自分がプロジェクトから抜けた後も、会社と戦うための「武器」を手渡すことを意識している。
HIP:タキザワさんがワークショップという手法を取り入れることになった経緯は何だったのでしょうか?
タキザワ:前職では企画の仕事をやっていたのですが、そこでぼくの師匠にあたる人がワークショップを取り入れ始め、そのアシスタントをすることになったのが、そもそものきっかけです。
正直に言うと、最初はまったくワークショップに興味が持てませんでした。というのも、ぼくはそれまで建築設計やグラフィックデザインなど、もっぱら手を動かす仕事に従事していた、完全に「プレイヤー」側の人間でした。ワークショップで誰かのアイデアを引き出すよりも、自分一人で考え、かたちにすることに興味があったんです。
タキザワ:でも、アシスタントを始めて3年くらい経ったあるとき、自分には考えつかないアイデアというものがあると気づきました。主婦のための新商品を考えるとき、リアルな主婦だからこそ思いつくアイデアがある。それはぼく個人の視点からは決して生まれないものです。しかし、自分に代わって主婦にアイデアを出してもらうことができると気づいた途端、ワークショップをやってみたいと思ったのです。
HIP:とはいえ、ファシリテーターという立場だと、アイデアが最終的にかたちになるまでコミットでなきい場合も多いと思います。ご自身が抜けた後もうまく成果が出せるよう意識していることはありますか?
タキザワ:おっしゃる通り、ファシリテーターが直接的に何かできるのは、ワークショップのあいだだけです。そこからアウトプットに結びつけるためには、自分が抜けた後もワークショップに参加した企業の方が、自走できる状態になっていることが大事。そのための武器を与えてあげることは常に意識しています。
ワークショップを通じて、手法を教えていくというのもそうですし、マインドをセットしてあげることはより重要です。会社の通常業務だけをしていると、どうしてもルーティンになりがちだし、目先のことに意識が向いてしまいます。それでは「新しいもの」をつくることはできません。ワークショップを通じて「新しいことにチャレンジするんだ!」というマインドに変えていくんです。
さらに、ワークショップはチームでやるものだというのもポイントです。企業で何か新しいことをやろうと思っても、大抵は潰されてしまう。新しいことをやるには仲間が必要なんです。その点、部署横断で行うワークショップでは社内のいろいろなところに仲間ができます。そのチームの存在が、組織や社会を動かす力になるのです。
HIP:ワークショップは、企業の課題解決の手法であると同時に、社員のマインドを変え、新しいことを始めるための仲間をつくるプロセスにもなっているということですね。
タキザワ:そうです。そしてもう一つ、ワークショップの途中経過を共有するための記録を残すことが、アイデアを事業化するため手助けになります。ぼくはワークショップをムービーやグラフィックレコーディングに残して、プロセスを可視化できるようにしています。
ワークショップの弱点は、参加した人しかその場の体験を共有できないという点です。事業化するためには上司や社内のほかの社員を説得し、巻き込んでいくことは不可欠です。その際にムービーやグラフィックレコーディングは強力な武器になります。例えば社員が生き生きとした表情で会社の未来を語っている様子は、社長にとってはとっても嬉しいことのはずです。
ワークショップを行う際は、依頼の段階での関係性が非常に重要です。
HIP:ありがとうございます。では最後に、「&HAND」などのタキザワさん個人としての活動が、企業とのお仕事に与えている影響があれば教えてください。
タキザワ:先ほども強調したように、最近はプロジェクト全体をファシリテーションするという関わり方でないと、価値を生み出せない時代になってきています。ということは、信頼してすべてを任せてもらわなければならないので、依頼の段階での関係性というものが非常に重要になります。
会社と会社の関係で仕事を受け、クライアントからオリエンテーションを受けて……という始まり方だと、どうしても受発注の関係性になってしまう。そうするとチャレンジすることができず、無難な提案になってしまうことも少なくないです。これはぼくにとっての課題でした。自分に任せてくれればうまくいく自信はあるものの、ワークショップというのは性質上、事前に「こういう成果が出ます」とは断言しにくい。そのなかで信頼してすべてを任せてもらうことが、とても難しかったんです。
けれども最近はありがたいことに、企業からタキザワ個人の指名で依頼をいただくケースが増えました。こうなったのは「スマート・マタニティマーク」や「&HAND」が賞を取って、社会的に信頼してもらえる成果を残せたことが大きかったように思います。おかげでプロジェクトの最初から、クライアントと同じ目線で仲間としてチャレンジさせてもらえるようになった。現在は、個人の活動と会社の仕事にいいシナジーが生まれていますね。嬉しい反面プレッシャーも大きく、いただいた期待に応えられるようチャレンジの日々です(笑)。