建設業界が活気を帯びている。2020年の『東京オリンピック』をはじめとして、高度成長期に整備されたインフラの修繕整備、都市の再開発などで、今後も需要は活発だ。その一方で深刻化しているのが人手不足。今後10年間で、建設業に従事する技能労働者およそ343万人のうち、約3分の1の128万人が高齢化のために離職するともいわれている(2014年 一般社団法人 日本建設業連合会調べ)。
そういった課題を打破するために設立された企業が、株式会社ランドログだ。目指すのは、IoTを用いて建設プロセスの生産性アップを加速させるオープンプラットフォーム「LANDLOG」の普及。建設現場や機械から、さまざまなビッグデータを「LANDLOG」で収集し、パートナー企業へと提供することで、建設現場の働き方を効率化するアプリや、仕組みを開発してもらうという。
2017年10月に始動したランドログの取り組みは、建設業界の未来をどのように変えるのか。事業開発に携わるチーフデジタルオフィサーの明石宗一郎氏と、建設現場との橋渡し役を担うシニアマネージャーの関川祐市氏に話を聞いた。
取材・文:笹林司 写真:豊島望
LANDLOGは、ビッグデータを活用した「建設会社向けApp Store」のようなもの。
HIP編集部(以下、HIP):まず、ランドログがどのような企業なのか教えていただけますか。
明石宗一郎(以下、明石):株式会社小松製作所(以下、コマツ)、株式会社NTTドコモ、SAPジャパン株式会社、株式会社オプティムの合弁会社で、形式上はコマツの子会社になります。ただし、それぞれの会社からの干渉はほとんどなく、ある程度の裁量権を持った独立したベンチャー企業になります。
事業内容は、建設現場にあるすべての重機や機械、材料、作業者などから集めたビッグデータを、自社で開発したオープンプラットフォーム「LANDLOG」で分析し、3Dデータ化したものや、API(Application Programming Interface。外部アプリケーションと連携するためのプログラム)にしたものをパートナー企業に提供しています。
パートナー企業は、3DデータやAPIを活用して現場作業を効率化するアプリなどを開発します。パートナー企業が開発したアプリは、「LANDLOG」にアカウント登録している建設会社であれば、自由に使用可能です(無料ユーザーは一部使用制限あり)。建設会社向けのApp Storeをつくろうとしているといえば、わかりやすいかもしれません。
HIP:「LANDLOG」のデータをパートナー企業が使うことで、どのようなことが可能になるのでしょう?
明石:ビッグデータによって、建設現場を面で捉え、効率化を図ることができるようになります。たとえばこれまでは、「この地形だったら、この機械でこう掘ると効率的」とか、「この天候と人員だったらダンプトラックを何台用意して、このルートで走らせればスムーズ」といった現場全体を俯瞰した判断は、主に現場監督の経験則に基づいて行われていました。
しかし「LANDLOG」では、日々変化する建設現場の地形や、建設機械の稼働状況、それらに対する天候の影響などのデータを正確に細かく収集することで、現場全体を俯瞰して「面」で見ることが可能となります。そうすれば、現場が抱えている課題もより発見しやすい。
このように現場を「面」で見られるビッグデータをパートナー企業に提供することで、パートナー企業はそのデータを活かして建設現場の課題解決に役立つアプリを開発する。現場はそのアプリを使うことで、作業効率を上げることができるというわけです。
いまの建設業界は55歳以上が3割、20代は1割ほど。業界全体が危機感を感じている。
HIP:人手不足が深刻といわれる建設現場において、効率化は重要な課題だと思います。現状では、デジタルによる効率化があまり進んでいないのですか?
関川祐市(以下、関川):はい。その理由は、大きく3つあると思っています。1つ目は、建設現場はIoT機器の設置が難しいこと。建設現場は毎日のように掘削や整地する場所が変化し、使用する機材も変わってきます。ですから、センサーなどのIoT機器を簡単に設置することができません。
2つ目は、ひとつの現場に関わる業者の数が多く、すべての業者の情報を一元的に集めるのが難しいこと。3つ目は、これまで建設投資額に対して人手が足りていたので、人手不足への切迫感が少なかったということでしょう。
HIP:3つ目の人手不足は、今後さらに深刻化していく問題ではないでしょうか。
関川:はい。建設業界の年齢構造は、55歳以上が3割を占めています。29歳以下は1割程度です。さすがに業界全体が「いまやらないと駄目だ」と危機感を持ちはじめました。
明石:デジタル活用があまり進まなかったのは、業界全体がクローズドであることも関係していると思っています。建設業界は、大手ゼネコン企業と中堅ゼネコン企業10数社が、下請け企業を囲っている業界構造になっており、デジタル領域からプラットフォーマーが参入しにくい。なにより、現場の課題も内々で処理されてしまい、ブラックボックス化して外に漏れないので、デジタル化が広く進まなかったと推察しています。