INTERVIEW
「コンテンツ力」こそ、リスキリングを成功へ導く。テレビ朝日が立ち上げたeduleapとは?
寺田善之(株式会社eduleap代表取締役社長) / 石井貴裕(株式会社テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部 戦略担当部長)

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2023.07.20

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AIが集中度を判定する「LMS」が学びを変える

HIP:実際に、両社でどのような新規事業を生み出しているのでしょうか。

寺田:eduleapは「AIの学びを多くの人へ届ける」というビジョンを掲げており、デジタル人材の育成を目的とした教育事業を進めています。

現在、日本のAI教育を体系的に整理したものに「G検定」というものがあり、総受験者数も8万名を超え、今後さらに増えていくことが見込まれる検定試験になります。

eduleapでは、この「G検定」の取得に向けて、AIの基礎から応用の一歩手前までをカバーした動画コンテンツを180本制作。AMBL社内で使用していた教材をベースにしながら、テレビ朝日とともにつくったこの動画をBtoB向けに提供しています。今年の1月にリリースしてから、約50社の企業に試してもらい、アカウント数も1500を超えました。

HIP:AIを組み込んだLMS(Learning Management System)も活用していると聞いています。

寺田:はい。LMSを活用して「集中度計測AI」という機能を実装しました。学習中の人の顔を478個のポイントで認識し、視聴者が動画コンテンツをしっかり見ているかを診断します。学習中のどの部分で集中力が低下しているのかを把握することが可能になり、復習の目安や、自分の苦手分野の把握にも役立つという機能です。

LMSによる顔の認識とAIの集中度測定

取引先企業だけでなく、専門学校などの教育機関にもとても好評だったのは、嬉しかったですね。今後、データサイエンティストを育成するなどの学科も増えていくなかで、学校もITなどをどこまで教えるか試行錯誤しています。そうした背景のなか、当社の動画コンテンツやLMSといった機能が、さらに求められていくでしょう。

全社を挙げた協力体制をつくるために必要なこと

HIP:「G検定」取得のための動画コンテンツは、テレビ朝日のアナウンサーが解説を行なっています。まだ成果の出ていない新規事業にアナウンサーという人的リソースを活用するのはハードルが高かったのではないでしょうか? テレビ朝日社内でどのように協力を得たのか、お聞かせください。

石井:今回の教育事業の立ち上げにあたっては、番組制作など全般を主幹するコンテンツ編成局や、営業業務を主管するセールスプロモーション局など、社内各局からもサポートしてもらっており、会社全体で本事業をバックアップしてもらっています。

もちろん細かい部分での調整業務はありますが、大きなハードルはなく、事業連携自体はスムーズに進んでいると感じています。

eduleapによって制作された教育動画コンテンツは同社オフィシャルサイトに掲載

新しいことに積極的にチャレンジすべし、という社風もありますし、とくに今回の事業はデジタル人材不足といった社会課題解決への貢献という側面もありますので、全社で取り組むべきだという意識を皆が持ってくれています。

HIP:動画コンテンツについては、AMBLが培ってきた社員向けのリスキリング教材をそのまま流用して制作されたのでしょうか?

寺田:動画コンテンツに関しては、一からつくり直しています。じつはスタート当初はAMBLが社内で使っていた教材を外部向けに体裁を整えて、それをテレビ朝日のアナウンサーが解説すれば問題ないと考えていました。eduleapの立ち上げは2022年3月ですが、サービスのローンチは同年の9月を計画していたんです。

しかし、このサービスを誰に届けるのかといったことを、コンテンツ制作のプロであるテレビ朝日のスタッフも交え、一度立ち止まって考えてみました。そこで、幅広い人にAIなど最先端技術を理解してもらうコンテンツを目指すならば、現状考えているものでは十分ではないという結論にいたり、一から動画をつくることにしたのです。

石井:そこからテレビ朝日のディレクターや放送作家と、動画コンテンツの内容をどう伝えていくか考え直しました。

これまでテレビ局が手がけてきたコンテンツ制作のノウハウを駆使し、「教える側の目線」ではなく、とにかく「学ぶ側の目線」に立ってわかりやすく伝えることを意識した結果、ほかの教育コンテンツ動画とはまったく違ったクオリティになったと自負しています。

もちろん、AMBLにはAIのプロならではの監修をしてもらうという、そのプロセスも必要不可欠です。その結果、テレビ朝日だけでも、AMBLだけでもできない、そしてほかの誰にも真似できない、「視聴者本位」の教育コンテンツができあがったと思っています。

寺田:部分的には、ほかの教育系の企業とサービスのほうが勝っているところもあるかもしれません。しかし、要となる動画コンテンツをテレビ朝日がつくったという大きなアドバンテージがあります。わかりにくい情報を、飽きさせず、いかに集中して見てもらうか。そのハードルを越えられるかが、コンテンツの勝負どころでしたね。

石井さんも最初はAMBLの教材を見て、難しいと感じていたようですね。

石井:そうですね。ITの知識がなかったので、教材の5ページ目に「畳み込みニューラルネットワーク」と書かれていて「……これはなんだ?」というところから始まりましたから(笑)。

寺田:そんな石井さんたちと一からつくった動画コンテンツがeduleapの最大の強みです。サービスを企業に説明する際には「うちの動画なら、受講生の心が折れないですよ」と伝えています。

サブスクなどのBtoC展開も視野に

HIP:実際、サービスをローンチしてからの周囲の反応はいかがですか?

