます。
『Incubate Camp』でさまざまな知見・経験を持つキャピタリストからアドバイスがもらうことで、視座が上がりました。事業を成功させるには、何より行動していくことが大事だと思うので、その第一歩として次回の『Incubate Camp』に応募してみてはいかがでしょうか。
HIP:新田さんはいかがでしょうか?
新田:当社も資金と人を集めるフェーズに入ったのですが、『Incubate Camp』によってさらにドライブしています。こうしたプログラムの実績によって、キャピタリストから声をかけてもらうのはもちろん、採用でもレベルの高い人材が集まるようになりました。
当社のサービスをより広く知ってもらえれば、さらに資金を集めることができるでしょう。現状の事業のメインターゲットである医療業界は、安全性や運用ルールを非常に厳しく見られます。それに対応できるよう、まずは真正面から、しっかりと取り組んでいこうと思います。
今回は634件の応募の中から、16社に選ばれとても幸運でした。参加者のなかには2、3回と応募してやっと選ばれたスタートアップもいるので、応募を検討しているスタートアップには、まずは果敢に挑戦してほしいですね。