市場全体に影響を与えられるのは、大手ならではの強みだと思います。
HIP:大企業の子会社として設立されたクラフトビールメーカーとして、メリットを感じることはありますか?
吉野:優位という意識はあまりないですが、クラフトビール市場全体を活性化させることができるノウハウや技術を持っているのは、大手企業ならではの強みだと思います。ビールづくりはもちろん、ホップや麦芽といった原料の研究をしているスペシャリストがゴロゴロいますので、そういった知見の共有や共同開発などを通じて、ほかのクラフトブルワリーさんのお役にも立てるのではと感じています。
あと、これまではクラフトブルワリーが国産のホップを手に入れるのって難しかったんです。しかし、2015年から「FRESH HOP FEST」という活動を通じて、キリンビールが契約農家から購入している国産ホップを多くのブルワリーさんに解放することで、国産ホップを使ったビールづくりをしていただいています。このように、市場全体に貢献することは大手企業が行うべきだと思います。
HIP:かなり太っ腹ですね。
吉野:生物の多様性が進化をもたらすように、やっぱりビールもつくり手がたくさんいないと市場そのものが衰退していくと思うんですよ。そもそも国内に主要なビールメーカーが片手で数えられるほどしかないというのもおかしな話ですし。健全な競争ができれば、市場は自ずと活性化していきます。
それに大手メーカーとクラフトブルワリーは役割が違うと思っていて。私たちの役割は、消費者の間口を広げること。クラフトビールとしての個性がありながらも飲みやすいビールをつくることで、興味を持ってくれる人の数を増やすことにあると思うんです。それでももの足りなかったら、ぜひほかのクラフトブルワリーのビールも飲んでほしいです。
過去の成功体験に安住せず、それを糧にどんどん挑戦していきたいと思っています。
HIP:「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」の立ち上げからもうすぐ3年が経ちます。その月日のなかで自分たちの理想が実現しているという実感はありますか?
吉野:少しずつですがビールにもいろんな種類があることが知られてきた実感はあります。とはいえ、自分たちの理想が叶っているかと聞かれるとまだまだですね。私たちは「永遠に完成しないブルワリー」をテーマにしていて、過去の成功体験に安住せず、それを糧にどんどん挑戦していきたいと思っているんです。
HIP:そうしたSPRING VALLEY BREWERY TOKYOの活動は、キリンビール本社に影響を与えているんでしょうか?
吉野:ビールを面白いものにしていこうという流れが、徐々に社内に生まれてきましたね。もともと老舗で安定した大企業のイメージがあって、それが新入社員の雰囲気にも現れていたのですが、最近は「私もこういうことがしたい」と言ってくれる元気な若手が増えています。伝統ある企業で、新たな挑戦をしたいと考えてくれる人が増えるのは嬉しいですね。彼らの希望になれるよう、メーカーという枠にとらわれずこれからもビールの楽しさを広げていきたいですね。