既存の壁を壊して突き抜ける。そうしたマインドを醸成することが本当に重要だと考えています。
HIP:運営サイドが強いリーダーシップでリーグ全体を牽引している構図がいまのお話からもよくわかります。リーグ全体の収益を各クラブへ分配するときのルールも方針が明確ですよね。これまでは勝敗に応じて配分金が決まっていましたが、Bリーグでは観客動員数に応じて決定しています。
葦原:世界的に見ても、相当珍しいんじゃないでしょうか。Bリーグは基本方針として勝敗ではなく入場者数を大切にしているんです。あるチームが一時期勝ち続けたとしても、長い目で見たらリーグ全体の底上げにはなりません。「われわれは勝敗じゃないぞ、お客さんに入ってもらえるかどうかだ」というのは各チームに対して最初から言い続けています。リーグ全体の収益を支えるのは強いチームよりも、集客力のあるチームですから、配分金も集客力のあるチームに比重を置いているんです。
HIP:配分金の基準について、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?
葦原:Bリーグのチケットを購入するには、先ほどのスマホアプリのほかに、各クラブチームの公式WEBサイトに設置されたチケット購入ページがあります。クラブごとの集客力を重視しているので、後者から購入されたチケットには少し配分金を増やしています。また、SNSも重要視しているので「各クラブの公式アカウントのフォロワー数が増えたら少し上乗せする」というように設定しています。このように配分金を決める基準が8項目あるんです。
HIP:なるほど、運営方針をしっかり金額に反映しているわけですね。リーグ全体として強いポリシーを打ち出すなか、各クラブからも話題作りのために自発的な動きが多い印象です。
葦原:嬉しい状況です。Bリーグでは「BREAK THE BORDER」というスローガンがあります。既存の延長線上で考えず、壁を壊して突き抜ける。そうしたマインドを醸成することが本当に重要だと考えているので、各チームがいろいろいと新しいことを始めているのは楽しみですね。
勝敗と入場者数は、じつは統計的にあまり相関性が高くないんです。
HIP:Bリーグの収益化のための課題について聞かせてください。将来的に1万人を収容できるアリーナが全国各地にある状況をつくりたいといわれておりました。現状の平均の観客動員数は3,000人弱ですが、ここからどのように動員数を増やしていくのでしょうか?
葦原:その目標については、楽観的に捉えています。入場者数を伸ばすというのは、スクワットみたいなものだと思っています。何度も繰り返すことで足腰を鍛えていくのと同じように、10%規模の成長を何年続けていけるかが重要なんです。
葦原:われわれは、2020年までにB1リーグで250万人ほどの動員を目標にしています。それは試合会場でいえば、ほぼ毎試合が満員という状況です。でもそれって、毎年12%ずつ動員が伸びていけば届く数字なんですね。
一時的なバスケットボールブームをつくっても意味がありません。毎年の伸長のためにデータベースのナレッジをシェアして、どうやったら観客に来てもらえるのか、コツコツ考え続けていくことが大事なんです。だから1万人アリーナにしても、むしろいまからどんどん準備していかないと間に合わないんですよ。
HIP:Bリーグの行うデジタルマーケティング施策は、データを通してファンと向き合い、コツコツと積み重ねていく、息の長い変革なんですね。ちなみに「動員を増やすためにスター選手の育成を」といった論調もありますがいかがでしょうか?
葦原:まず、勝敗と観客数は、じつは統計的にあまり相関性が高くないんです。NBAの市場規模が1兆円を超えた要因も常勝チームやスター選手が増えたからということではありません。彼らの存在が動員につながった面はないとは言いませんがそれだけではないです。
スポーツビジネスには、「競技としての普及」「強化」「事業」という3つの側面がありますが、これまでの日本では、「人気を促して競技者を増やす(普及)→レベルが上がる(強化)→オリンピックに出てビジネスとしても成功する(事業)」というモデルが一般的だったと思います。
しかしぼくは「それは違う、逆だ」とずっと言い続けています。まず事業の成功を意識し、生まれた収益を強化に充てたほうが確実だし、スピードも速い、と。そうすれば、ビジネスを起点とした良い循環が生まれ、結果的に日本のバスケットボールの競技レベルも向上していくはずです。
HIP:それをBリーグで実践しているわけですね。
葦原:すでにBリーグでは、元気な学生プレイヤーが何人も出てきていて、ぼくも期待しています。そうした選手たちに成長機会を与えるためにも、デジタルマーケティングを中心にとしたより良いリーグづくりを行なっていきたいですね。