新たなファンの心を掴むためには、SNSで良いプレーを見かけたら、その場でチケットを買えるシステムが必要です。
HIP:Bリーグのスマホアプリはとてもよくできていますよね。チケットを簡単に購入できるのはもちろん、試合会場にもストレスなく入場できる仕組みになっています。試合終了後もハイライト映像やプレーに関するデータが配信されたり、充実しています。
葦原:事前に行った調査で、「1人観戦より集団観戦型」「スマホで情報収集する」「SNSでのシェア志向」という結果が得られていたので、「スマホファースト」の施策には成功の確信を抱いていました。もしもSNSでプレーの動画を見てテンションが上がったら、そのままチケットを買えなければなりません。スマホのみで興味を喚起し、購買から体験共有までのサイクルが完結するというシステムを一貫して目指しています。
HIP:スマホアプリを導入したメリットは他にもありますか?
葦原:デジタルマーケティングを推進している理由でもあるんですが、リーグ収益化のために「どれだけスタジアムに足を運んでもらえるか」を重視しているんですね。そのために、試合の前後を含めて、顧客体験の向上させていこうとしているんです。それを分析するためにも、データ化、スマホでのアプローチを戦略的に取組んでいるんですね。
このシステムのなかでは、観戦に来てくださった皆さんがどのような属性を持っていて、どんなグッズを買ってくださっているのかなどのデータを紐づけして把握することができる。顧客関係管理、いわゆるCRM(Customer Relationship Management)の統一プラットフォームの役割を果たしているんです。
葦原:日本のスポーツ界ではあまり普及していませんが、こうしたデジタルプラットフォームはファンにとって便利であるのと同時に、運営側もファンのニーズを把握して、さまざまな施策にフィードバックできるという利点があります。たとえば、広告を掲載するスポンサーの方に対しても、より正確な効果測定データを提供するできるんです。2016年9月の開幕までにシステムを完成させるにはギリギリのスケジュールでしたが、何とか無事に間に合って良かったです(笑)。
試合を観るだけだった人が競技を始めたり、プレイヤーの人が観戦にきたり、ということを頻繁に起こしていきたい。
HIP:開幕戦のみならず、2017年1月に行われたオールスター戦『ALL STAR WEEKEND 2017』も話題を呼びました。
葦原:初めてチケットを購入した人が約40%、バスケ未経験者が約30%という調査結果だったのですが、これは期待以上の数字でした。じつはBリーグのマーケティングはコアなファンに意識を向けているんです。その理由としては、毎試合に足を運んでいただける方が多いというのもありますが、同時にライトファンを増やすためでもあるんです。
HIP:どうしてコアなファンに意識を向けることが、ライトファンの獲得につながるのですか?
葦原:ライトファンのチケット購買データを参照すると、コアなファンに誘われて試合を観に来たという方が多いんですよ。となると、新規顧客獲得のためにライトファンの属性を分析するよりも、「コアファンがどうしたら人に薦めたくなるのか?」というメカニズムを考えるほうが、よほど重要なわけです。
いまはこの「誘いたくなるメカニズムづくり」が課題の1つですね。同時に、こうしたファンの行動原理がデータから見えてくると、電車内の中吊り広告といった「新規ファン層に幅広く訴えかける施策」は選択肢から除外されますよね。
HIP:なるほど。開幕戦やオールスターのような話題を呼ぶ試合が広告としての役割を果たしつつ、通常のリーグ戦は「コアファンを軸に動員を増やす」という2面作戦になっているわけですね。
葦原:はい。Bリーグは、スマホアプリなどのデジタルマーケティングのデータに基づいて進展させていくというのが基本的な考え方です。それに、人を誘って観戦に行くのと、ひとりで観戦に行くのでは、バスケットの楽しみ方も変わってきます。そういったニーズを把握して行くためのアプローチでもあるんです。
また、2018年以降に取り掛かる予定ですが、日本代表・Bリーグ・クラブの権益統合も普及に大きな影響を及ぼすと考えています。バスケファンからすれば、日本代表の試合とBリーグの試合のチケットを別々の窓口で購入するのは不便ですよね。ならば一緒にしましょう、と。将来的にはプロ・アマチュア関係なく、バスケの試合を観にきてくれる観客も競技者もすべてをつなげた巨大なネットワークシステムをつくりたいんです。
日本のバスケットボール競技者人口は約64万人と非常に多いんですが、そういった人たちの情報もつないで大きなデータベースを構築したい。それを活用することによって、プロの試合を観るだけだった人が競技を始めたり、プレイヤー中心だった人がいろんな試合を観戦するきっかけになったりという状況をつくりだしていきたいんですね。