「空飛ぶクルマ」実現へ。イノベーション集団・CARTIVATORとは?
中村翼(有志団体CARTIVATOR共同代表)
2021.01.07

会長に直談判! ラストチャンスで掴んだ大きなサポート

HIP:「空飛ぶクルマ」を開発するためには、資金集めの苦労もあったのではないでしょうか。

中村:最初は自腹で小型のデモ機をつくるなどしていましたが、さすがに本物の空飛ぶクルマをつくるとなると……。クラウドファンディングもやりましたが、数千万円単位のお金はとても集められません。

また、お金の問題だけでなく、2016年頃から競合の動きも加速していて、一刻も早くやらないと間に合わないという焦りもありました。そこで、あらためて企画書を練り直し、トヨタ社内のあちこちにプレゼンして回ったんです。しかし、面白いとは言ってもらえるものの、どこにも受け取ってもらえませんでした。

HIP:なにが一番の壁だったのでしょうか?

中村:既存の部署で、このようなプロジェクトを受け止めるところはないですし、新規事業部門は「車以外」のビジネスを立ち上げるのがミッションであるため難しいということでした。

それで、もう会社をやめるつもりでいたときに、たまたまトヨタで未来に向けた研究開発をしている部門のトップの人と知り合うことができたんです。新規事業よりも、もっと長い時間軸で未来を思考するような部門長だった人です。

その方にこれまでの経緯を話したところ、会長とつないでいただき、本当に最後のチャンスとしてプレゼンする機会を得ました。その方が会長と直接のパイプを持っていて、30分だけ時間をもらえることになったんです。

HIP:一社員が会長に直接プレゼンできるなんて、普通は考えられないことですよね?

中村:考えられないですね。ただ、その部門長の方が本当に尽力してくださったんです。ご自身もかつて、同じように上の人からチャンスをもらったことがあり、「今度は自分の番だと思った」とおっしゃっていました。本当に感謝しきれません。

とはいえ、現状の企画書では通らないと考え、3か月かけて練り直しました。さらに、さまざまな人の手をお借りしながら実際に動くデモ機もつくり、ラストチャンスにかけました。『東京オリンピック』の開会式で空飛ぶクルマをお披露目したい、そのために10億円を支援してくださいと。

そして、2017年5月にトヨタのグループ会社15社からの協賛金というかたちでCARTIVATOR に4,250万円の支援をいただけることになったんです。また、私自身は大学にも所属して、空飛ぶクルマの研究に没頭できる自由を与えられました。

HIP:トヨタに所属しつつ、研究に専念できる環境を手にいれたわけですね。なぜ認められたのだと思いますか?

中村:2つあると思っています。1つはこれが通らなければ「会社を辞める覚悟」を持っていたこと。要はそれくらい「本気でやりたい」と思っていたということですね。また、もう1つは実際にプロトタイプをつくったこと。企画書だけではなくモノを見てもらったことで、やはり本気度が伝わったのではないでしょうか。

HIP:活動資金の支援が決まって、大きく変わったことはありますか?

中村:それまでCARTIVATORのメンバーは20〜30人ほど。そのうちコアに活動するのは10人程度でしたが、トヨタグループの支援を受けることが決まり日本経済新聞の一面にも掲載されたことで、参加希望の問合せが殺到しました。

1〜2か月のあいだに200人くらいの応募をいただきましたね。業種、職種の幅が広がったのもこのときからです。たとえば、広告代理店のメンバーが加わったことで、プレスリリースの効果的な打ち方など、PR戦略面も強化されたと思います。

CARTIVATORは「メンバーがやりたいこと」を叶える場所

HIP:先ほど、CARTIVATORとSkyDriveで役割を分けているというお話しがありました。それぞれに参加するメンバーの目的やモチベーションも、違いがあるのでしょうか?

中村:そうですね。CARTIVATORに参加する目的はメンバーによりさまざまですが、「純粋にやりたいことを追求したい」という思いは共通しているように感じます。会社ではなかなか自由にやりたいことはできないなか、大人の放課後活動のようなかたちで自己実現の場を求めているのだと思います。

ですから、メンバーがやりたいことに関しては、基本的に受け入れます。ただ、なんでもかんでも予算を投入するわけにはいきませんので、ある程度の芽が出るまでは各々が手弁当で取り組み、対外的にもその意義を説明できる段階になったら外に打ち出していくといった流れにしています。

HIP:その時々の意思決定は、誰がどのように行っているのでしょうか?

中村:最後は私も含めた共同代表が決めますが、基本的にCARTIVATORは上下関係のないフラットな組織です。私がなにかを決めるにしても即断即決ではなく、メンバーみんなの意見をじっくりと聞き、ディスカッションを重ねます。

会社のようにトップダウンでなにかを決めるのではなく、メンバー皆がボトムアップでアイデアを固めていき、最後の最後で代表が世の中に発信していくといったイメージですね。あくまで有志の活動ですから、1人のリーダーが命令関係で引っ張ったり、上下関係を設けたりすること自体が馴染まないんです。

HIP:ただ、あくまで有志の活動であり「仕事」ではない。となると、目算どおりに進まないこともあるのでは?

