INTERVIEW
やっと技術が追いついてきた。VRのパイオニア・水口哲也が語る「バーチャルを超えた」未来
水口哲也(クリエイター・ゲームデザイナー)

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2016.10.07

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画の力、音の力、振動の力……VRは統合的なイマジネーションを爆発させられるものだと思います。

HIP:水口さんにとって、VRでフレームという概念がなくなるという点はやはり大きなイノベーションでしたか?

水口:「頭の中でこんなイメージを持っているのに、この中にはめなければいけない」というのはやはりストレスですし、もどかしさを感じていました。そのフレームの中だけでは、表現のイノベーションも起きないのではと思っていましたね。120年ほどの映像の歴史を振り返ると、白黒の映像から始まり、そこから音がついたり色がついたりしても、フレーム自体は四角形のまま。その四角形という制約の中で表現を磨いてきたというのが映像演出の歴史ですが、これが初めて取っ払われるわけです。VRやARでようやく映像表現が新しいフォーマットにいく……そりゃエキサイティングですよね。

HIP:フレームの制限がなくなったことで、新たな表現の時代がやってくると。

水口:そうです。VRは感覚を統合するものだと思うんです。映像と音や触覚は常に絡み続けるものだと思いますし、すべてが融合してできる体験がVRで花開くと思います。音がなくても映像は成立するけれど、音が絡むことでその映像が力を持つ。さらにそこに触覚などが加わっていくと、すべてが絡み合う体験を作ることができますよね。画の力、音の力、振動の力……すべてを統合的にデザインしていくことが可能になる。VRは統合的なイマジネーションを爆発させられるものだと思います。

VRを「バーチャル」と言っているのはきっと最初だけ。そのうちすべてが「リアル」なものになっていくのだと思います。

HIP:「共感覚」のエンターテイメントを実現できる環境がやっと整ったということですね。

水口:逆に言えば、もう言い訳はできないです(笑)。技術がようやく追いついてきて、これからもっと進化すると思うので、どんなイメージでも実現できるようになります。

HIP:そのような環境で、これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?

水口:新しい発想を持ったいろんなジャンルのクリエイターとセッションすることで、新しい体験をデザインしていきたいと思っています。いまはやりたいアイディアがいくつか決まっているので、その具体的な実現方法を検討しています。VRは音楽ライブや、スポーツイベントなど、エンターテイメント全般においてあらゆる可能性があると思いますが、それだけでなく、「日常の世界を豊かにするもの」になっていくのではないでしょうか。仕事上でのコミュニケーションの仕方もずいぶん変化していくと思います。

HIP:すでにSkypeなどのツールを使えば遠隔でのコミュニケーションができるので、VRが加わることでより会議の仕方も変わっていきそうですね。

水口:先日、ハワイ島の農場に2週間ほどいましたが、オンラインでコミュニケーションしながら開発具合をチェックできて、まったく不便さを感じませんでしたね。今後はVRを使って現場とつながれるでしょうし、例えばVRで確認しながら「ここから見たときの、このラインを削らない?」といったデザインのやり取りもできるでしょうし。「会議をするためにヘッドマウントディスプレイを被る」という時代もすぐに訪れるでしょう。

HIP:これからVRはどのように発展していくのでしょうか?

水口:よくシンギュラリティ(技術的特異点。人工知能が人間の能力を超え、生活が大きく変わると言われている)が訪れるのは2045年と言われていますが、もっと早まる可能性がありますよね。最近、変化のスピードが速いと感じませんか? VRも、4Kクオリティは3年ほど、8Kクオリティも5年くらいで実現するのではないでしょうか。ちなみに8K以上になると人の目では判別できなくなり、つまりVR上の映像と現実の光景がまったく同じクオリティで見えるようになる。そこから先は、センサーやAI、IoTなどがどんどん進化していくでしょう。VRを「バーチャル」と言っているのはきっと最初だけ。そのうちすべてが「リアル」なものになっていくのだと思います。

Profile

プロフィール

水口哲也(クリエイター・ゲームデザイナー)

1965年生まれ。ビデオゲーム、音楽、映像など、テクノロジーを駆使したインタラクティブな創作活動を続けている。2001年、ビデオゲーム『Rez』を発表、2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティヴアート部門名誉賞などを受賞。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム『ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした『Child of Eden』(2010)、VR作品『Rez Infinite』(2016)、VRと共に音を全身で触覚体感する「シナスタジア・スーツ」(2016)などを制作。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)が選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。米国法人Enhance Games/CEO、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。

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