INTERVIEW
日テレ入社後、ビジネス経験ゼロから社長に。VTuber会社を率いる28歳の挑戦
大井基行(株式会社ClaN Entertainment代表取締役社長)

INFORMATION

2023.02.28

SHARE

もはや「動画」がテレビだけのものではなくなったいま、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)はテレビの枠を超えた、新たなエンターテイメントを生み出そうとしている。

日本テレビは、2018年に新規事業として立ち上げたVTuber事業「V-Clan」をスピンアウトし、2022年に株式会社ClaN Entertainmentを設立。新会社の社長に就任したのは、日本テレビに新卒入社後、わずか2年目にして本事業を立ち上げた28歳の大井基行氏だ。

開局70周年を迎える日本テレビが、なぜVTuberを軸にした新規事業に挑んだのか。また、どのようにして新規事業をグロースさせたのだろうか。若き起業家に新規事業を推進するためのノウハウから未来のビジョンまで、話をうかがった。


取材・文:サナダユキタカ 写真:坂口愛弥

入社したときから新規事業立ち上げを狙っていた

HIP編集部(以下、HIP):大井さんは2017年、日本テレビに新卒で入社し、2018年6月にはVTuberを軸とした新規事業を立ち上げました。テレビ局が手がける事業として非常にユニークだと感じます。まずは、VTuberに注目されたきっかけについてお聞かせください。

大井基行氏(以下、大井):入社した当初から、YouTube関連の新規事業を立ち上げようと考えていたんです。2017年11月ごろにバーチャルYouTuber(VTuber)のキズナアイの動画を見たのが、興味を持ったきっかけですね。

その動画ではキズナアイが体力測定をしており、真っ白な空間で彼女が腹筋や反復横跳びをしていました。キズナアイがかわいいというよりも、真っ白な空間のなかでイキイキとしている姿がとても衝撃的で。彼女のようなVTuberがYouTubeという枠を飛び越えて、新しいエンタメのジャンルになり得ると感じました。

ClaN Entertainment代表取締役社長の大井基行氏。2017年に日本テレビ放送網に入社、2018年に社内ベンチャーとしてVTuber事業「V-Clan」を立ち上げ、責任者として事業運営を行なう。2022年4月から現職
動画『体力測定をやってみる!』(「A.I.Channel」より)。2017年当時は「VTuber」という言葉が浸透しておらず、「バーチャルYouTuber」と呼んでいた

HIP:入社当初から新たな事業の立ち上げを考えていたということですが、事業立ち上げまではどのようなキャリアを歩まれたのですか。

大井:新卒入社後、半年間の研修を経て2017年10月に営業局に配属になりましたが、すでにそのタイミングで新規事業の立ち上げを考えていました。

しかし、当時は新規事業立ち上げを専門に扱う部署がなかったため、社内のどこに声を掛ければよいのか分からなかった。それなら、新規事業を立ち上げられる環境を自分でつくろうと、まずは企画を出すことから始めました。専門部署こそありませんでしたが、社長室が新規事業を募集していたので企画書を提出しました。

いまでこそ日本テレビには10程度の新規事業がありますが、私が入社した2017年にはまだ2、3ほどしかない状態。さらに自分のような若手社員が新規事業を企画するのも、社内では初めてのことだったと思います。

テレビ局のビジネスは「放送」だけじゃない

HIP:なぜ、入社当時から、新規事業を立ち上げたいという思いがあったのでしょうか。

大井:アメリカに留学していた経験も大きいのですが、就職活動の準備をしていた2015年はNetflixが日本上陸した年で、「動画配信元年」といわれるようなタイミングでした。動画配信サービスがあたり前になるなかで、新規事業としてそれをテレビ局がやるのは面白いですし、可能性があると感じていたのです。

テレビ局のビジネスモデルを調べてみると、じつは放送事業だけを行なっているわけではないこともわかりました。イベントの開催や映画製作など多種多様な事業を手がけており、とくに日本テレビは2014年にHuluジャパンを買収するなど、まさに「総合エンターテイメント企業」だと思っています。

こうした挑戦的な企業であるならば、テレビという枠を超えたビジネスに挑戦できるなと。このひらめきが私のなかでは、新規事業の第一歩だったのです。

経験ゼロで新規事業案をとおした戦い方

HIP:新規事業の企画がとおり、2018年に社内ベンチャーとしてVTuber事業「V-Clan」が立ち上がりました。当時、大井さんは入社して2年目でしたが、どのように事業を企画し、会社へと提案したのでしょうか。工夫したことなどを教えてください。

大井:工夫したことは2点あり、1つは社内の自分の立ち位置を理解すること。もう1つは提案にストーリー性を出すことです。当時は日本テレビも変革期で、新しいことにチャレンジするタイミングでした。そうしたときだったからこそ、私のような実績も経験もない若者だから言えることがあったのです。

新規事業を企画していたころ、周囲の社員もYouTubeのマーケットが伸びていることを知っていましたが、その制作メソッドを知っている人はテレビ局にはほとんどいなかった。ましてやVTuberの知識を持っている人などいません。

社内に専門家がいないなかで若者をターゲットにした企画を、同世代の新入社員自らが提案するというストーリーは納得感がありますよね。それが最大のポイントだったと思います。自分にしかできず、世の中にニーズがある新規事業を見つけることが重要だったのです。

HIP:担当者の熱量と覚悟がどれだけあるかが重要だと。

大井:これは20代ならではの戦い方だったかもしれませんが、スキルや知識、経験が不足しているのであれば、熱量で勝負するしかありません。

成果が出ないと、社内で白い目で見られることもありますが、熱量と覚悟で周りを巻き込みながらチャンスをつかんでいく。新規事業を立ち上げて5年が経ちますが、それは強く実感しています。

数千回もの名刺交換……。泥臭い方法で前人未到のジャンルを開拓

次のページを見る

SHARE

お問い合わせ

HIPでの取材や
お問い合わせは、
下記より
お問い合わせフォームにアクセスしてください。

SNSにて最新情報配信中

HIPでは随時、FacebookやWebサイトを通して
情報発信をいたします。
ぜひフォローしてください。