INTERVIEW
ZOZOからエネルギー事業へ。パワーエックス起業家が語る、未来をつくるためのオーナーシップ
伊藤正裕(株式会社パワーエックス 取締役兼代表執行役社長CEO)

INFORMATION

2025.01.28
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:北原千恵美 編集:包國文朗(CINRA)

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アクセルをベタ踏みし続ける勇気が世界を変える

HIP
パワーエックスの経営面での特徴は、その圧倒的なスピード感です。2023年には岡山県玉野市に大規模な蓄電池工場「Power Base」を開設。超急速EV充電ステーションも、2025年には300拠点まで拡大する予定であると。また、並行して電気運搬船の開発も進行中です。わずか3年あまりで、なぜここまでのことができたのでしょうか?
超急速EV充電ステーション「PowerX チャージステーション」
伊藤

起業当初から言い続けていることですが、「日本が許容できる最大のスピードで駆け抜けよう」というのが私たちの合言葉です。日本の企業として期待されるクオリティは担保しつつ、何事においても速いスピードで実行し続ける。つねにアクセルをベタ踏みした状態で走り続けられる勇気を持てるかどうか。これが大事だと考えています。私がそこで日和ってしまったら、その瞬間に事業もこぢんまりしてしまうでしょう。

蓄電池でいえば、少なくとも国内シェア60%を取るまではベタ踏みを続け、飛躍し続ける。60%までいけば次の事業にもどんどん投資ができてまたベタ踏みができるのですが、これがシェア5〜10%のところで小さくまとまっていたら、次の変革を起こせなくなってしまいます。

電気運搬船だって同じです。はじめの1隻をつくるのは大変ですが、完成すれば景色がまるで変わってくるでしょう。もちろん、ベタ踏みを続けるには相応の体力も必要ですし、覚悟もいる。正直、ヒヤヒヤしっぱなしですが、それも楽しみながらみんなで突き進んでいるところです。

HIP
そうしたスピード感を生み出す原動力となる人材を確保するために、パワーエックスでは魅力的な労働環境の整備にも力を入れています。その1つが岡山の生産拠点「Power Base」。建築家の妹島和世さんが手掛け、自然と共存する「未来の工場」をコンセプトに掲げています
国内最大級の蓄電池モジュール工場「Power Base」(岡山県玉野市)
伊藤

労働力不足が加速していく流れのなか、ホワイトカラーの仕事をAIに置き換えていく動きがある一方で、製造業においてはロボットへの置き換えもまだまだ時間がかかると見られています。そうなると、キーになるのはいわゆるブルーカラーと呼ばれる人たちの存在です。

少なくとも今後10年は製造業においてブルーカラーは極めて貴重な人材となり、獲得競争が熾烈になるでしょう。工業高校や高専出身の国家資格を持つ人材であれば、おそらく年収1500万円、2000万円クラスの高所得者がザラに出てくるはずです。岡山出身の若者が就職先を選ぶ際、東京の商社と地元のパワーエックスを天秤にかけるような時代が間もなくやってくるのではないでしょうか。

そこで選んでもらうためには給与はもちろん、働く環境も非常に重要です。岡山の生産拠点は最終的に大学の「キャンパス」のような、みんなが行きたくなるような工場を目指しています。営業拠点、開発拠点、製造拠点と、すべてのメンバーが同じ屋根の下に集まる。どちらの立場が上ということもなく、多様な知見や考え方を持つ従業員たちが同じ目的に向かって働く。そんな、これからの日本にあるべき工場をつくりたいと考えています。

センス・オブ・オーナーシップがあれば、フルスイングできる

HIP
大企業の新規事業の課題の1つが、まさにスピード感の欠如です。新規事業担当者ならびに経営陣のマインドセットがどう変われば、この問題を改善できるとお考えでしょうか?
伊藤

