INTERVIEW
「日本が世界で勝負するならメディアアートだ」規模を拡大し続ける『MEDIA AMBITION TOKYO』にかける思い
浜田具(JTQ Inc.) / 杉山央(森ビル株式会社)

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2016.03.15

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都市を舞台に開催されるテクノロジーアートの祭典、『MEDIA AMBITION TOKYO』。通常の美術館やギャラリーでは体験できない実験的な作品や、企業とのコラボレーションが話題を呼び、年々規模が拡大しているイベントだ。4年目の今年は開催エリアも拡張し、六本木をはじめとした青山・銀座・お台場などの都内各所を舞台に、最先端のアートや映像、音楽、パフォーマンス、ハッカソンやトークショーが集結する。

「民間による民間のためのメディアアートイベントをゼロから立ち上げたい」という強い思いのもと毎年イベントを続けてきた背景には、どのような苦労があったのだろうか? 立ち上げの立役者である、JTQ Inc.の浜田具氏と森ビル株式会社の杉山央氏のお二人に、プロジェクトの裏側を聞いた。

取材・文:HIP編集部 写真:大畑陽子

場所も、人も、お金もゼロから立ち上げることで、自分たちが考えるメディアアートの楽しさを伝えたかったんです。

HIP編集部(以下、HIP):『MEDIA AMBITION TOKYO(以下、MAT)』は今年で4回目だそうですね。都市を舞台にしたテクノロジーアートの祭典とのことですが、どのようなイベントなのでしょうか?

杉山央氏(以下、杉山):「未来を創造するテクノロジーの可能性を、東京から世界に向けて発信したい」という思いのもと、アートや映像、音楽、トークイベントなど様々なプログラムを開催しています。LEXUSとアーティスト平川紀道さんのコラボ作品、ゲームクリエイター水口哲也さんとライゾマティクス、Keio Media Designとのコラボ作品など、ジャンルを超えたコラボレーションが生まれました。今回で2度目の開催となる音楽家の渋谷慶一郎さんがプロデュースするオープニングイベントのほか、今年はチームラボのオフィスツアーなども行います。

MEDIA AMBITION TOKYO Opening Live Keiichiro Shibuya Produce “Digitally Show”
‘the view[for LEXUS LF-LC]’ by Norimichi Hirakawa X LEXUS / Media Ambition Tokyo 2016

HIP:イベントを立ち上げたきっかけは何だったんでしょうか?

杉山:人のつながりが大きいですね。『MAT』を立ち上げたメンバー、JTQ Inc.代表の谷川じゅんじさん、CG-ARTS協会の阿部芳久さん、ライゾマティクスの齋藤精一さんとのつながりは随分前からあって、「何かしたいね」という話をずっとしていました。それで、「『文化庁メディア芸術祭』が開催される時期に、メディアアートのイベントを新たに立ち上げよう」という話が挙がったんです。

浜田具氏(以下、浜田):「民間による民間のためのメディアアートイベント」を作り上げたかった。場所も、人も、お金もゼロから立ち上げることで、自分たちが考えるメディアアートの楽しさを伝えたかったんです。

杉山:『ミラノサローネ』って世界的な家具の見本市があるじゃないですか。開催期間中、夜になると街のあちこちでパーティーやイベントが催されていて、昼の見本市と夜のパーティーが合わさることで、デザインの本場として認知されている。六本木でも、『文化庁メディア芸術祭』が昼間に開催されている間、夜にはパーティーシーンを作り、そこで昼間できなかったことをやることで、都市を舞台にメディアアートシーンをもっと盛り上げていけるのではないかと思ったんです。

HIP:昼間にできなかったことというのは?

杉山:『文化庁メディア芸術祭』は、国立新美術館という建物の中で開催されているイベントです。だから、夜のイベントは美術館だけではなくて、普段展示で使っていない廊下であったり、閉まっている店舗だったり、展示空間ではないところも展示空間にしてしまおうと。「展示空間を拡張させる」というのが1回目の趣旨でしたね。

僕たちは、日本が世界で勝負するならメディアアートだと思ってるんです。

HIP:今年は様々なエリアに広がったそうですが、1回目は六本木ヒルズでの開催だったそうですね。杉山さんは森ビルで働かれていらっしゃいますが、どのようにしてイベント実施に至ったのでしょうか?

