INTERVIEW
世界最高レベルの冷却性能素材。大阪ガス×WiL推進のSPACECOOL
宝珠山卓志 / 末光真大 / 夘瀧高久(SPACECOOL株式会社)

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2021.08.26

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SPACECOOLに、反対意見はなかった。事業推進を後押しした大阪ガスの企業文化

HIP:大阪ガスのメインであるエネルギー事業とは、直接的に関わりのないビジネスですが、そこに対して社内から反対意見などはなかったのでしょうか?

末光:それはなかったですね。私のいた研究所でも、むしろ新規のテーマこそ重視されるような文化がありました。自社のコア技術だけでなく、そこからどんどん派生技術を立ち上げていくことが推奨されています。ですから、放射冷却についてもすんなりと受け入れられました。

夘瀧:研究所だけでなく、大阪ガス全体が昔から新規事業に対しては積極的に取り組んでいましたからね。一時期は本当に幅広い領域のグループ会社があって、それこそホームセンターまで手がけていたんですよ。

ですから、もともとチャレンジングな風土はあったのですが、2018年にイノベーション本部が新設されたことで、その動きがより強まった気がします。同部署では、エネルギー以外の分野でも積極的に新しい事業を生むための研究開発を行っています。そうした変化も、SPACECOOLの事業を進めるうえで追い風になりましたね。

以前HIPでイノベーション本部から生まれた事業を取材した「大阪ガスの若手が牽引。新規事業プログラムから人気アプリtaknalが誕生」の記事

宝珠山:ちなみに、日本でつくられた最初期のウェブサイトのひとつに大阪ガスのものがあったと思います。新規事業だけでなく、新しいものにチャレンジする土壌をもともと持っている企業なんです。私も、今回の協業に際してあらためて大阪ガスさんの歴史を調べてみたのですが、正直驚きました。こんなことまでやってたの? って(笑)。

JV設立を本部に説得できたのは、賛同してくれる仲間が増えたから

HIP:本事業を進めるうえで、なにか課題のようなものはありましたか?

末光:そもそもJVを設立すること自体が珍しいので、そこがもっとも大きな壁でした。挑戦する文化がある企業とはいえ、その理解を得たり、会社の稟議をとおしていくハードルは高かったですね。

HIP:具体的に、どんな点が難しかったでしょうか?

夘瀧:通常、研究所から新規事業が生まれる場合、大阪ガスグループ内の事業会社が新規事業のタネとなる技術シーズを引き継いで、事業化していくという「規定路線」があります。

それを変えるとなると、やはり相応の理由が必要になるわけです。なぜJVなのか? そもそも、どうしてベンチャーライクに進める必要があるのか? これを説明するのに難儀しましたね。

末光:たとえば「ベンチャーライクにやると、猛烈に事業スピードが上がる」といっても、なんとなく感覚的にはそうだろうなと思っても、定量的に説明しづらいわけです。むしろ、大企業はすべての機能を持っているわけですから、規定路線でやったほうがスムーズなんじゃないかと。

HIP:そこを、なぜ突破できたのでしょうか?

末光:この事業が広まれば、社会課題を解決できる確信があったので、その理由を熱量を持って周りに伝えることで、賛同してくれる仲間が増えたのが大きかったですね。ここにいる夘瀧さんもそうですし、WiLさんのサポートも心強かった。

研究所のメンバーだけで押し通すことは難しかったと思いますが、今回のように社会全体に広げていける事業の場合は、JVの体制が望ましいと、いろんな部署の人が声を挙げてくれました。そして、いまではそのときに共闘したメンバーが大阪ガスから出向し、ともに事業を進めてくれています。

大阪ガスのやり方を押しとおさない。ベンチャーライクに推進するための意識

HIP:大阪ガスとWiLがJVを設立するのは初めてとのことですが、初めて組む相手と事業をつくっていくうえで、大事にしているポイントを教えてください。

夘瀧:私が意識しているのは、「大阪ガスのやり方」を押しとおさないことです。もし、別の簡単な方法があるんだったら、そっちを選んだほうがいい。

とくに、私や末光のような大阪ガスからの出向組は、どうしても大企業のルールが染みついていて、ベンチャーライクに進めていくうえではそれが枷になってしまうこともあるはず。ですから、なるべく新しいやり方を選択し、うまくいったものを大阪ガスに還元することを心がけています。

