日本は起業小国。でもボタンひとつで、状況が一気に変わると確信しています。
HIP:日本の起業の状況は、他の国と比べていかがでしょうか。
山川:バブソン大学が世界中のリサーチャーと協働してつくっているデータ(Global Entrepreneurship Monitor Report:通称GEMレポート)によると、日本は歴史的にも起業小国で、ずっとワーストなんですね。
テクノロジーも教育水準も優れているのに、日本の起業指標が低い要因は3つあって、「起業機会の認識度の低さ」「起業に対する自信のなさ」「失敗への寛容度の低さ」の項目で、世界ワースト1位という結果が出ています。
HIP:思い当たるふしはありますが、ワースト1位とは驚きです。
山川:徐々に変わってきてはいるんですよ。例えば、東日本大震災の直後から「Social Entrepreneur(社会起業家)」という言葉を聞く機会が圧倒的に増えました。少し前までの起業家といえば、スティーブ・ジョブズみたいな、野心的で天才肌のイメージがありましたが、最近は志を同じくした仲間で集まって、何か社会に役立つことをしたいという起業家が多いんです。
ただ、起業家予備軍が生まれても、それを牽引してサポートできる人が少ない。スポーツだったら上手な人と一緒に練習すれば、サッカーでも野球でもうまくなります。起業も同じで、周りに起業家がいれば困ったときに相談して、どんどん成長していけるのに、それが難しい状況にある。つまり、起業家や投資家が集まり、成功した先輩がコーチになってあげられるようなコミュニティーを増やすことが重要なんです。
HIP:まだ課題は多そうですね。
山川:日本人の勤勉さや辛抱強さは、起業に大事な要素ですし、何かボタンを押してあげると、状況が一気に変わると確信しています。私の使命はそのボタンが何かを探って、それを押しやすく調整してあげること。そしていま話しているような内容を、できるだけ多くの人に伝えることです。ありがたいことに日本各地で講演する機会が増えています。
「失敗」をシェアする企業が出てくることが大事。そのための環境をつくっていきたい。
HIP:山川先生は、毎週木曜日に虎ノ門ヒルズで行われる起業家のコミュニティー『Venture Café Tokyo』を主催されていますね。
山川:『Venture Café Tokyo』のミッションは、「Connecting Innovators To Make Things Happen(イノベーターをつなげたコミュニティーで何かをつくろう)」ということ。官公庁や企業が集まる虎ノ門という立地を生かして、起業家、投資家、大企業の新規事業担当者、さらには学生もつなげて、新しい何かが起こる仕掛けを生み出していきたいと考えています。
HIP:ここでも「失敗学」のお話をされているのですか?
山川:はい。コツコツ伝えていきたいと思っています。ちなみにオープニングイベントでは、「Failure Is Good」とデザインされたTシャツを来場者プレゼントとして配りました。このメッセージが企業のトップに伝わって、失敗に対する寛容度が組織のなかで和らぐことがあればいいなと。
重要なのは、失敗をシェアする企業が続々と出てくること。そのためにも、まずは「失敗した」と言える環境と、それを共有する仕掛けをつくっていきたいですね。
HIP:大企業の新規事業担当者に話を伺っていると、やはりみなさん「失敗」のプレッシャーのなかで、苦労されていると聞きます。そうした背景のなかで、彼らの手助けになることは何だと考えますか?
山川:あえて「小さい失敗を重ねる」ことだと思います。いきなり大きなことに挑戦して失敗するのではなく、新しいことに挑戦しつつ「少しずつ」失敗してみる。そうして周囲の人たちに「失敗しても怖くない」ことを伝えて、地道に慣らしていくんです(笑)。
「Change The World」という言葉を好む起業家は多いですが、スケールが大きすぎるといえなくもない。だから、「Change The World」ではなく「Change Your World」をオススメしたいんです。
世界は変えられなくても、自分自身を変えていくことはできる。自分を変えるということは、自分の家族や友人、属するコミュニティーも変えられるかもしれない。それがさらに広がっていくと、いずれ「Change The World」につながっていくはずなんですよね。