「21世紀は『都市の時代』」ーー多くの識者はそう語る。「国民国家の時代」、「グローバル企業の時代」を経て、やってきた「都市の時代」。人材も、企業も、魅力ある都市に集まり、そこで新たなイノベーションを生み出している。こうした流れは加速し続けており、都市が今後どう変化していくのかは非常に重要な課題だ。
2015年10月14日〜16日に開催された「Innovative City Forum」では、20年後の都市における私たちの暮らしに焦点をあて、さまざまなセッションが開催された。HIPでは、その中から2つのセッションを取り上げる。最初に紹介するのは、アート、テクノロジー、そして都市に関する世界の取組みをテーマにしたセッション、「英国Watershedが取り組んでいるPlayable City®の可能性と、東京での展開」だ。
Watershed クリエイティブディレクターのクレア・レディントン氏、Laboratory for Architectural Experiments(LAX)建築家のアンナ・グライペル氏、そして雑誌『WIRED』日本版 編集長の若林恵氏が登壇。ライゾマティクス クリエイティブ&テクニカルディレクターの齋藤精一氏がモデレータを務めた。
取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎
驚きや人間味が足りない都市を「Play(遊び)」で変えていく
英国で最もクリエイティブな都市のひとつと言われるようになったブリストルにあるメディアセンター「Watershed」。ここでは「Play(遊び)」をキーワードに都市の未来を考えるプロジェクト、「Playable City」を進めている。
「遊び」と都市の関係は、最近になって始まったものではない。2009年にフォルクスワーゲン・スウェーデン社が「The Fun Theory」というウェブサイトを公開し、都市を見る視点を「遊び」によって変えているさまざまな取り組みが紹介された。階段の利用者を増やすために、階段をピアノの鍵盤に見立て、登ると音が奏でられるようにしたユニークなプロジェクトで知られている。
Watershedでクリエイティブディレクターを務めているクレア・レディントン氏は、「The Fun Theory」の他にも「Playable」な事例をいくつか紹介。通勤時に滑り台を使う試みや、トランポリンを道路に設置したり、良い行動に対してグリーンカードを出すなど、さまざまだ。彼女はなぜ、都市にこうした遊びの要素が必要だと考えたのだろうか。
クレア「私たちは都市には驚きや人間味が足りないと考えています。そこで、都市に意外性をもたらすために、テクノロジーを用いてちょっとした冒険のような体験を人々に与えたいと考えているんです。」
Watershedが拠点としているのは、イギリス西部にある湾岸都市ブリストルだ。「リスクが負え、実験ができる街」とクレア氏が語るこの街で、Watershedはさまざまな「遊び」を実施してきた。街中に映る人々の影を使ったインスタレーション「Shadowing」、街にある巨大なクレーンが振付けされたダンスパフォーマンスを行う「Crane Dance Bristol」など、これまでに数々の作品が街の中で市民が参加できる形で披露された。スマートフォンを使って街中のさまざまな物と会話ができる「Hello Lamp Post」は、今年の六本木アートナイトでも実施されている。
Watershedが仕掛けるプロジェクトは街中で展開されるため、多くの人々が参加する。参加する人が増えれば、それだけ和を乱す人が入ってしまう可能性も増してしまう。だが、そんなリスクに対してクレア氏はこう語った。
クレア「たしかに、好ましくない振る舞いをしてしまう人もいます。ですが、クローズドなものにしてしまっては意味がありません。公共空間でのプロジェクトは、すべての人に対して開くことが大切なのです。」