杉山:会社に対して、このイベントを実施することのメリットを提示する必要がありました。開催しようと思っていた2月は、ちょうど商業施設的にも閑散期でもあったんです。このイベントで集客できれば、施設としてもブランディングに貢献できるのではないか……と上司を説得し、ゲリラ的なイベントとしてなんとか開催できました。展示空間以外で実施するというのはやはり課題も多く、毎日色んな方面から怒られていましたね(笑)。

浜田:ゼロから立ち上げたので、お金の面では非常に苦労しましたよね。今でもそうなのですが(笑)。

杉山:そんな状況でも、「やりたい」という気持ちが強かったからできたことだと思います。『MEDIA AMBITION TOKYO』という名前に含まれている「ambition(野望、強い欲求という意味)」は、今でもいい名前だなと思いますね。また、東京の街から世界に向けて日本の高い技術やアートの良さをもっと発信していきたいという思いを込めて、「TOKYO」をつけました。日本が世界で勝負できるのは、ファッションやサブカルチャーだけではない。僕たちは、日本が世界で勝負するならメディアアートだと思ってるんです。

HIP:なんとか開催できた初回から、少しずつ規模が大きくなっていますね。

杉山:2013年に開催した第1回目は、私や浜田さんの知り合いのアーティストに声をかけてこじんまりと開催しました。最初は小さかったイベントも、毎年続けることによって輪が広がってきたんです。『MAT』の思想に共感する人たちが増えてきたことを感じますね。

HIP:共感する人たちが増えてきた、その手応えを感じた瞬間はありましたか?

杉山:2015年に、これまで会場として使っていた六本木ヒルズが改修期間中で使えなかったことがあったんです。浜田さんと「今年は見送るか?」なんて話をしていたんですけれど、「いや、やはり文化庁メディア芸術祭がある2月にやるべきだ」ということで、他の会場を巻き込むことにしたのがターニングポイントでした。

HIP:六本木ヒルズの外に会場が広がっていったんですね。

杉山:そうなんです。六本木ヒルズだけのイベントではなくなったと同時に、『MAT』が世の中に広がっていった感じがしました。ちゃんと開催の記録を冊子にして残していたので、それがよかった。実績がゼロだったら話は聞いてもらえなかったでしょうね。おかげで、4年目の今年は13箇所で開催できることになりました。

左から、浜田具氏(JTQ Inc.)、杉山央氏(森ビル株式会社)

六本木ヒルズにとって、他の施設はライバルではなくて、一緒に六本木というエリアを盛り上げる仲間。

HIP:2015年の『MAT』では、東京ミッドタウンで野外アイスリンクを使ったライゾマティクスによる作品(『Skate Drawing』)が展示されたそうですね。開催場所の中には、森ビルの競争相手ともいえる企業が運営する施設も含まれているのが新鮮です。

杉山:私たちは施設間競争からエリア間競争へとポイントが移っていると考えているんです。六本木ヒルズにとって、他の施設はライバルではなくて、一緒に六本木というエリアを盛り上げる仲間。エリアで見ていくと、渋谷や丸の内といったエリアがライバルになるのかもしれませんが、東京オリンピックが決まった今、他のエリアも同じ東京を盛り上げる仲間だと思っています。

浜田:『MAT』は、場所も、お金も、コンテンツも、すべてが不確かな状態から企画が始まりました。どれか一つでも決まっていれば進めやすいのですが、そうはいかず、すべて並行して物事を動かしていく必要がある。そうした状況の中で、重要になるのは「人の思い」なんです。なので、ポリシーをまず相手に伝え、思いをわかってもらうというウェットな営業を行っています。

HIP:アーティストと企業によるコラボレーション作品など、ジャンルやカテゴリーの枠を超えた作品が見られるところは『MAT』のユニークな点の一つだと思いますが、どのようにしてプロデュースを行っているのでしょうか?

杉山:アーティストには「自分が作りたい作品を自由に作る」ようにお願いしているので、その中でアーティスト自身がメーカーを口説いて、作品に必要な機材を出してもらったりしています。メーカーからすると、機材をアーティストに使ってもらえるし、展示もできるので嬉しいですよね。

浜田:アーティストが関わることで、メーカーはマーケティング色を排除することができる。普段のビジネスで行う「発注して、作ってもらう」という流れとは違う関係性が生まれていますね。

