ドローン産業の未来をどのように切り拓く? JAXA原田賢哉氏の挑戦
原田賢哉(宇宙航空研究開発機構[JAXA] / 研究者)
2018.01.28

近年、多くのスタートアップが取り組んでいるドローン事業。「ドローン」というアイテムは市民権を得たものの、現状では一部のユーザーの趣味の範疇にとどまっているのが現状だ。各企業はどのように事業化を行っていくべきなのか。それぞれが切磋琢磨しながらドローンのあるべき姿を模索している。

新しい何かをカタチにする挑戦には大きな壁が立ちはだかるものだ。実際にドローンの産業化にあたっては、まだ交通ルールなどの制度が定まっていない。そんなドローン産業の基盤づくりにおいて鍵を握っている人物が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究者、原田賢哉氏である。原田氏はJAXAではドローン技術の研究開発に携わりながら、ドローンの安全な利活用を進めるための官民連携の取り組みに参加、協力している。新しいルールづくりの難しさ。そこから見えてくるイノベーションのヒントとは。

取材・文 /加藤将太 写真 / 玉村敬太

JAXAでは、ドローンの「安全性」「飛行能力の限界」の2つを研究テーマとしています。

HIP編集部(以下、HIP):ここ数年、ドローンの技術革新のスピードが速くなってきており、人々の生活を大きく変えるのではないかと期待されています。そんななか、JAXA(宇宙航空研究開発機構)も、ドローンをはじめとした無人航空機技術の研究開発に取り組まれていると聞いて驚きました。

原田賢哉氏(以下、原田):JAXAでは、航空機や航空交通の安全性を向上するための研究開発とともに、航空機や無人航空機(以下、無人機)を活用して「安全・安心な社会」の実現に貢献するための研究開発を行っています。無人機は軍事分野において発展してきたものですが、その民生利用を切りひらくため、2000年頃から、具体的な用途を想定してシステムのプロトタイプをつくり、その有用性を実証、評価する取り組みに力を入れてきました。

原田賢哉氏(宇宙航空研究開発機構[JAXA])
原田賢哉氏(宇宙航空研究開発機構[JAXA])

HIP:たとえば、どんな事例があるのですか?

原田:これまでに、気象研究所と洋上で梅雨前線を観測するための無人機を開発し、観測飛行を行いました。また、小型の飛行機と飛行船を組み合わせた災害監視システムを開発し、自治体や消防関係者と一緒に実証試験を行いました。これは、災害時に救援活動の最前線に立つ自治体が、自ら必要な情報を迅速かつ詳細に取得することを可能とするものです。直近では、福島で放射線のモニタリングを効率的に行うための無人機システムの開発を、日本原子力研究開発機構と共同で行いました。

HIP:実証実験の結果はいかがでしたか?

原田:災害監視システムの実証実験では、無人機ならではの監視データが得られ、その有効性は高く評価されました。でもコストが高く運用も簡単ではなかった。災害時にしか使えないものは、結局、災害時にも使えないんですね。普段からいろいろな用途やサービスで使われていて、災害時にも活用される。そんなあり方が目指すべき姿だとわかりました。

HIP:その意味において、ドローンは無人機の敷居を下げる役割を果たしていますよね。空撮や農業など、産業利用の範囲が広がってきていますが、原田さんはこの現状をどう捉えていますか?

原田:JAXAで研究開発をはじめた頃から見れば、隔世の感がありますね。ドローンと呼ばれるマルチロータ型の無人機は、飛行時間やペイロード(積載物)などの性能は限られるものの、安いし簡単に飛ばせるので、多くの分野での利用が進み、技術革新のスピードも速くなりました。

このような状況になったので、公的研究機関であるJAXAとしては、その発展を支える共通基盤的な技術の研究開発に重心を移そうと考えています。ドローンの利用拡大を阻む要素があるとすれば、ひとつは安全性、もうひとつは飛行能力の限界によるものだと思われるので、この2つを研究テーマとしています。後者は、より長い時間、長い距離を飛ばしたい、より早く、重いものを運びたいなど、ミッション能力に対するニーズに応える、新しい形態の無人機を実現するための研究開発です。

ドローン産業は、航空機が使っていなかった高度150メートル以下の空を使う点に革新性があります。

HIP:どんな無人機の実現を目指しているのですか?

原田:ひとつは、VTOL(垂直離着陸)機です。ヘリコプターのように垂直に離着陸できるマルチロータ機と飛行機(固定翼機)のハイブリッドで、飛行機のように高速で長距離を巡行することができます。

そしてもうひとつは、HALE(High Altitude Long Endurance)やHAPS(High Altitude PlatformsまたはHigh Altitude Pseudo Satellite)と呼ばれる高高度無人機です。ドローン産業は、航空機が使っていなかった高度150メートル以下の空を新しく使うという点に革新性があります。一方で、航空機が飛ぶ高度の上にもフロンティアがあります。ここも活用していきたいと考えているんです。

高度20kmぐらいの成層圏下部は、風が弱く台風などの影響も及びません。雲の上なので昼に太陽光で充電・発電しておけば、ずっと飛び続けることができる。そうすると、人工衛星のように上空から地上や海上を観測、監視したり、通信や放送に使ったりすることができます。

大規模災害では地上のインフラがダメージを受けるので、防災ヘリコプターなどの航空機が被災状況の把握に使われていますが、天候が悪いときや、悪天候に起因する災害では飛べません。成層圏はそんな状況でも影響を受けずに利用できる空間なんですよ。

HIP:たとえば、人工衛星も気象の影響を受けずに活動することができると思いますが、そこにも弱点があるということなのでしょうか。

原田:おっしゃるとおり、地上インフラや気象の影響を受けない人工衛星は、災害監視にも大きく貢献しています。しかし、衛星、正確には周回衛星は、常に地球の周りを回っているので、観測できるタイミングが限られてしまうんですね。同じ場所を観測するのに、早くても数時間、数日かかってしまうこともあります。

高度無人機であれば、たとえば豪雨の最中でも地盤の変化を常に監視するし続けることができるので、すでに起こってしまった災害の把握だけでなく、地滑りの予兆を見つけて避難活動につなげるなど、二次災害を防止するための利用が可能になると期待しています。

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