INTERVIEW
航空会社から「体験価値創造会社」へのシフトチェンジ。ANA Xの挑戦
稲田剛(ANA X株式会社 代表取締役社長)

INFORMATION

2018.11.07

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フライト時だけでなく、お客さまの人生に寄り添うことが理想

HIP:「ANA X」では、今後どのような事業を展開していきたいと考えていますか。

稲田:私たちが大事にしている言葉、「ライフタイム」を念頭に、日常の生活を含めたお客さまの「人生すべて」に寄り添う事業を展開していきたいと考えています。

たとえば、既存のクレジットカード事業(ANAカード)だけに留まらず、新しいお金の支払い方であるペイメント事業やファイナンス事業にも目を向ける必要があります。

固定概念にとらわれず、ユーザーファーストを突き詰めて、ジャンルを問わずどんどんチャレンジするべきだと考えています。

HIP:たとえば今後、具体的に挑戦していきたいジャンルはありますか?

稲田:いま少しずつチャレンジしているのがファッションです。ANAが「ファッション」というと唐突に聞こえるかもしれません。しかし、「リゾートファッション」といえば、なんだかANAに近づいてくると思いませんか?

お客さまが旅行に出発する前に、現地で着る洋服をワクワクしながら準備する。ここに旅行会社ならではの視点で提案があったら、旅がもっと楽しくなるはず。そういったお手伝いを「ANA X」でやらせていただこうと思っています。

ライバルは同業種ではなく、GoogleやAmazonかもしれない

HIP:ゼロからまったく新しい事業領域を生み出す、イノベーティブな取り組みもされているのでしょうか。

稲田:もちろんです。これまでは、マイルを介した業務提携が多かったのですが、今後は、業務資本提携を結んで、新しい事業に挑戦してもいいと思っています。「ANA X」は新しい会社だからこそ、つねにオープンイノベーションを求めるスタンスは持っておきたいです。

昨年は、IT業界の経営層が集まる『Infinity Ventures Summit(IVS)』というイベントが設立したアクセラレータープログラム「IVS Connect」に、第1号のスポンサーとして参加させていただきました。

「IVS Connect」では、複数のスタートアップがANAの顧客基盤を活かしたビジネスプランをプレゼンしてくれました。採用されたスタートアップはもちろん、エントリーされた方々とも定期的にコミュニケーションを取っていて、そのなかでも、新たな試みやアイデアが生まれています。

 

「IVS Connect」当日の様子(©️THE BRIDGE)

HIP:やはり航空事業に絡んだ提案が多かったのでしょうか。

稲田:そんなことはありません。たとえば、ファイナンス、料理、人感センサー、エンタメ……など、航空事業ではないさまざまな角度から新事業のご提案をいただきました。私たちとしても、ANAグループ自体がドメインチェンジをするべきだと考えているくらいなので、いろんな切り口からの提案を求めていましたし、視野が広がりましたね。

「航空会社を核としたグループ」というより「体験価値創造会社のグループだ」と胸を張って言えるシフトチェンジをしたいんです。そういった意味では、ライバル視すべきなのは同業他社ではなく、あらゆる異業種の企業で、GoogleやAmazonかもしれません。

顧客データを活用して価値を創造しようとしている企業は、すべて脅威です。しかし、そのような企業とうまくコラボレーションすれば、非常にいいパートナーになれるという期待もしています。

顧客接点が365日生まれるようにして、データ基盤を充実させる

HIP:「ANA X」の取り組みから、ANAグループ自体を変えようという稲田さんの考えは、「ANA X」社内のイノベーティブな動きへとつながっていますか。

稲田:浸透しつつあると感じています。もちろん、最初は新会社への人事異動ということで不安を持つメンバーもいたでしょう。ただ、当初から私の思いを伝え「起業のタイミングで働けることは一生に一度あるかないか。一緒に楽しもう!」と語り続けたことで、多くのメンバーが共感してくれるようになりましたね。

加えて、ANAには自ら異動を志願できる人材公募制度があり、手を上げて「ANA X」に参加してくれる社員も増えてきました。2年目に入り、「新しい会社だから、自分たちで文化をつくろう」とか、「イノベーティブな環境を楽しもう」という雰囲気になってきています。

HIP:「ANAの原点はベンチャースピリッツ」と、世間的に言われることがありますよね。

稲田:そうですね。たしかに、ANAは1952年に2機のヘリコプターから始まった、いまでいうベンチャー企業です。そのなごりは風土としてANA全体に所々残っているのですが、だいぶ失われてしまったといわれています。

しかし、ANAグループの社内人事教育でANAの歴史とブランドを体感するプログラムがあり、もう一度、野武士精神を取り戻すための努力もしています。

そうしたなかで、新しいことにチャレンジしないと生き残れないいまの時代に、野武士精神を取り戻すのはいい機会なのかもしれません。

 

HIP:最後に、稲田さんの今後の目標や夢を教えていただけますか。

稲田:お客さまの人生に寄り添える関係を築きたいと思っています。出張族やよっぽど旅好きでなければ、一般的には空港のご利用は、1年間に数日間というレベルです。これでは、顧客接点が少なすぎます。

ANAカードのペイメントをもっと充実させたり、飲食分野に進出したりと、顧客接点が365日生まれるようにして、データ基盤を充実させることが今後の現実的な目標です。それこそが、「ライフタイムジャーニー」を実現するための第一歩だと思っています。

お客さまのライフステージに合わせたサービスを日常レベルでご提供し、そのサービスを通じて、お客さまご自身の自己実現や、社会貢献の実感にお役立ていただけるのであれば、きっと人生が豊かになるはず。弊社としても、こんなに嬉しいことはありません。

Profile

プロフィール

稲田剛(ANA X株式会社 代表取締役社長)

1989年、ANA(全日本空輸)入社。生産本部・販売計画部・宣伝部を経て2012年よりマーケティング室ロイヤリティマーケティング部の部長としてANAマイレージクラブ・ANAカード・AMCコマースサイトの企画・開発・運営、ほかの航空会社・会員組織・企業との提携を統括。2016年10月に同社の社長へ就任。

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