INTERVIEW
田村淳と元テレ東・今井豪がプロデュース。経済動画メディア「XU」が追う「静かな情熱」とは
田村淳(吉本興業所属) / 今井豪(株式会社HI-NEXU 代表取締役CEO) / 石川剛(株式会社NEXTEP 取締役)

INFORMATION

2025.11.28
取材・文:多田慎介 写真:丹野雄二 編集:藤﨑竜介(CINRA)

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人が一心不乱になっているときの「静かな熱量」を伝えたい

HIP
ビジネスメディアが数多くあるなか、どのような特徴を打ち出していきたいと考えていますか。
コンテンツの結末を決めつけないメディアにしたいと思っています。取材前の段階で、どんなコンテンツができるか、数字につながるかどうかがはっきり見えなくても、ためらわずチャレンジングな取材をするチームにしたいんです。
今井
たとえば、すでに生み出されたビジネスなどではなく、「これから生まれる何か」を、スタートの段階から密着して追いかける。既存のドキュメンタリー番組とは、けっこう違うものになりますよね。
HIP
石川さんは、これまで数々のドキュメンタリー番組を手がけてきました。XUのドキュメンタリーは、どのようなものになりそうですか。
石川剛氏
(以下、石川)
XUが取材対象にする現場って、大企業やスタートアップだけでなく、大学やいわゆる町工場と呼ばれる中小企業も多いんです。なので、相手が取材に不慣れなことも少なくない。だからこそ、予想外のことが起きるし、おもしろいんです。
『ガイアの夜明け』などの制作に関わってきた石川剛さん。映像制作会社・NEXTEPの取締役なども務める
石川

培ってきたドキュメンタリー制作のノウハウを生かしながら、今井さんが言ったようなスタート段階から密着するものなど、いままでになかったようなコンテンツをつくれるのではないかとワクワクしています。

先を予想しにくい分、大変さもあるんでしょうけどね(笑)。

そうでしょうね(笑)。

あと、僕たちはXUを立ち上げる際に、「静かな熱量」を伝えようとも決めました。大人が怒鳴り合っているシーンとか、どぎついサムネイル画像とかで興味を引くのとは、違うやり方です。

HIP
静かな熱量とは。

ある人が注目されるかどうかも顧みず、特定の何かに一心不乱に取り組んでいるときに生じる情熱のことです。

たとえば先日、XUで農地の一部に太陽光パネルを設置して実証を進めている企業に、インタビューしました。農地を使うことで、山林を切り崩したりせずに太陽エネルギーを活用できるんです。派手ではないかもしれませんが、関わる人たちの「新しいエネルギー供給のあり方をつくりたい」という思いが強烈に伝わってきて、そこに情熱を感じました。

 
 

対談を終えてすぐに、この“畑の上に太陽光パネルを設置する”未来のソーラーシェアリングの現場を、自分の目で確かめに行ったんです。千葉県の匝瑳市で見た光景は、本当に衝撃的でした。日本の技術で電力を生み出しながら、同時に農業とエネルギー供給の課題を、解決しようとしている。その現場には、言葉以上のリアルがあった。

何が答えかはまだわからない。でも、ここから何かが動くなら、僕たちもこの目で、足で追いかけたい——。そんな思いで、即、現地へ向かいました。

 
 

HIP
再生可能エネルギーもそうですし、興味深い先端分野の取材が多そうですね。
そうなんです。別の機会には、多言語の同時通訳を一瞬にしてやってしまう「CoeFont」(声フォント)というアプリを取材しました。これも衝撃でしたね。
HIP
通訳アプリは、すでにいろいろなものがありますよね。
はい、僕もいくつか使ったことがあります。そのなかでCoeFontは性能がダントツなんです。たとえば海外の人と新しいアイデアを交換したり、「いままで実現し得なかった体験ができるな」と思えるレベルです。人の生活や考え方を変えるほどのポテンシャルがあると思います。
HIP
CoeFontを取り上げたのは、なぜですか。
今井

僕たちの新しい挑戦は、世界の最前線のイノベーションを自分の目で見て、肌で感じるところから始まります。世代も地域も越えて、リアルにグローバルで協働できる場をつくることが、テーマの1つです。

ただ、実際にやってみると、最初にぶつかるのは「言葉の壁」なんですよね。伝えたいのに、伝わらない。そこで出会ったのがCoeFontでした。この技術は、本当にすごい。グローバル共創を推し進める僕たちを象徴する存在として、注目し続けています。

 
 

「まず撮影して配信してみよう」。テレビをしのぐフットワークの軽さが強み

HIP
XUのコンテンツがテレビ番組とどう違うものになるか、もう少し詳しく知りたいです。
石川
1つ言えるのは、テレビでなかなか紹介できない人にフォーカスできることですね。「みんなが見たい人」を題材にすることが多いテレビに比べて、XUは「僕たちが会いたい人」を取り上げやすい。この違いは大きいと思います。
HIP
皆さんが会いたい人とは。
今井

僕はリサーチのため、月数回のペースで、中部地方をはじめとした町工場が集積するエリアに通っています。そしてその際に、本当に衝撃を覚えるような先端技術に出くわすことが少なくない。僕たちが会いたいのは、そういう技術を淳さんがいう「静かな熱量」を持って、磨き続けているような人たちです。

