なぜ世界のスタートアップが日本市場に注目するのか?
2月27日、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「Venture Café Global Gathering Tokyo ‘25」。世界15都市に拡がるVenture Caféのネットワークを中心に、世界中のエコシステムからさまざまな業界のエキスパート、選抜されたピッチ登壇者やパートナーが東京に集結。多様でインタラクティブなコンテンツを提供することで、グローバル規模で活躍するイノベーターや支援者たちが東京でつながる場を提供し、アジアのスタートアップシーンをリードする東京を世界に向けて発信する機会となった。
そのメインイベントとして、世界各地のベンチャーカフェで予選を勝ち抜いた起業家たちが東京でプレゼンテーションを行うピッチイベント「Pitch2Tokyo」が開催された。
今回HIPでは、ボストン(ケンブリッジ)とベルリンの代表として登壇した2人の起業家にインタビュー。それぞれの都市のスタートアップエコシステム、日本市場への期待、そしてグローバルで成功するためのヒントについてうかがった。
ボストンとベルリンから見た、日本市場とは?その特徴と魅力
- HIP編集部
(以下、HIP) - まず、お二人はそれぞれの都市でどんな事業を手掛けているのでしょうか?
- ライアン・マクノートン氏
(以下、ライアン) -
私はアメリカ、ボストンのすぐ隣のケンブリッジという都市で、MRI(※)の製造・販売を手掛けるスタートアップ「PriMetaz(プライメタズ)」を経営しています。
もともとボストンにはハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)など、世界的に有名な大学があり、気候変動対策、フィンテック、ライフサイエンスなどのスタートアップが集積しています。私の場合はボストン大学で機械工学の博士号を取得し、そこで生み出したテクノロジーをもとにいまの会社を起業しました。
※MRI:磁石と電波を使って体の断面を画像化する検査機器

- ニコラ・ミゾン氏
(以下、ニコラ) -
私はドイツのベルリンで、ゲーム×ファッションを軸にしたソーシャルプラットフォーム構築を手掛ける「VIZTA DGTL(ヴィズタ・デジタル)」というスタートアップを経営しています。
ベルリンはアート、ファッション、テック、ゲーミングなどのエキサイティングなプロジェクトが集まる都市です。才能あるデザイナーやクリエイターとコラボレーションする機会も多いですね。

- HIP
- お二人が今回、「Venture Café Global Gathering Tokyo ‘25(以下、グローバル・ギャザリング)」の「Pitch2Tokyo」に登壇したきっかけは何だったのでしょうか。
- ライアン
- 約2年前にボストン大学の研究所の方から、ケンブリッジにベンチャーカフェとCICという面白い場所があると聞いて、メンバー登録だけはしていたんです。ちょうど1か月ほど前に、たまたまベンチャーカフェからのメールを開いたら「Pitch2Tokyo」の案内を見つけて、これはチャンスだなと思って応募しました。実際に登壇したら優勝することができ、こうして日本に来ました。
- ニコラ
- 私もライアンさんと同じです。ベルリンのベンチャーカフェは、昨年(2024年)の後半にできたばかりで、その最初のイベントがこの「Pitch2Tokyo」の予選だったんです。それに応募して登壇したら優勝してしまい、とても驚きました。

- HIP
- 普通に考えると、ライアンさんならアメリカのほかの都市、ニコラさんならヨーロッパのほかの都市とのつながりをまずは優先するのではないかと思います。お二人にとって地理的に遠く離れた東京、そして日本のビジネスシーンはどう見えていますか。
- ニコラ
- たしかに距離は離れていますが、日本はゲーマー人口が多く、ファッションへの情熱もすごく高いですよね。私が試みているのは、かつての『セカンドライフ』のような仮想空間でのファッションを、ユーザー同士で競い合えるようなゲーム的要素を入れながら活性化させようというものです。一方で、近年問題になっているスマホ依存症に対処すべく、プレイ時間は20分ほどで一区切りできるようにするなど、完全な仮想空間で遊ぶのではなく現実とクロスさせていく方向性を目指しています。このようなプラットフォームのあり方は、日本のユーザーも興味を持ってくれるのではないかと思います。
- ライアン
- MRIの場合、アメリカと日本では市場のあり方が大きく違います。アメリカではGE、シーメンス、フィリップスなどが市場を占めています。一方、日本ではキヤノンや富士フイルムのシェアが圧倒的です。また、アメリカよりも日本のほうがMRIの使用頻度が高いんです。そういったユニークな日本市場の中身を知るためには、日本に来ていろいろな企業の方とつながることが重要だと考えました。

ボストン、ベルリンのスタートアップ・エコシステムの現状
- HIP
- お二人はボストン(ケンブリッジ)、ベルリンというそれぞれの都市で起業家として成長してきたと思います。それぞれの都市のスタートアップ・エコシステムはどういうものなのですか。
- ライアン
- ハーバードやMITはもちろん、私が学んだボストン大学でもカリキュラムのなかで起業家精神を養い、在学中に起業して働きながら経験を積むことが一般的になっています。ボストン全体で、大学をハブにして学生や企業が集まり、どんどんスタートアップが生み出されていく風土がありますね。

- ニコラ
- ベルリンの場合は、ボストンのようにシステムとしてできあがっているわけではないですね。ベルリンの人たちはハングリー精神が強く、オープンなマインドを持っているので、「こういうことをやりたい!」という人がいたら、「面白いね、一緒にやろうよ」という反応がすぐに返ってきます。良くも悪くも人の「パッション」が中心になっていて、政府の支援なども後からついてきます。普段はみんなバラバラでカオスな感じが強いけれど、「助けて」と言ったら助けてくれる人がたくさんいる感じですね。
