INTERVIEW
「ICTへの置き換えだけではDXは成し得ない」。デジタルツイン構想が導く新時代のインフラ維持
河本賢一朗(株式会社NTTドコモ) / 田中利享(NTTコムウェア株式会社) / 川井晴至(インフロニア・ホールディングス株式会社)

INFORMATION

2023.08.07
取材・文:サナダユキタカ
写真:坂口愛弥

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全国の道路は老朽化が進み、それに伴う事故なども発生している。技術者が減少し、予算も限られるなか、生活の基盤となる道路の維持管理には課題が山積している状況だ。このような問題に対処するためにNTTドコモとNTTコムウェア、インフロニア・ホールディングスの3社が連携。「Digital Twin Road Management」構想を策定した。

これは、画像認識AIや統計解析などデジタル技術を駆使しながらDX化を推進し、道路の維持管理の最適化や地方創生にも貢献する、新しい道路運営の経営管理モデルだ。2022年12月には知多半島道路などにおいて実証実験を行ない、今後さらなる展開を検討している。

実証実験までの道のり、得られた結果から見えた将来像を本プロジェクトの中心メンバーであるNTTドコモ・河本氏、NTTコムウェア・田中氏、インフロニア・ホールディングス・川井氏にうかがった。

道路管理にはヒト・モノ・カネが決定的に不足している

HIP編集部
(以下、HIP)

「Digital Twin Road Management構想」(以下、DTRM構想)は、通信事業を手がけるNTTドコモとNTTコムウェア、道路運営も手がけるインフロニア・ホールディングス3社による共創になります。DTRM構想は、日本の道路インフラの維持・管理を目的に立ち上げられたプロジェクトですが、まずは日本の道路の問題点についてお聞かせください。

川井晴至氏
(以下、川井)

日本国内の道路の多くは高度経済成長期につくられており、メンテナンスは主に自治体が行なってきました。しかし、メンテナンスを担う技術者はじめ「ヒト・モノ・カネ」が不足し、持続可能性を確保することが難しくなっている点が大きな問題となっています。

インフラの資産状況(劣化状況)を正確に評価できていないため、長寿命化計画を策定している橋梁や下水道などを除けば、将来の長期にわたる維持管理・更新費用を技術的根拠(科学的根拠)に基づいて定量的に把握できていないのです。

インフロニア・ホールディングス 総合インフラサービス戦略部 インフラサービス改革室長の川井晴至氏
HIP

デジタルの力を駆使しながら、そのような問題に挑むDTRM構想ですが、3社の座組みに関してはどのような流れで決まっていったのでしょうか?

河本賢一朗氏
(以下、河本)

2年ほど前に、インフロニア・ホールディングスの川井さんと何か新しい取り組みを進めていこうと意見交換をしたのが、そもそもの始まりです。当時は、「DXで老朽化していく道路などの維持管理を変革できればいいよね」と話していました。

NTTドコモ クロステック開発部 都市デザイン技術開発担当 担当部長の河本賢一朗氏
田中利享氏
(以下、田中)

NTTコムウェアでは、本事業以外でも道路などのインフラに関連するサービスを手がけています。NTTドコモの河本さんとは、以前にも別の事業を一緒に進めたことがあり、声をかけていただきました。

NTTコムウェア ビジネスイノベーションソリューション部 第1ソリューション部門長の田中利享氏
HIP

2年前ほどから3社が集まり、話を進めていたのですね。DTRM構想において、NTTドコモは、プロジェクトマネジメント・技術開発・マーケティングを、NTTコムウェアはソリューションの企画開発を担い、インフロニア・ホールディングスはエンジニアリングを担当しているとうかがっています。

河本

NTTドコモとしては自分たちがもつ技術を活用し、たとえば道路管理のコールセンター業務の一部を自動化することでコスト削減を図ろうと考えました。

しかし、川井さんに話をうかがうと、人間の仕事を完全にAIなどに置き換えることは難しいため、コスト削減も中途半端になってしまい大きなメリットはないだろう、と。最初の半年はこのような議論を重ね、なかなか出口が見えず苦しい時期が続きました。

答えは「デジタルツイン」にあった

田中

NTTコムウェアでは2018年から道路点検AIの商用事業に取り組んでいましたが、当社の本業は通信。道路などのインフラ分野に関しては、新規参入の事業者だったのです。

そのなかで、道路管理のDX化が遅々として進まない現状を見て歯痒さもありましたが、私たち外部の人間からはわからない業界の習慣やルールなどさまざまな理由や制約が絡み合っています。半年間の議論のなかで、川井さんからそうした業界課題の構造や本質をたっぷり聞くことができました。

また、道路点検はAIが比較的活用しやすい業務なのですが、道路事業全体から見るとほんの一部に過ぎず、事業へのインパクトが弱いのです。そこで、3社の連携によって、もっと社会全体に広がりのあることや事業全体を変革させることを考えていきました。

河本

そうした議論を進めていく中で、川井さんがあるときから「道路管理の業務フロー全体をデータに置き換えて、全工程にデータを行き届かせていくのはどうか?」と提案してくれたのです。

つまり、交通量など必要なデータを収集した上でデジタル空間に現実と同じもう1つの道路をつくり、路面の劣化などを予測。そうすることによって「ヒト・モノ・カネ」を最適化して修繕計画を立てられるため、道路の維持管理にかかるコストを最小化できます。こうして、プロジェクトに「Digital Twin Road Management構想」という名前がつきました。

DTRM構想はいかに課題を解決するか?

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