ベンチャーや大企業など、違ったバックグラウンドを持つ仲間とつながることができた。
石井氏の講演が一段落したところで、これまでの「始動 Next Innovator」に挑戦した三名の参加者が壇上に登場。日本初の音声認識AI英会話アプリを開発したappArray株式会社の立石剛史氏(第1期参加者)、東京急行電鉄で「東急アクセラレートプログラム」を立ち上げた山口ほたる氏(第3期参加者)、株式会社NTTドコモの新規ビジネス特区「39works」を立ち上げた菊地大輔氏(第2期参加者)が、「始動 Next Innovator」での活動を振り返り、そのメリットを語った。
石井:みなさんが何を学ぶために「始動 Next Innovator」へ参加したのかを伺えればと思います。まず立石さん。参加後は大企業を飛び出して自ら事業を起こしていらっしゃいましたね。
立石:はい、プログラム修了後に会社を立ち上げ、現在は英会話アプリ「SpeakBuddy」の開発、運営を行っています。始動イノベーターに参加を決意した時点で、起業するという気持ちだけは固まっていました。
そのため、起業をするための方法論や実務的な面を学ぼうと申し込んだのですが、参加してみると、私には「Thinker」としての視点が欠けていることわかりました。テクノロジーでイノベーションを起こすという思いはあったのですが、考えを深める部分が足りていなかったんですね。「英語を学びたいと考えているユーザーが持っている課題の本質とは何か」「そのためにどう開発を進めていくか」など、事業やサービスを深く考える契機になりましたね。
また「起業について相談できる仲間を得られるメリット」も大きかったと語る立石氏。ベンチャーや大企業など、違ったバックグラウンドを持つ同期のような仲間とつながることができ、いまでもお互いに刺激を与えあう関係は続いているという。
なかなかリスクを取れない大企業のなかでも、立場が変わればチャレンジしてくれる人はいます。
続いて話したのは、東京急行電鉄で新規事業を促進する「東急アクセラレートプログラム」の運営に関わる山口ほたる氏だ。大企業内でイノベーション人材を生み出すために必要なことを石井氏とディスカッションした。
石井:経済産業省の統計データによると、世の中の7割の方々が「起業に興味がない」と回答しています。そして、この7割の人たちはチャレンジしないだけではなく、チャレンジする人に対して「そんなことやって何になるんですか?」と、反対したり止めたりするそうなんです。山口さんは「東急アクセラレートプログラム」の運営に関わり、イノベーターを生み出そうと取り組んでおられますよね。2018年度で4年目ということですが、これまで続けてきたなかで手応えはいかがでしょうか?
山口:やはり大企業特有の難しさは感じています。ただ、社員のマインドがなかなか変わらないのは立場の問題もあって、一概に悪いとはいえないと感じているんです。リスクを回避しながら堅実な仕事をこなしてきた人が、いきなりイノベーションの創出を求められても、すぐに適応するのは難しいですから。
いっぽうで、ずっと保守的だったのに、社内での立場が変わった途端、チャレンジに前向きになってくれる人もいます。大企業に入社すると、自分の人生をどう生きていきたいかを考える機会が減ってしまう人が多いのですが、キャリアの節目にふと考えてしまうのかもしれません。
「始動 Next Innovator」で得られた、熱量を持った仲間との出会い
社内での新規事業を爆速で実行することをミッションとして、NTTドコモ社内に立ち上げられたインキュベーションプログラム「39works」。社員が起案したアイデアを、ドコモのCTOが直接承認することで、社内調整などをスキップし、新規事業を即開始できる。パートナー企業と共同での事業化が原則となっているが、その事業判断はすべて担当者に全権委任だという。
菊地氏は、この39worksの立ち上げに関わった後、自らその制度を使って、IoTハードウェア製造を行う事業「39Meister」をスタート。菊地氏に対して、石井氏からは「NTTドコモという大企業にいながら、どうしてこんな自由な活動ができるのか」という質問が飛んだ。
菊地:ドコモは大企業であり、事業化のスピードも速くはありません。そこで、既存の社内ルールとは切り離して、熱意を持った社員がいい意味で自由に活動できる環境をつくるため、39worksを立ち上げました。新規事業の全権限を担当者に渡すことを前提に立ち上がったプロジェクトでしたが、それでも正直、大企業のなかで運営していくのはやりづらいところもあります。
たとえば、私が代表を務める「39Meister」は、IoTハードの開発をドコモの外部で事業化しています。市場スピードに合わせてAIやLPWA(低消費電力、低ビットレートの無線技術)など新たな技術をどんどん採用していますが、それが既存事業の方針と合致しないケースも出てくる。
本来それに気づかうことなく、市場にフィットしたサービスを提供するのがわれわれのミッションなのですが、どうしてもドコモ内の事業部にはそれが理解されないこともあります。こういったことに直面したときに担当者が取るリスクって、ベンチャー企業が取るリスクとは、また別の独特のものなんですよね。
「始動 Next Innovator」で得られたものを聞かれると「熱量を持った人との出会い」だと語る菊地氏。製造業の集まる東京都大田区との共同活動など、「始動 Next Innovator」で意気投合したメンバーとの、互いの立場や強みを活かしたコラボレーション事例が多数報告された。
講演後の石井氏に、あらためて「始動 Next Innovator」が求める人物像を伺うと、「ただ一つの条件は、チャレンジ精神を持っていること」と語ってくれた。多様性を担保するため、可能な限り募集制限はかけないという運営方針が、こうした熱いコミュニティーをつくりあげている。
「始動 Next Innovator 2018」では、現在プログラムの参加者を受付中だ。海外に向けた事業にチャレンジしたいという気持ちのある方は一度検討してみてはいかがだろうか?