ラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市『CES 2018』に出展され、注目を浴びた世界初の洗濯物自動折り畳み機「ランドロイド」。2005年に開発に着手し、長い時間をかけてこの夢のAI家電を生み出したのが、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社(以下、セブンドリーマーズ)代表取締役社長の阪根信一氏だ。
これまで、独自製法のカーボン製ゴルフシャフトや鼻腔挿入デバイス「ナステント」など、ユニークで新しい製品を開発・製造してきたセブンドリーマーズ。この「ランドロイド」では、2015年よりパナソニック、大和ハウス工業という大企業がプロジェクトに加わり、そのノウハウによって、製品化への道が大きく拓けたという。
異なるビジョンやカルチャーを持つ大企業とベンチャーの協業によって、どのようにイノベーションが生み出されたのか。大企業が持つノウハウが、どのように世界初の家電の開発を加速させたのか。阪根信一氏に話を聞いた。
取材・文:宮田文久 写真:玉村敬太
洗濯機と同じように「ランドロイド」はコンシューマーの生活に入っていく。
HIP編集部(以下、HIP):まずは、世界初の洗濯物自動折り畳み機である「ランドロイド」について、うかがえますか。
阪根信一(以下、阪根):家庭内でいままで行われてきた「洗濯物を畳む」という家事は、みなさん非常に面倒くさいと思いつつも、時間をかけてやってきたと思います。「ランドロイド」は、その作業を全自動でやってくれる、いわば、洗濯機がなかった時代に洗濯機が生まれたがごとく、コンシューマーの生活のなかに入っていくAI家電として開発しました。
HIP:セブンドリーマーズの調査によると、4人家族の場合、人が生涯で洗濯物を畳むのにかける時間は、累計で約1年になるそうですね。そうした暮らしの課題を解決する家電として、先日出展されたラスベガスでの『CES 2018』でも驚きをもって受け止められたのではないでしょうか。
阪根:初めて「ランドロイド」を世の中に発表したのが、2015年の『CEATEC JAPAN』(毎年10月に千葉・幕張で開催される総合展示会、以下『CEATEC』)。その翌年には『CES』に小規模の出展をしていたのですが、今回は比較的大きなブースを構え、満を持しての出展でした。嬉しいことに、日本と同じく海外においても、とても良い反響を得ることができたんです。『ワシントンポスト』や『ウォールストリートジャーナル』から、朝のテレビニュース番組まで、アメリカだけで約80ものメディアが取り上げてくれました。
HIP:2005年の開発開始から、世界初の全自動洗濯物折り畳み機が生まれるまでには、さまざまなご苦労もあったかと思います。
阪根:洗濯物という「柔軟物」を折り畳むというのは、非常に難しい技術です。その衣類がどういった種類なのか、どこをどのように、どちらの向きに折るのか……これらをすべて、自動で認識しながら畳んでいかなければなりません。画像認識とAI、そしてロボティクスという技術を駆使しながら開発を進めてきました(2018年度内に出荷予定)。
阪根:人間が洗濯物を畳むときのことを思い浮かべるとおわかりいただけると思うのですが、2本の腕と、両手の指先の細かな感覚と動きで畳んでいきますよね。「ランドロイド」は、省サイズ化を図るために、シンプルなロボットアームを使用し、それを複数同時に制御しながら畳むというチャレンジに取り組んだ家電なんです。いままで、洗濯物折り畳み機というものは世に生まれていなかった。世界で初めて実現された技術です。
「ランドロイド」のゴールを考えたとき、大企業との協働を自然とイメージした。
HIP:そうした長きに渡る開発のなかで、セブンドリーマーズは大企業との協働も進めています。パナソニックおよび大和ハウス工業と2015年10月から協働を進め、2016年4月には合弁会社セブン・ドリーマーズ・ランドロイドを設立されましたね。
阪根:2005年から自社で開発をはじめて、2014年5月にやっと、初めてのプロトタイプが完成したんです。それまでは、外部の方にお見せできる段階ではなく、極秘で進めていました。
HIP:開発当初から、いずれは大企業との協働を、という思いはあったのでしょうか。
阪根:はい。2005年に「ランドロイド」のプロジェクトを立ち上げ、将来的にどんな製品になるのか、いわばゴールを考えたとき、現在のような協働のかたちはイメージしていました。資金面での必要性はもちろんありましたが、ほかにもいくつか重要な理由があるんです。
まず、これは現在も考えていることですが、いずれは洗濯乾燥機と一体型となった「ランドロイド・オールインワン」を発売したいという思いがあります。洗濯乾燥機の技術を持っていらっしゃるパナソニックさんと組ませていただけることは、われわれにとって非常に大事なことなんです。
また同じく将来的には、家のなかに「ランドロイド」を組み込んで、畳んで仕分けた洗濯物を、家族各自のクローゼットまで自動搬送する「ランドロイド・ビルトインワン」というモデルも考えています。家の設計やリノベーションの技術を持っていらっしゃる大和ハウス工業さんとは、ユーザー目線でのマーケティングや、老人介護施設へのリサーチなどもご一緒させていただいています。
HIP:なるほど。「ランドロイド」の未来を見据えたとき、大企業との協働は必然的なものとして立ち現れてくるわけですね。
阪根:はい。さらにそればかりでなく、大企業さんにはわれわれベンチャーが持っていないノウハウの蓄積があるんです。