やはり、「センス・オブ・オーナーシップ」(事業における当事者意識)という言葉に尽きると思います。つまり、いかに一人ひとりがその事業のオーナーであると自覚し、行動できるか。私自身、ZOZOという上場企業の取締役と、スタートアップの経営者の両方を経験したからこそ、余計にそう感じます。

ZOZO時代に関していえば、前澤友作さんという創業者が会社を去ったあとに、私を含めた3名の取締役が「守り」に入ってしまった時期がありました。会社の規模を現状維持することが最優先事項になり、新規事業に関しても画期的なチャレンジというよりは、従来の事業の枠組みから大きく外れないものしかできなかった。

一方で、パワーエックスは自分がつくった会社なので、まったく怯むことなく何にでもチャレンジできます。会社を潰すのも、100倍にするのも自分次第。まさに、「センス・オブ・オーナーシップ」です。センス・オブ・オーナーシップがあれば、会社の規模に関係なくフルスイングができる。まずはその意識と行動変容が重要なのだろうと。

とはいえ、日本の場合、コーポレートガバナンスの制度上の問題もあって、取締役がチャレンジしづらいという事情もあります。新規事業を統括するイノベーション担当の役員も、失敗せずに無難にやっているほうがポジションを守れるので、従業員に対して「フルスイングしろ」とはなかなか言いづらい。これでは、センス・オブ・オーナーシップは生まれるはずがありません。

HIP
仕組みそのものを変えていく必要があると。
伊藤

そうですね。企業側だけでなく東証や金融庁、監査法人なども含めてルールを少し変えるだけで、フルスイングする人がどんどん出てくるのではないかと思います。もちろん、報酬も大事です。本来はフルスイングして特大ホームランを打てば、それでリタイアできるくらいの報酬を得られることが望ましいのですが、現状はそうなっていません。だから、取締役や顧問として、細々とでも経営に留まり続けることを選んでしまう。

本来、日本人は世界でも珍しいくらい働きますし、イノベーティブな人材がいるはずです。いろいろなことが変わっていけば、日本人ならではのイノベーションが数多く生まれるはず。そういう意味では、現状は少しもったいない状況なのかなと感じますね。

安価なクリーンエネルギーを供給し、日本の国力アップに貢献する

HIP
エネルギーや蓄電池は極めて社会性の高い事業です。伊藤さんはこの事業を通じて、最終的にどんな社会をつくりたいとお考えなのでしょうか?
伊藤

パワーエックスのゴールは「電気代を安くする」ことです。人間はエネルギーなくして生きられませんが、そこにコストをかけすぎると経済は回りません。電気代が安くなれば国内の製造業も活力を取り戻しますし、一人ひとりの生活も豊かになる。

とはいえ、そのための代償として地球環境が悪化することは避けなければいけません。一刻も早く化石燃料に頼らざるを得ない状況から脱却し、安価な再生可能エネルギーにシフトしていく必要があるでしょう。ここにきて、ようやく再生可能エネルギーのコストも下がってきました。これを蓄電池によって安く貯めて、滞りなく使えるようになれば、インフラとしての標準化も可能になる。そうなれば、再生可能エネルギーを最も安く使いこなすことができるようになるはずです。

つまり、パワーエックスが成功して日本の電力がクリーンになっていくと、環境を犠牲にしない安いエネルギーをどんどん活用できるようになり、国力が上がっていく。再生可能エネルギーを爆発的に普及させるためのカタリスト(触媒)になるという決意で、事業に取り組んでいます。少なくともこの先しばらくは懸命に働き、ベタ踏みで突っ走る必要がありますが、それだけの価値は十分にあると思います。

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プロフィール

伊藤正裕(株式会社パワーエックス 取締役兼代表執行役社長CEO)

1983年生まれ。東京都出身。2000年、17歳でヤッパを創業。14年にM&Aによりスタートトゥデイ(現ZOZO)にヤッパの株式を売却。19年にZOZOの最高執行責任者(COO)に就任し、「ZOZOSUIT」などの開発を担当。21年にパワーエックスを創業。

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