中村:おっしゃるとおり、みんな本業がありますので、CARTIVATORだけにかかりきりというわけにはいきません。アサインされた人が本業が忙しくてなかなか動けず、スケジュールどおりに物事が進まないこともあります。

それでも、プロジェクトの進捗はコアメンバーで共有しているので、その時々で手の空いている人が補完し、期日までに間に合わせています。文化祭の準備の追い込みのようなノリで、自身の業務範囲を超えて自然発生的にサポートする人が出てきて、不思議となんとかなっている感じですね。

また、CARTIVATORは企業のレギュレーションに縛られず、未来に向けて新しいことを模索できる場でもあります。自己実現という側面だけでなく、ここから新しいモノやビジネスの種を生み出したいという思いもメンバーのモチベーションになっています。

HIP:たしかに、メンバーそれぞれのモチベーションが高いからこそ、成り立つ仕組みですよね。

中村:そう思います。ですから、CARTIVATORはあくまで、メンバーがやりたいことを叶えられる場所でありたいと考えています。ただ、投資家から出資を受けて事業化を目指すとなると、ビジネスの都合が介在し、なかなか個々の思いだけを優先することはできない。

2018年にSkyDriveを設立したのは、その思いを潰さないようにするためです。空飛ぶクルマの機体開発や事業化はSkyDriveが担い、これまでのような部活動的なものは引き続きCARTIVATORでやっていこうと役割を分けたんです。これなら副業が禁止されているメンバーも引き続きCARTIVATORに参加できますし、SkyDriveも事業化のスピードを加速させることができますから。

世界中の若者の「第一歩」を後押ししたい

HIP:空飛ぶクルマが実現した場合、社会にどのような価値が生まれるでしょうか?

中村:空飛ぶクルマの事業化についてはSkyDriveが進めていますが、ぼくも慶應義塾大学の空飛ぶクルマラボで引き続き研究を続けています。世の中に役立つためにどんなかたちで社会実装するのが望ましいのか、ビジョンを描いているんです。

究極の理想は、道が舗装されていないような場所に移動手段を提供すること。生活水を運ぶために何時間もかかっている新興国の暮らしを、空飛ぶクルマで手助けできるかもしれません。

また、国内でもたとえば救急救命に役立てられると思います。ドクターヘリは運航費用が1機で年間数億円とかさんでおり、高齢化社会によって出動回数が増えれば自治体の財政を圧迫します。そこでも低コストで運用できる空飛ぶクルマが活躍するはずです。ビジネスや都市部の渋滞回避という目線だけでなく、そうした社会的な意義についても引き続き考えていきたいですね。

HIP:では、CARTIVATORとしての今後の展望もお聞かせください。

中村:最初に少しお話ししたとおり、「未来へのタイムマシン」をテーマに、未来の生活を体験できる仕組みづくりをしていきます。具体的にはまず第一弾として、2021年7月に「FLEX(Future Life Experience)Park Tokyo」という、未来生活体験ができるテーマパークをつくりたい。そこで空飛ぶクルマのバーチャル体験をはじめ、さまざまな角度から未来の暮らしを五感で体験できるコンテンツを用意したいと考えています。

まだアイデアの段階ですが、たとえば「超人スポーツ」のように、テクノロジーによって人間の能力を拡張させるといった考え方を日常にも取り入れてみたらどうなるか。あるいは、自分の人生選択において、現状の延長とは違う道を選んだ場合の「パラレルワールド」を体験できるコンテンツなども面白いと思います。

夢を諦めかけていたけど、もしそれを追ってみたらどうなるのか。そういったことを仮想体験することで「いまからでも遅くない」というメッセージを届けられたらいいですね。

HIP:面白いですね。まさに「次世代の人たちに夢を提供」することができそうです。2021年7月の「FLEX Park Tokyo」はどこに開設される予定ですか?

中村:2020年11月から入居させていただいている虎ノ門ヒルズのCIC Tokyoです。ここには多くのスタートアップが集まっていますので、まずはここで入居者や来場者の方向けに発信をすることが、その先の面白い展開につながっていくんじゃないかと考えています。

その後、2023年までには「未来のタイムマシン」のコンテンツをどんどんと増やし、それを世界10拠点で体験できるようにしたいです。そして、世界中の若手ビジネスパーソンにどんどん参加してほしい。

大企業の若手社員と話をすると「やりたいことがあって入社したのに、上司に提案してもまるで響かない」という声をよく聞きます。そうした、なにか新しいことをやりたくてうずうずしている若い人は、日本に限らず世界中にもいます。彼・彼女らが夢に向かって一歩を踏み出す、その後押しができるようなコンテンツを提供できたらと思いますし、仲間に加わってもらえたら嬉しいです。

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中村翼(有志団体CARTIVATOR共同代表)

慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中はレーシングカー製作のサークルに所属。トヨタ自動車株式会社に就職後、2012年にビジネスコンテストで「オーダーメイドの小型電気自動車」の企画で優勝。その経験をきっかけに、「空飛ぶクルマ・SkyDrive」の開発に着手。有志団体CARTIVATORを設立し、2020年8月に株式会社SkyDriveとともに日本初の有人飛行に成功。トヨタ自動車は2018年に退職し、現在は慶應義塾大学大学院・空飛ぶクルマラボにて特任助教を務めながら、起業家として活動している。

http://cartivator.com/

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