そのような人たちと、大企業や研究機関などをつなげていって、点を線や面にしていければすばらしいですね。

HIP
テレビと比べた場合、フットワークの軽さは武器になりますか。
今井
はい。テレビ番組をつくるには、組織内で承認を得る必要があります。ただ、僕たちがやりたいゴールが見えない段階から着手するチャレンジングな取材となると、承認が下りるころには手遅れになっている可能性があります。
XUなら、「まず撮影して配信してみよう」みたいな軽さで、制作プロジェクトを始められます。要は、とりあえず動いてみる。そのほうが、多くの人をワクワクさせられるんじゃないかと思っています。
HIP
インプレッションなどの数字を重視する、いわゆるアテンション・エコノミーに対抗する思いもあるのですか。
今井
いえ、数字はやっぱり大事ですよ。テレビ局にいるときは、ずっと視聴率という数字を追いかけていましたし、いまは再生数という数字に正面から向き合っています。求められる数字を出したうえで、それ以上の価値も生み出していく。それがXUの基本的な考え方です。
石川
僕もずっと視聴率の折れ線グラフとにらめっこしながら過ごしてきたので、数字を意識しないのはあり得ないんですよ。数字を大切にするのは大前提。そのうえで、これまでとは違うことに挑むからこそおもしろいんです。
HIP
ほかに、テレビと比べた場合の配信ならではのおもしろさはありますか。
今井

「コンテンツをアーカイブとして積み重ねていけること」ですね。ユーザーは興味を持ったタイミングで、過去の経緯や議論の流れをたどって理解を深めることができる。

「消費されて終わる」コンテンツではなく、時間を越えて学びや気づきが蓄積していく「ストック型のメディア」として機能するんです。それこそが、XUが配信というかたちにこだわる理由です。

やりたいのは動画配信だけじゃない。熱量を持つ人が集まる「ビジネスコミュニティメディア」へ

HIP
XUは「ビジネスコミュニティメディア」と名乗っています。どんな意味を込めているのですか。
動画コンテンツの制作・配信が主軸ですが、それだけにとどまらないメディアにしたいんです。この「X Weave STUDIO」(東京・虎ノ門)を拠点にしているわけですが、対談などを撮るだけなら、こういうスペースはいらないですよね。このスタジオを、熱量を持つ人たちが集まって、交流できる場所にしたいと思っています。
インタビューを実施したX Weave STUDIO。300平方メートル弱の広さがあり、動画撮影のほかイベントや交流などができるスペースとして運用予定(画像提供:HI-NEXU)
すでに新規事業を始めている人や起業している人はもちろん、「やりたいことがあるけど、どうすればいいかわからない」という学生でもいい。経済に興味を持つ人の交流を促して、進むべき道を見出すためのサポートをしたいですね。
HIP
従来の新規事業やスタートアップのコミュニティと比べると、いい意味で垣根が低い印象があります。

そうですね。ただ、ちゃんと熱量を持っていないと振り落とされてしまうかもしれません。参加者が「この熱量ではまだまだダメなんだ」と気づく場になるのかもしれない。とにかく、世の中に何らかの価値をもたらしたい、特定の社会課題を何とかしたいといった情熱を持ってきてほしいですね。

アイデアがきれいに整っていなくて、既存の慣例やシステムに対して憤りがあるだけでもいいんです。ここで生まれたつながりから、何かがスタートするかもしれないですから。

今井

そうして何かが動き始めたら、その取り組みを、僕たちが追いかけ続ける。それこそが、ビジネスコミュニティメディアとしての勝ち筋だと思っています。

既存の経済メディアは、情報感度の高い層には届いていますが、「行動変容まで導く」ことには至っていないものが多い。XUが狙っているのは、単に情報を理解する層、つまり視聴して情報を得ようとする層や、議論に参加する層、つまり視聴して意見表明したい層だけではありません。

自ら行動して事業創出に至る「実行・挑戦層」とつながることを目指しています。

HIP
実行・挑戦層とは、どのような人たちですか。

たとえばスタートアップの創業者や起業準備中の人たち、中小企業の経営者や大企業のイントレプレナー、地方自治体でイノベーションを進めようとしている担当者。それから、大学生や若手社会人、副業で挑戦する大企業人材、地域で何かを始めようとしているローカルプレナーなども含まれます。

XUは、そういう人たちが交差し、行動を起こすためのコミュニティでありたいんです。

今井

日本の課題は、情報が足りないことではなく、「決断と実行の遅さ」にあるんじゃないでしょうか。情報は溢れるくらい充足している。でも実際あるさまざまなビジネスコミュニティでも、意志決定の不足による実行の遅滞が、散見されると思います。

この構造を断ち切るためには、実行者にどんどん仲間になってもらって、意思決定のスピードを上げ、価値創造の共通言語をつくるべきです。その「起動装置」の役割を果たす新しいメディアが必要なんじゃないかと思っています。

HIP
つまり、XUは「番組」ではないということですか。

はい。「番組」ではなく、ビジネスコミュニティメディアというインフラになっていけたら、と思うんです。既存の経済メディアが「何が起きたかを伝える」場所だとすれば、XUは「これから何を起こすかを決める場所」であるべきだと思っています。

情報を見て終わるのではなく、そこから行動が生まれる。それが、XUが目指しているメディアのかたちです。思いを持つ企業や、そこで挑戦する人々がどんどん参加してほしいと思います。

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Profile

プロフィール

田村淳(吉本興業所属)

1993年、お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」結成。以降、バラエティ番組、経済・情報番組など多方面で活躍

今井豪(株式会社HI-NEXU 代表取締役CEO)

テレビ東京で『いくぞニッポン!こども経済TV』『田村淳のBUSINESS BASIC』『田村淳が豊島区池袋/池袋イノベーション』などの企画・制作に携わったのち、2025年1月にHI-NEXUを設立

石川剛(株式会社NEXTEP 取締役)

ドキュメンタリー系を中心に長年テレビ番組の制作に携わる。『ガイアの夜明け』『ザ・ノンフィクション』など実績多数

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