ITサービス売上日本一・富士通の危機感。「つくれるコンサル」が新たな価値をつくる
柴崎辰彦(富士通 デジタルフロント事業本部長代理 )
2018.01.31

「つくれるコンサルタント」が開発したAIチャットボットサービス「CHORDSHIP」とは?

HIP:デジタルイノベーターの立ち上げから約半年が経ちましたが、どのような成果が出てきていますか。

生川:最近、企業のマーケティングや顧客とのコミュニケーション施策にAIチャットボットを使うことが注目されていますが、同様の相談をいくつかのクライアントからいただいていたんです。そこで富士通が持つ、過去20年で600社以上のコンタクトセンターの運営実績を活かしたAIチャットボットの開発・サービス化ができないかと考えました。

事前に相談をいただいた株式会社オリエントコーポレーション、株式会社川崎フロンターレ、株式会社タスカジの3社には共創のパートナーとなってもらい、それぞれのサービスにカスタマイズしたAIチャットボットの開発を行いました。また、富士通としては完成したシステムをベースに「CHORDSHIP」いうサービスを2017年11月より開始しました。

「CHORDSHIP」イメージ画像

柴崎:「CHORDSHIP」は、カスタマーエクスペリエンスやコンタクトセンターの業務生産性の向上に貢献するサービスです。使用するのは富士通のAI技術を搭載したチャットボット。このチャットボットの導入構築コンサルティングや稼働後の運用支援を、デジタルイノベーターが担当しています。

具体的には、コンタクトセンターにチャットで寄せられる問い合わせに対して、AI技術を組み込んだチャットボットが回答。言葉の揺らぎや類義語などを認識し、問い合わせ内容を高い精度で絞り込みます。

HIP:AIによるコンタクトセンター業務の自動化は、一般的になりつつあります。そのなかで、デジタルイノベーターが携わった「CHORDSHIP」の強みはどこにあるのでしょうか。

柴崎:「CHORDSHIP」は、事務的に回答するだけのコンタクトセンター業務では終わりません。開発においてパートナーとして取り組んだ、プロサッカークラブ「川崎フロンターレ」の公式アプリでは、マスコットの「ふろん太」とチャットで会話できる機能を搭載しています。その内容を説明するとわかりやすいでしょう。

「川崎フロンターレ」公式アプリ内の機能「ふろん太と話そう」

生川:デジタルイノベーターの仕事は、(1)クライアントのビジネス現場で抱えている課題を見つける。(2)課題解決のためのアイデアを考える。(3)アイデアをもとにプロトタイプを開発し、フィードバックを反映しながらサービスを完成させる。という、3段階のフェーズから成り立っています。この3つのフェーズを繰り返し行うことで、本質的な課題の解決を実現します。

川崎フロンターレは地域としっかり密着できているチームで、サポーターも熱心。しかし、熱心がゆえに、多くのサポーターはすでにグッズをそろえていて、物販の収益が伸び悩んでいました。これが、クライアントが抱える課題(1)です。そこで、新しいサポーターを獲得して物販収益を増やすために、マスコットの「ふろん太」を使ったチャットボットを運用するというアイデアが生まれました(2)。そしてさっそく試作品をつくり、実際にお客さまに使ってもらうテストを始めたわけです(3)。

最初は、チケットの購入場所やスタジアムへの交通手段など、過去のFAQをもとに、間違いのない回答ができるようにプログラムしていました。しかし、これはほかのAIチャットボットでもやっていること。新しいコミュニケーションの創出はできず、お客さまにもあまり利用されませんでした。そこで、杓子定規ではなく地域のことを語ったり、ちょっとひねりがきいた回答をしたりするようにしました。

生川:たとえば、サポーターが「優勝してビールが美味しい」と話しかけると、ふろん太は「だったらサントリーのビールにしてね」と答えます(サントリーは川崎フロンターレのスポンサー)。すると、「ふろん太はスポンサー思いだ!」とファンがSNSでシェアしてくれる。

選手の名前を繰り返し聞くと、ポジションや細かい特徴を少しずつ学習して答えるなど、AIならではの成長過程も面白かったようで、利用者数も急激に伸び始めました。利用者数が伸びれば、お客さまの声がより多く集まり、なにを望んでいるのか、なにに不満を感じているのかを、より分析しやすくなります。

柴崎:これまでのチャットボットは、マニュアルどおりにFAQを回答するだけのものや、逆に深層学習を効果的に発揮できず、FAQにしては的外れな回答をするものが多かった。しかし、上手く活用すれば、マーケティングやブランディングにもつながり、本質的な課題を解決することができます。

コンサルティング企業の方なら、チャットボットのアイデアは出るかもしれません。しかし、私たちはアイデアだけでは終わらない。実際にサービスをつくり出して、実装し、進化させます。だからこそデジタルイノベーターは、「つくれるコンサルタント」なんです。

生川:「CHORDSHIP」のノウハウを活用すれば、全国のゆるキャラをつかって自治体の課題解決にも貢献できます。ブランディングも可能ですし、外国語に対応させれば、地域のローカル情報を外国人にわかりやすく伝えることも可能になる。社会課題の解決にもなると考えています。

10年後、デジタルイノベーターは当たり前の存在になって、その呼び名はなくなっているはず。

HIP:最後に、デジタルイノベーターによって進化する、富士通の未来についてどのように考えているかを聞かせて下さい。

柴崎:富士通は時代によって、事業内容を常に進化させてきました。もともとは、交換機・通信機器の輸入販売を行っていた富士電機製造の通信部門が分離独立してできた会社。そして、電信電話事業のなかで、コンピューターの開発、販売が始まった。

大型コンピューターで成功して業界トップとなった後は、納入先の企業がそのコンピューターを使いこなせるために、SEも派遣するようになりました。これがSI事業へとつながっていて、いまはSoRの開発が売上の大半を支えています。

ただ、これだけ変化してきた会社ですから、10年後も同じとは限りません。私の考えでは、「SE4.0=デジタルイノベーター」が活躍しながら、SoEやSoRの開発を行っていることは間違いない。ただ、「デジタルイノベーター」という名称はいずれなくなると思っています。つまり、こういった取り組みがスタンダードになっているはずです。

HIP:クライアントとともに、本質的な課題を解決するための新たなサービスやシステムをつくる、ということが当たり前になっている?

柴崎:そのとおりです。最初に申し上げたとおり、近年はSoEを中心とした、ビジネスに改革を起こすための攻めのシステム開発が重要視されています。この傾向は、さらに加速していくでしょう。

これは私の個人的な意見ですが、富士通はモノをつくる企業だけでなく、人を育てる企業だと思っています。今後はより進化した「つくれるコンサルタント」が、富士通の中心になっていくのではないでしょうか。その意味では「デジタルイノベーター」という取り組みはまだ始まったばかり。3合目だと思っています。

Profile

プロフィール

柴崎辰彦(富士通 デジタルフロント事業本部長代理 )

1987年、通信事業部に入社。テレカンファレンスビジネスなど数々の新規ビジネスの立ち上げに携わる。その後、インテグレーションサービス部門にて、SEの改革に従事。2016年、デジタルフロント事業本部長代理に就任。

生川慎二(富士通 デジタルフロント事業本部 デジタルフロントセンターシニアマネージャー)

1991年にSEとして入社。SE・コンサルタントとして、多くのシステム構築に携わった後、2008年よりクラウドを担当。東日本大震災において、クラウド技術を利用した被災地支援を行う。2016年より、デジタルフロントセンターのシニアマネージャーに就任。

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