杉山:通常のビジネスにおける関係性とは異なるので、私たちは「協賛」ではなく、「パートナー」という呼び方をしています。アーティストのつながりからパートナーが増えていくことも珍しくありません。例えば、「MOON PARKA with SANSUI」という作品は、山形県庄内のバイオベンチャー会社Spiber Inc.と、アウトドアアパレル会社のTHE NORTH FACEが共同開発で作り上げるジャケットに、映像アーティストのEUGENE KANGAWAがコンセプチュアルムービーを制作したコラボレーション作品です。アーティストをきっかけに、Spiber Inc.とTHE NORTH FACEとの関係を築くことができました。

‘MOON PARKA with SANSUI’ by THE NORTH FACE X Spiber with EUGENE KANGAWA / Media Ambition Tokyo 2016

HIP:『MAT』を通じて、企業やアーティストのネットワークが広がっているんですね。

浜田:「アーティストを育てたい」という気持ちを持っているライゾマティクスが運営に関わっているので、表現の見せ方の手助けができる。また、森ビルはアーティストに場所を提供することができる。こうした環境で辛抱強く続けてきたからこそ、少しずつ輪が広がっていったんだと思います。

杉山:「企業やアーティストとのネットワークを広げていきたい」という思いは、文化・芸術を都市作りのミッションの一つとして掲げる森ビルとしての思いでもあります。『MAT』は、そのための装置のような役割を担っていると思うんです。今は、単に六本木ヒルズという場所だけ提供してもらうのではなく、『MAT』を通じて東京の街を盛り上げていくという意味で、会社にもメリットを提供できていると感じていますね。オープンなネットワークを作り、そこから新たなビジネスを生み出せればいいと思っています。

マネタイズに苦労しているアーティストを支援するためにも、メディアアート自体の認知をもっと上げていきたいですね。

HIP:4年目を迎え、開催場所も13箇所に増えた『MAT』は、今どんなフェーズにあるとお考えなのでしょうか。

杉山:まだ種まきの状態ですね。本当はもう1ランク上に持っていきたいんです。経済活動として成立して、アーティストにも充分にお金が払えるようにしたい。今は、ブランディングやイメージ作りを行い、関わってくれる企業やアーティストを集めている段階です。実績を積んでいくことで、ビジネスとしてしっかり回るようにしたいですね。

浜田:4年前はライゾマティクスやチームラボといった会社の認知度もまだまだ低い状態だったので、それと比べるとメディアアートの認知度はかなり向上したと思います。ただ、それでもマネタイズに苦労しているアーティストも大勢いる状態です。彼らの活動を支援するためにも、メディアアート自体の認知をもっと上げていきたいですね。

HIP:ただでさえ大変なイベントを毎年開催しているお二人が、まだ先を目指すというそのモチベーションはどこにあるのでしょうか。

浜田:単純に、最初に思い描いたことをまだ実現できていないからでしょうね。

杉山:私も浜田さんと同じですね。最初にやろうと話し合ったことをまだ実現しているとは言えません。継続して開催し続けているという実績から、やっと「今年もやるんだな」と評価されるようになってきたので、5年や6年で終わるプロジェクトではないと思っています。

HIP:最後に、『MAT』が目指すこれからの姿を教えていただけますか?

浜田:国内外問わず様々な団体、企業などとのコラボレーションをさらに増やしていき、私たちも変化し、成長していきたい。そしてより多くの方々に『MAT』を認知、体験いただきたいと思っています。

杉山:2020年に東京オリンピックが開催される頃には、アートやテクノロジーの分野は今から大きく変わっているのではないかと思います。変化の担い手であるアーティストを支援し、より多くの人たちに作品に接してもらうことで、言語という枠組みを超えたコミュニケーションのきっかけを創出できればと思いますね。

‘Space Experiment #001: – Mirror Space / Minded Mirror ‘ by Rhizomatiks Architecture / Media Ambition Tokyo 2016

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プロフィール

浜田具(JTQ Inc.)

JTQ株式会社 プロジェクトマネージャー、ディスプレイ会社を経て2010年より現職。主にイベント、エキシビジョン、インスタレーション等空間コミュニケーション開発におけるプロデュースを担当。今年4回目となる「MEDIA AMBITION TOKYO」へはMAT実行委員会として立ち上げから参加している。

杉山央(森ビル株式会社)

2000年に森ビルに入社。都市開発や六本木ヒルズのイベント担当を経て、2013年から都市を舞台に開催されるテクノロジーアートの祭典「MEDIA AMBITION TOKYO」を実施。2015年には「六本木アートナイト」の事務局として、都市に広がるアート作品の企画を担当。現在は、森美術館 東京シティビューでの展覧会の企画やイベントのプロデュースを行なっている。

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