「動きが遅い」というイメージを払拭したい。信頼を得るための行動とは
HIP:海外のスタートアップと協業するうえで、大変だったことはありますか?
清藤:海外では「ドコモ」と言っても通じない。そこが国内との大きな違いだと思います。話を聞いてもらう機会を得ても、基本的に「テレコム会社って動き遅いよね」というマイナスの反応なんですよ。「大丈夫なの? 組んだとして本当に動いてくれるの?」といった疑いの目を向けられることが多いですね。
石川:ドコモ傘下のCVCであるDOCOMO Capitalが2005年から、その株式会社ドコモ・イノベーションベンチャーズ(現NTTドコモ・ベンチャーズ)が2013年から現地で投資を行ってきましたが、それでも知名度は高くありません。ですから、どの企業に声をかけるにしても、まずはドコモがどういう会社で、何ができるのかをアピールするところからのスタートです。
HIP:新規事業をつくる以前に、そもそも協業に至るまでのハードルが高いと。
清藤:はい。Otter.aiにお声がけしたときも、当初は懐疑的な反応でした。「あなたたちは何ができるの?」と。
HIP:そこから、いかに信頼関係を築いていったのでしょうか?
清藤:我々と組むメリットや日本市場の魅力、可能性を丁寧に説明することはもちろん、先方からの問いに対し、なるべく早くデータを分析してフィードバックするなど、話を進めるスピード感も重視しました。
さらに、弊社の事業部長がシリコンバレーを訪問する際は、無理やりスケジュールを調整してもらい、先方のCEOに会ってもらうようにしていましたね。決裁権を持つ人が同じ思いを持っていると示すには、直接話すのが一番だろうと。スピード感と信頼感の醸成、このふたつに力を入れて、先方を説得していきました。
現地での「失敗」が活きた。会社とスタートアップの橋渡し役が務まる理由
HIP:シリコンバレーのスピード感に合わせるためには、社内の理解も必要だったと思います。何か工夫はされましたか?
原:ドコモは以前から、シリコンバレーでベンチャー投資やオープンイノベーションに取り組んできました。その活動のなかで、現地の作法や文化を社内にフィードバックする取り組みも行っています。そこでのさまざまな失敗に学びながら、オープンイノベーションを実現させる術を習得していった。海外での経験と国内における新規事業開発の経験がうまく結合して、シナジーを生み出せたせたのです。
また、そうした経験を持つ者が中心となって構成されたイノベーション統括部が、スタートアップと会社をつなぐ「接合面」になれたことは、協業がうまくいった理由のひとつだと考えています。
HIP:パートナーと社内をつなぐ専任の部署がうまく機能したと。
石川:そう思います。大企業では、それぞれの事業部がスタートアップと直接、協業することも多いですよね。その場合、ノウハウの蓄積がなかったり、既存のビジネスを進行させながら新規事業を立ち上げているとリソースが足りなかったりで、頓挫してしまうケースは少なくありません。事業部とスタートアップを接続する前のクッション役として、イノベーション統括部のような部署が新規事業創出には必要だと考えています。
近い将来、言語の壁はなくなる。Otter×ドコモが描く未来とは
HIP:最後にOtterとの協業でドコモが実現したい未来像を教えていただけますか。
清藤:ひとつは、英語を学ぶ必要がない未来を実現したいですね。Otter.aiとドコモの技術をかけ合わせることで、通訳なしでのコミュニケーションが近い将来、成立するかもしれません。いまは英語を話せることは人材にとってひとつのアドバンテージですが、言語の壁がなくなることで「どういう戦略を描ける人間か」「どういう営業ができるのか」など、より創造的な能力が重視される世界になると思っています。
石川:また、会話や会議の音声がデジタル化されることで、口頭のコミュニケーションもデータとして扱うことが可能になります。例えばすべての会議のテキストデータをもとに、誰がどれくらい発言し、貢献しているかを数値化するようなことができるかもしれない。
いまは英語のみですが、将来的に日本語にも対応し、それこそ日本中の会議室の会話をテキスト化することができれば、膨大なデータが集まる。分析できるデータが増えることで、顧客企業の戦略に活かしたり、新しいナレッジを生み出すことに活用したり、できることの可能性も大きく広がると考えています。
HIP:緊急事態宣言下でリモートワークが広がりましたが、「Otter」のようなサービスはリモートワークとの親和性も高そうですね。
原:そうですね。会議も遠隔で行うことが増えましたよね。「Otter」でもZOOMと連携して、オンライン会議での発言をリアルタイムで文字に起こすなどの機能を搭載し、新しいワークスタイルに対応した動きを始めています。リモートワークでは特に、すべてのビジネスプロセスがデジタル化されるため、「Otter」のようなツールの需要増大が見込まれる。私たちも進化のスピードを上げて対応していかなければならないと考えています。
HIP:新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を鑑み、新規事業を縮小する会社も出てくると思います。ドコモとしては、これからも変わらず事業を推進されていくのでしょうか?
原:もちろん身の丈を超えない範囲で、というのが前提ですが、活動は継続していきます。先ほど申し上げたように、今後も我々はデジタル世界をリアル世界へ融合させることで新しいサービスを生み出し、社会課題を解決していきます。そのために、未来への投資は続けていくべきだと考えています。今後もOtter.aiだけではなく、国内外のさまざまなプレイヤーと協業を模索していきたいですね。