大人気スマホゲーム『白猫プロジェクト』でも知られているコロプラ。2014年からVRの可能性に注目してきた同社は、『Fly to KUMA』『STEEL COMBAT』などのVRゲーム開発のみならず、360度動画に特化した子会社「360Channel」の設立などゲーム以外のVR事業にも領域を広げている。そして2016年1月、世界最大級のVR専門ファンド「Colopl VR Fund」を立ち上げた。このファンドでは、ヘッドマウントディスプレイ、コンテンツ、開発ツール、配信プラットフォーム、デバイス、関連要素技術と、VRに関する全方位のジャンルに、国内外問わず投資をしているという。
今回お話を伺ったのは、Colopl VR Fundを運営するコロプラネクストの代表取締役社長・山上愼太郎氏。国内外のVR関連企業や市場動向を見つめるなかで感じている「VRのいま」について語っていただいた。
取材・文:市來孝人 写真:大畑陽子
アメリカでVR企業が爆発的に増えているのはなぜか?
HIP:まずは、ファンドを立ち上げた狙いについてお聞かせいただけますか。
山上:いよいよ2016年には「VR元年」が訪れるだろうという世の流れのなか、会社としてさらにVRに関わる領域を広げていってもおもしろいのではということで、2016年1月にこのColopl VR Fundを立ち上げました。コロプラはゲーム、子会社の360Channelは360度動画にそれぞれ特化していて、それ以外のVR領域をやるにはリソースが足りない。だから、そこは投資でカバーして、VR市場全体の成長をプッシュしていこうという狙いです。
HIP:投資先はどういった企業があるのでしょうか?
山上:ハードウェア、コンテンツ、開発ツールと、VR市場に関わる企業であればジャンルは問いません。日本発の新型ヘッドマウントディスプレイを提供するFOVEや、ロサンゼルスを拠点にVRアプリ向け動画広告を提供するImmersvなどの13社を開示していますが(2016年9月現在)、実際は30社弱に投資しています。Immersvのように国外の企業にも積極的に投資していて、現時点では、投資先の多くがアメリカの企業です。
HIP:アメリカの企業への投資が多い理由はなぜでしょうか?
山上:そもそも、スタートアップの数がVRに限らず多いですからね。VRに関する企業は、特にサンフランシスコとロサンゼルスに集まっています。サンフランシスコは技術系。ロサンゼルスはハリウッドのお膝元なのでコンテンツ系の企業が多く、映画スタジオやゲームスタジオから独立するというパターンが多いようです。ダウンタウン周辺や海側のサンタモニカにも増えているようで、サンタモニカは「シリコンビーチ」とも言われ始めていますね。
HIP:ロサンゼルス周辺は、シリコンバレーに続くITスタートアップのメッカになりつつあるのでしょうか?
山上:サンフランシスコの賃料が高いので、まだ比較的安いロサンゼルスに移ってくるところもあるそうです。それ以外にも、もともとゲームディベロッパーが多くいるシアトルや、テキサス州のオースティンにはゲーム系の企業、ニューヨークにはメディア寄りの企業など、アメリカのさまざまな都市にVR事業を行なう企業が広がってきています。
日本発のVRファンドだからこそ、世界をフラットに見ることができる
HIP:アメリカではジャンルを問わずVR事業を行う企業が増えてきている一方で、ほかの国はいかがでしょうか?
山上:アジアだと、中国はすごく盛り上がっているようですね。ほかの国と比べて、ヘッドマウントディスプレイを開発している企業が何十社とあるのが特徴的です。ヨーロッパでは、メーカーの多いオランダやドイツで産業向けのVR開発が少しずつ盛んになってきています。また、イギリスはゲームディベロッパーも多いので、コンテンツ産業の面で投資先としてのチャンスがありますね。あとはアイルランド。コンテンツを作る企業も、ツールを作る企業も多いです。スタートアップ大国のイスラエルもコンピュータービジョン(コンピュータによる視覚を実現する技術)などVRに必要な要素技術を開発している企業が多いので、これから見ていきたいと思っています。
HIP:海外の市場動向に触れるなかで、日本に足りないなと感じる部分はありますか?