寺田:導入した企業は現在利用いただいている最中ですので、フィードバックはもう少しあとになりそうです。ただ、eduleapのバックオフィスにいたIT知識のない社員が、この動画コンテンツだけで「G検定」に合格しました。

動画は180本で約30時間あります。仕事をしながらeduleapの動画で「G検定」を学習するには、3か月から半年はかかりますので、導入企業からも近いうちに同じような実績が出てくるはずです。

石井:テレビ朝日の社内でも導入していますが、5月に行なわれた「G検定」で合格した社員がすでに出ていますし、動画コンテンツ自体もわかりやすいと好評です。これからは資格取得に向けた動画だけでなく、簡単なAIの知識を知りたいといった個別ニーズにも対応していきたいですね。

HIP:180本ある動画コンテンツを、ニーズに合わせてさらに増やしていくと。

寺田:そうですね。IT基礎知識に関する国家試験「ITパスポート」の取得に向けた動画コンテンツの制作にも着手しますし、「G検定」より難易度の高いエンジニア向けの「E資格」用の動画も制作する予定です。

「ITパスポート」に関してはYouTubeなどにも解説動画がありますが、やはり万人が見て合格まで学び続けられるものは数が限られてくると思います。ITの知識がない人でもしっかりと学習できるeduleapならではのコンテンツをつくっていくつもりです。

企業からも「G検定」用の動画コンテンツのようなクオリティがあれば、ぜひ「ITパスポート」用の動画も利用したいといった声を多くもらっています。

石井:現在はBtoBがメインですので、動画コンテンツなどは買い切りになっています。今後は、個人向けサービス展開も考え、サブスクモデルや各種動画プラットフォームでの配信など、よりユーザーにとって使い勝手のよいサービス展開を描いていければと思っています。

AI×デジタル人材育成の一端を担う

HIP:日本ではデジタル人材不足が深刻化しており、その課題解決としてリスキリングが推奨されるようになりました。このような状況のなか、テレビ朝日とAMBLの共創によって生まれたeduleapは、今後どのような役割を果たしていくのでしょうか? 最後にお聞かせください。

寺田:経営層がテクノロジーを追いかけないと、社員にも浸透していきません。

ある素材系の大企業では、DX人材育成のために研修の難易度を5段階に分けています。その大企業の会長と社長はすでに3段階目までクリアしていて、それが大体「G検定」レベルになっています。今後は、このようにして経営のトップが先頭に立ち、先端テクノロジーを学ぶ姿を見せていかなければならないでしょう。

HIP:たしかに、トップがやっていればメンバーもやる気になりますね。

寺田:一方で、グローバル企業では技術面を理解したうえで投資を行なっているのに、日本企業では経営層がデジタルへの理解がないまま投資や施策の導入が進んでいる側面もあります。このように、日本企業とグローバル企業で、ITや先端技術に対する差が生まれてしまっているんです。

そのような課題を解決するために、新入社員から経営陣までのスキルアップ、デジタル人材の育成にeduleapが貢献できればと考えています。

石井:これだけ世界から真面目だといわれている日本ですが、不思議と社会人になると学ばなくなる人が多いんですよね。しかし、これからの時代、「学び」はさらに大切なものになっていくと思っています。

そうした「学び」のサポートができるように、わかりにくい情報を、わかりやすく伝えるコンテンツをつくっていくのも、私たちメディアの責務の一つだと思っています。

私自身、今回の共創をきっかけに「G検定」の資格を取りましたが、資格自体を取得したのも本当に久しぶりです。デジタル社会の進展にともない、AI、IT、DXといった知識はさらに必須のものとなっていきますので、多くの人にチャレンジしてもらいたいですね。

寺田:石井さんも職種的には、ITと関わりがあまりないポジションですよね。

石井:ずっとテレビ局でコンテンツ作りに携わっていたので、ITとは関わりがありませんでした。「G検定」を取得したからといって、すぐに視聴率が1%上がる企画を立てられるようになるわけではありません。

でもその知識は、何か新しいコンテンツや事業展開を考える「タネ」になるのは間違いない。すぐに仕事に役立つか、そうでないかで判断せずに、もっと広い視野で学びを見ていくことも必要ですよね。

AIで制作した英語でのプレゼンをする自身の動画を紹介する石井氏。「本当は英語がまったく話せないのに、こんな動画が数分でできる。テレビに関わっている以上、危機感も学ぶ意欲も出てきますね」(石井氏)

寺田:企業の人事担当者や経営企画の担当者と会話をしても、「学習することで仕事にどんな良い結果が生まれるのか」といった出口ばかりに目が向いているような印象があります。そうではなく、社員の学びによって、新しいものが生まれる土壌ができることが重要なんです。

「ChatGPT」を導入したある企業のレポートでは、読み・書き・そろばんと同じように、AIの知識が必要な世の中になってきているとありました。高校でも大学でもITに関する学習が始まっています。小学生も授業でプログラミングをするようになりました。

この機会に私たち社会人も学ばなければ、あっという間に時代に置いて行かれてしまいます。

石井:AI がものすごいスピードで進化して、誰でも先端技術を使えるような世界になってきました。だからこそ、いま学びが重要です。その学びのサポートをより良いコンテンツによって実現させていきたいですね。

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Profile

プロフィール

寺田善之(株式会社eduleap代表取締役社長)

1986年CSK(現SCSK)グループ入社。2007年CSKプレッシェンド(現SCSKプレッシェンド)代表取締役社長就任。2022年SCSK顧問。同年AMBL入社。2022年7月、eduleap代表取締役社長就任。AMBL執行役員も務める。

石井貴裕(株式会社テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部 戦略担当部長)

2000年慶應義塾大学経済学部卒業。同年、テレビ朝日に入社し、バラエティ、報道等の番組制作や営業セールスなどの業務を担当した後、2021年よりビジネスプロデュース局に異動。現職として新規事業開発を手掛けるほか、eduleapにも兼務出向。

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