末光:私も夘瀧と似ていますが、これまでとはまったく違う考え方が必要だと思っています。それは私自身の仕事のやり方もそう。研究所で研究だけに没頭していたときは、学術的や特許的に面白い部分を追いかけてきたところがありました。

しかし、ベンチャーライクなアジャイル開発をするには、目の前の課題を見据え、市場の声を聞いたうえで優先順位をつけ、より緊急性の高い研究開発に取り組んでいかなくてはならない。このプロセスの違いに対応するには、大胆な頭の切り替えが必要ですね。

いきなり海外展開を見据えるのもアリ。SPACECOOLが秘める無限の可能性

HIP:最後に、このSPACECOOLの事業を今後どんなふうに発展させていきたいかお聞かせください。

夘瀧:やはり、このSPACECOOLを世界中で使ってもらいたいです。大阪ガスがやるとなると、「最初は関西圏から」となりそうですが、ぼくはこのSPACECOOLの場合、いきなり海外展開を見据えてもいいのではないかと思います。

それこそ、季節を問わず需要がある赤道直下の国々など、どんどん攻めていきたいですね。私自身、大阪ガスでさまざまな事業に携わってきましたが、これほど業界や地域を選ばず、幅広い需要がある商材って本当に珍しいので、大きな可能性を感じています。

末光:だからこそ、さまざまな分野の企業とつながりたいですね。私と夘瀧は現在、コロナ禍の影響で大阪を拠点にしていますが、出向元の大阪ガスは大企業の新規事業担当者が集まる虎ノ門のインキュベーションセンター「ARCH」の会員でもあります。コロナ禍が落ち着いたらARCHにも顔を出し、そこからさまざまな大企業とコラボして、あらゆる分野の社会課題にSPACECOOLの素材を活用できたら良いですね。

また、SPACECOOLは熱の課題を持つ、あらゆる業界や地域に使えますが、この素材ならではのキラーコンテンツのようなものは、まだ見つかっていません。ですから、まずは「この放射冷却素材でしか解決できない社会課題」を見つけたいと思っています。

そのためにも、まずはあらゆる市場にどんどん出して、リアクションを得ていきたい。そのうえで、SPACECOOLにしか解決できない価値を、世界中に普及させていきたいと考えています。

宝珠山:私も二人と同意見です。これまでの世界はエネルギーを消費してなんぼの社会でしたが、SPACECOOLは電力などを用いずに物の温度を下げることで、結果的にエネルギーの消費を抑制することができる。

つまり、世界中に広まれば広まるほど、世の中をより良くしていくことができる商材ですし、ESG投資という視点でも、かなり優れたビジネスになるはずです。個人的にもそんな商材に関われるなんて、そうそうあることではないですし、純粋にもっと頑張ろうというモチベーションになりますね。

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Profile

プロフィール

宝珠山卓志(SPACECOOL株式会社 代表取締役社長 / 株式会社WiL ビジネスクリエイションパートナー)

1995年、早稲田大学卒業後に電通に入社し、ドコモ担当の営業に従事。1999年の iモード開始時よりドコモと電通のJVであるD2Cの設立プロジェクトに参画し、2000年以降19年間にわたりモバイル広告市場の創出、事業拡大に邁進。2010年に代表取締役社長(NTTグループ、電通グループ最年少)に就任し、モバイル広告市場の興隆を牽引。2019年グループ代表退任後、ビジネスクリエイション担当パートナーとしてWiLに参画。21年4月からSPACECOOL代表取締役。

末光真大(SPACECOOL 株式会社テクニカル本部長)

2012年、大阪大学大学院卒業後に大阪ガスに入社し、研究開発業務に従事。専門分野は光工学。光を自在に操る技術「フォトニック結晶」の開発を行う。2019年に京都大学にて博士号を取得。SPIE Green Photonics Award(2016)および応用物理学会奨励賞(2019)を受賞。2021年5月からテクニカル本部長としてSPACECOOLに出向。

夘瀧高久(SPACECOOL 株式会社アライアンス本部長)

2007年、大阪大学大学院卒業後に大阪ガスに入社し、脱炭素技術の開発に従事。2015年から、米国ヒューストンにおけるフリーポート液化基地の建設プロジェクトの参画。2018年に帰国後、大阪ガスの企画部門にてR&Dやイノベーションの戦略立案・推進に従事。2021年5月からSPACECOOLに兼務出向し、アライアンス本部長を兼任。

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