INTERVIEW
なぜ東京都がソースコードを公開?コロナ対策サイトを速攻で完成させたDX戦略
清水直哉(東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 デジタルシフト推進担当 課長) / 天神正伸(東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 デジタルシフト推進担当 課長)

INFORMATION

2020.05.11

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新型コロナは東京都だけの問題じゃない。オープンソースがもたらすメリット

HIP:「新型コロナウイルス感染症対策サイト」はオープンソースでサイトを構築し、ソースコードを公開したことも話題になっています。この方針も宮坂副都知事が決めたのでしょうか。

清水:そうです。キックオフの時点で「新型コロナウイルスの問題は東京だけの話ではない。良いものがつくれるならどんどんコードを公開して、ほかの自治体にも展開できるようにしよう」という方針でした。

天神:実際、東京都のコロナ対策サイトのコードを基にして、北海道や神奈川県、群馬県など約30の他道府県のバージョンが開設されています。私たちと同じ苦労をすることなく、情報発信をスピーディーに行える県職員や自治体が増えていることを知り、オープンソースにした甲斐があったと感じています。

北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」(画像は2020年5月7日時点)

HIP:オープンソースでの開発によって制作関係者だけでなく、有志で一般の方々もサイト構築に携われることができるそうですね。東京都では具体的にどういった方法を採用したのでしょうか。

清水:ソフトウェア開発のプラットフォーム「GitHub」を利用しました。コード・フォー・ジャパンさんがサイト構築を行い、でき上がったサイトのソースコードをGitHubで公開。そこで有志の方々からプログラムの開発や文言修正、データの見せ方といった改善提案を受けつけました。

HIP:信頼性や確実性が求められる公的機関がGithubでソースコードを公開し、改善提案を受けつけるのはかなり異例だと思います。

清水:ですから、サイト構築にあたっての行動原則・行動指針を決めたうえでソースコードを公開しました。その内容として、ほかの自治体でも利用できるようにするために、わかりやすいデータ形式でオープンデータを公開すること(Be Open)、さらに都庁の職員だけでなくさまざまな人とつくること(Build with people)などを定めました。

またGithub上でいただいた改善提案は、厳密にいえばすべて取り入れているわけではありません。GitHubに寄せられる改善提案やプログラムの開発については、コード・フォー・ジャパンさんがすべてチェックを行い、都が最終判断を下しています。つまり、厳重なチェックを経て精査されたものだけが公開される仕組みです。

天神:データの取り扱いにも細心の注意を払いましたね。陽性患者の情報は個人に紐づきやすいため、個人を特定できないように加工してデータを渡しています。そのほかのデータも、公開できる状態に加工しています。

貢献意識の高い国民への感謝。シビックテックによる新たな未来の可能性とは

HIP:外部のパートナーであるコード・フォー・ジャパンと協業するにあたり、感じたことなどがあればお聞かせください。

天神:コード・フォー・ジャパンさんは非営利団体で、日本におけるシビックテック(「市民」を意味するシビックと「テクノロジー」を簡略したテックを組み合わせた造語)の草分け的存在です。シビックテックとは、地域の住民自身がテクノロジーを活用して、地域の課題を解決することを意味します。今回のサイトも、GitHub上でさまざまな方の意見を聞きながら推進していきましたが、こういったプロセスは私自身、初めての体験でしたので大変勉強になりました。

言ってしまえばシビックテックは、何百人ものプログラマーを抱えているようなもの。サイトの使い勝手や見た目のチェック、それらの修正、新しい仕組みの実装などを行動に移すスピードが格段に早くなります。本当に桁外れだったので驚きましたね。

一般公開して、サイト開発における修正や提案を受けつけているGitHubのページ(画像は2020年5月7日時点)

天神:同時に、貢献意識が高い有志の方々がたくさんいらっしゃることも実感しました。サイトの評判をTwitterなどで見てみると、ご自身の改善提案が受け入れられたことを喜んでいるツイートなども見かけました。新型コロナ禍は都や日本だけでなく、世界中の問題。そういったなかで今回の取り組みは、多くの方々が社会貢献したいという思いを表現できる良い場になっているのかもしれません。

清水:サイトは外国人の方にも情報を発信しているので多言語対応をしているのですが、台湾のデジタル担当政務委員(大臣)の唐鳳(オードリー・タン)氏もGitHub上で作業に参加してくれました。本当にいろいろな方に協力していただいて、このサイトができ上がっていると実感しています。

行政のオープンデータが当たり前に? 東京都が見据えるアフターコロナの展望

HIP:今回の経験は、今後の東京都の情報公開やサイト制作にどういった変化を起こすと思いますか。

天神:2020年2月に発表した、東京都のデジタルトランスフォーメーションをより加速させる「スマートTOKYO」に向けても、都が持っているデータでオープンにできるものはどんどん公開するようになるでしょう。

そのデータを使って新しいコトをやりたいという人が必ず出てきます。そういった方を行政が巻き込んでいくことが、ひとつのポイントになると思います。データを出すことで、社会課題を解決する糸口になるかもしれませんね。

清水:今回は庁内からも好意的な意見を多くもらいました。これまでは、とりあえず情報はPDFで載せておこうという部分もあったと思うのですが、やはりグラフや図を使いながら都民にしっかりと伝わるかたちで情報を出さないといけないと実感した、という声も聞いています。

「新型コロナ受診相談窓口相談件数」や「都営地下鉄の利用者数の推移」などもグラフで掲載(画像は2020年5月7日時点)

HIP:外部パートナーとの協業も加速しそうですね。

清水:その可能性は感じました。東京都は行政職員の数が多いのですが、当然、カバーできないスキルもあります。その部分は民間企業や都民の方々のお力を借りることでより良いものができるはず。

とくに、シビックテックは庁内でもかなり認知度が高まりました。国内ではまだまだですが、海外ではかなり進んでいるムーブメントです。これをきっかけにうまく広めていきたいと思います。

HIP:最後に、新型コロナによる感染が沈静化して平時に戻ったとき、今回の取り組みを続けるために何が必要かを聞かせてください。

天神:今回の取り組みをケーススタディとして、苦労した点や工夫した点などを広めていきたいですね。沈静化したら勉強会を開いても良いと思っています。そのときは都庁だけでなく、全国の行政にも共有していきたいです。

清水:アフターコロナは、さまざまなところで話題になっています。テレワークを含め、行政の働き方も変わっていくのではないでしょうか。そうなると行政サービスのデジタル化がより必要となると思っています。デジタル化が進み、オープンにできるデータが増えることでほかのプロジェクトでも民間企業や国民との共創・協業もしやすくなる。これを機に大きな意味でのデジタルトランスフォーメーションをさらに進めていきたいです。

Profile

プロフィール

清水直哉(東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 デジタルシフト推進担当 課長)

大学卒業後、NECに入社。BIGLOBEでネットワークサービスやウェブ・スマホアプリなどのサービス企画に従事。2015年、NECのスマートシティ関連部門に異動。2018年に東京都に入庁。東京都のデジタルシフトの推進に携わる。

天神正伸(東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 デジタルシフト推進担当 課長)

大学卒業後、医療機器メーカーに入社。2000年、日本マイクロソフトに入社し企業向け Active Directoryの技術支援業務に従事。2007年、大規模環境・ミッションクリティカル環境への技術支援を行うプレミアフィールドエンジニアリング部に配属。2018年に東京都に入庁。東京都のデジタルシフトの推進に携わる。

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