山上:特にアメリカでは、映像スタジオやゲームスタジオ出身の人が独立して会社を立ち上げたり、プロジェクトごとに資金調達したりといった「スタートアップの仕組み」がVRに限らずできているんです。日本のエンターテイメント業界ではまだそういった動きは一般的ではなく、映画でもゲームでも、独立してスタジオを立ち上げるケースは多くはない。そこが大きな違いなのかなと思います。
HIP:アメリカで「仕組み」が発達している一方で、日本だからこその発展の仕方をするという可能性もありますか?
山上:日本のコンテンツは特殊なので、もちろんVRでも可能性があると思います。ただ、いまはまだ企業としてやっている例は少なく、フリーランスやインディーズ的にやっている人が多い印象です。そうやって小さく始めたところが独立スタジオになると面白いですね。そういう人たちを応援していきたいとも思います。
HIP:日本のVRファンドだからこそ見えてくることもありそうですね。
山上:そうですね。アメリカに限らずヨーロッパなど他地域の企業も見ていくことで、アメリカのファンドとはまた違う視点を持つことができると感じています。そうすることで、日本におけるVRの展望も見えてくるかと思っています。
投資先の企業同士をつなげ、VR市場全体をプッシュしていく
HIP:特に投資先の企業が多いアメリカなど、Colopl VR Fundの海外での反応はいかがですか?
山上:予想していたよりも、現地のコミュニティに入り込めたなという印象です。例えばシリコンバレーはすでにコミュニティが形成されていて、新参者が入りにくい印象があるんです。ただ、VRに投資するファンドが当時まだ少なかったため、意外とすんなり入り込めました。
HIP:「コロプラ」という名前は、現地ではすでに知られていたのでしょうか?
山上:最初は誰も知らなかったと思います。その後少しずつ知られるようになっていきましたが、シリコンバレーの人たちは「コロプラは(スマホゲーム会社というよりは)投資会社だ」と思っていたのではないかと(笑)。できるだけ現地のコミュニティやイベント、そのあとのパーティーなどにも顔を出すようにして、「コロプラっていつもいるよね」という印象を作るようにしています。投資の意思決定についても、できるだけ早く動くようにしていますね。
HIP:ほかにもVR専門ファンドはあるのでしょうか?
山上:「The VR Fund」というファンドがサンフランシスコにありますし、2016年4月に「GVR Fund」を立ち上げたGREEさんともアメリカで一緒になることが多いです(Colopl VR FundはGVR Fundに出資を行っている)。あとは、中国系のファンドも多いですね。普通のベンチャーキャピタルは、今後VRがどうなるか未知数なので投資しにくいようです。
HIP:Colopl VR Fundは出資額も最大5,000万米ドルと規模が大きく、「世界最大級のVR専門ファンド」であることを掲げられています。世界最大級のVR専門ファンドとして業界に影響力を与え続けるために必要な要素は何だとお考えでしょうか?
山上:一つは、先ほどもお話した「早く動くこと」です。ファンドを立ち上げたタイミングも、VR専門のファンドがあまり存在していない段階でした。また、VR市場を全方位で見て、投資先の企業同士をつなげ、新たな価値を生み出していくことも、VR市場全体の成長をプッシュしていく私たちの使命だと考えています。
ゲームだけに限らず、車や不動産など、日本の産業にVRで関わっていきたい
HIP:国内外のVR市場をご覧になられて、VRが持つ可能性についてはどのようにお考えですか?
山上:VRには、できなかったことが可能になって、行けなかったところに行けるようになるという無限の可能性があります。いまはゲームなど一部の業界でしか活用されていませんが、これからさまざまな業界で使われるようになればと思っています。コロプラ社内はゲーム好きが多いですが、私のゲーム経歴はスーパーファミコンまでですから(笑)。ゲーマーじゃないフラットな視点でVRを見ていると思っています。
HIP:Colopl VR Fundの今後の展開、構想についてもお聞かせいただけますか?
山上:とにかくいろんな企業と会って、いろんな可能性を感じて、いい企業を見つけて投資していきたいですね。B to B向けに展開しているVR企業は収益が出てきているところもあるので、しっかりフォローしていきたいです。たとえば、日本は機械、電機、自動車と大きな産業を持っているので、工場でのシミュレーションにVRを活用することができる。アメリカの不動産や建築業界ではすでにB to B向けの動きが盛んで、3Dのデータを使い、建てる前にVRで体験できる仕組みが出てきています。こうしたB to B向けの展開には、今後もぜひ関わっていきたいですね。