現金主義はハンデじゃない。スマホ決済のOrigamiが日本で起業した理由
康井義貴(株式会社Origami代表取締役社長)
2018.04.16

「日本の企業として金融の未来を変える」という大きな使命感とともに、2012年に設立された株式会社Origami。名だたる大企業と提携を結び、当初はECプラットフォーム「Origami」を運営。インターネットを使った資金移動の基盤を築き、2016年にはQRコードを用いたスマホ決済サービス「Origami Pay」をスタートさせ、注目を浴びている。

Origamiの代表取締役社長である康井義貴氏は、大手の外資系投資銀行を経て、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで勤務した経歴を持つ。そんな彼が、なぜ創業の地に日本を選んだのか。そして、日本発スタートアップが世界で存在感を示すために必要なものはなにか。康井氏が思い描く金融の未来とともに、語ってもらった。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

かつてのIT革命と同じことが、金融の世界でも起こりはじめている。

HIP編集部(以下、HIP):まず、企業としてOrigamiがどういった目標を持ち、そのために何に取り組んでいるかを教えていただけますか。

康井義貴氏(以下、康井):「お金、決済、商いの未来を創造する。」ことをミッションに掲げています。よく、「金融は経済の血液」と言われますよね。金融の本質は、お金を流通させること。数百年かけて確立された金融ビジネスの中心的な仕組みを簡単に表すと、お金をA地点からB地点まで動かす行為に手数料を発生させる、ということに集約されます。投資銀行のM&A手数料、カード会社の決済手数料、銀行の送金手数料、すべて考え方は同じ。お金が動くことに価値があり、時間という概念が加わり、そこに対価が発生しているのです。

かつては、情報通信も同じ考え方で、情報をA地点からB地点に動かす行為に対価が発生していました。郵便や電話がその例ですよね。しかし、インターネットの普及によって、Facebookを使えば世界中の人と無料でコミュニケーションが取れるし、Googleを使えば無料でさまざまな情報にアクセスできるようになった。金融もこれと同じで、インターネットという巨大なテクノロジーによって、根本から変えられようとしています。

株式会社Origami 代表取締役社長 康井義貴

康井:Facebookが台頭した当時、「SNSなんてビジネスにならない」という投資家もいました。電話回線を使うと情報伝達をするだけでお金を取れるのに、Facebookをいくら使っても1円もお金は取れないから当然だ、と。しかし、実際にはご存じの通りです。今後、金融業界における資金移動についても「コスト=手数料」が下がり続けることは間違いありません。

HIP:資金移動のコストが下がることで、これまでとは異なる、新たな金融ビジネスが生まれるチャンスがあるということですね。

康井:コストが下がっていくことは、金融業界各社ともに当然わかっているはずですが、手数料に依存するビジネスモデルが確立しているので、それをいきなり半分にすることは不可能です。いわゆる、「イノベーションのジレンマ」が存在すると考えられます。そういった状況であれば、われわれのようなスタートアップが、ゼロから新しいビジネスモデルを創造したほうが、早く世の中を変えることができるかもしれません。

海外でモバイル決済が普及していく様子を見て、「未来の銀行をつくりたい」と思った。

HIP:Origamiは2012年に創業し、スマホで買い物ができるECプラットフォーム「Origami」の運営からはじめました。伊勢丹やビームスをはじめ、人気ブランド、ショップが「Origami」に出店したことで話題になりましたね。

康井:起業する前、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで仕事をしていたときに、海外でモバイル決済が普及していく様子を見て、金融の大変革が起こると確信しました。もともと金融には興味があって、「いつか銀行をつくってみたい」なんて夢を描いていたのですが、そのときに「ひょっとしたらつくれるかもしれない」と感じたんです。もちろん、25歳くらいの若者にいきなり銀行なんてつくれないですよね。少なくとも数百億円は必要ですから(笑)。

そこで、金融の本質である「お金が動くこと」と「それを担う仕事」について整理してみました。まず、資金移動には大きく分けて「オンライン」と「オフライン」があります。そして、それぞれに「使う」と「貯める」が存在する。あとは、資産運用や貸し借りですね。

オンラインで使うというのはEC(Electronic Commerce / 電子商取引)の支払いで、オフラインで使うのは対面での現金の支払い。オンラインで貯めるのはインターネットバンキングへの預け入れで、オフラインで貯めるのはATMや銀行の窓口への預け入れ。ATMや銀行の窓口は、キャッシュレス化が進むにつれて減っていくとぼくは考えています。

銀行をつくるためには、オンラインでもオフラインであっても「貯める」を担うための莫大な資金力が必要なので、スタートアップが取り組むにはすごく重い。では「オフラインで使う」はどうか。実店舗などのオフラインで使うための仕組みに取り組むには、インフラを整えるなどの設備投資に数十億円の資金が必要です。

しかし、「オンラインで使う」なら数億円でインターネット上のシステムを中心に開発すれば基盤がつくれる。そこで最初のステップとして、ECサイトをつくって、「お金」を動かすためのプラットフォーム基盤を運営することにしました。

HIP:ECサイトでお金が動く仕組みをつくりつつ、それを発展させたのが、2016年にローンチされた実店舗でのスマホ決済サービス「Origami Pay」なんですね。

「Origami Pay」

康井:はい。ただ「Origami Pay」はわれわれにとっての2ステップ目で、その先の3ステップ目にあるお金を貯める仕組み、つまり未来の銀行、あるいは未来のお財布をつくるためのプロセスの一つだと思っています。

現在、スマホ決済システムの多くはクレジットカードと紐づいています。そして、そのクレジットカードの利用料は銀行口座から引き落とされます。つまり、「決済→クレジットカード→銀行口座」というお金の動きがある。しかし、決済と銀行口座を紐づけることができれば、お金はより滑らかに動きます。滑らかに動けば動くほど、そこにかかるコストは少なくなる。

「Origami Pay」も現状では、クレジットカードと紐づいているのですが、もしわれわれが「銀行機能=貯める機能=お財布機能」を持つことができれば、決済コストは限りなくゼロに近づくことになります。

さらに「Origami Pay」には、購入履歴や頻度、性別、年齢などさまざまなデータが生まれます。そのデータを店舗に活用してもらえれば、クーポンを発行するなどのCRM(顧客関係管理)やプロモーション施策も低コストで簡単にできる。店舗に来たお客さまに情報を記入してもらうだけでも大変ですし、DMを送れたとしても、印刷費や郵送料などがかかります。お客さまにも店舗にもメリットがあるわけです。

つまり、お金の移動自体ではなく、移動から生まれたデータが価値を生むのです。将来的には、よりパーソナライズされたクーポンが生まれて、人によって商品の価格が変わるなんてことができるようになるかもしれません。データを活用することで、新たな金融商品もつくれます。

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