民間か行政か? モータリゼーション2.0の社会を実現させるには — 「HIP Conference vol.1」イベントレポート(1)
中島宏(株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長)/黒須卓(国土交通省自動車局総務課 企画室長)/佐々木紀彦(「NewsPicks」編集長)
2015.08.25

HIPとビジネス系ニュースアプリ「NewsPicks」によるコラボレーションイベント「HIP Conference」の第1回目が2015年7月27日に開催された。初回のテーマは「自動車」。「『モータリゼーション2.0×都市』〜都心におけるモビリティの可能性〜」と題し、3つのセッションが繰り広げられた。

「モータリゼーション2.0の社会」のセッションでは、2015年5月に自動車関連事業を開始したばかりの株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長の中島宏氏と、国土交通省自動車局総務課 企画室長の黒須卓氏が登壇。モデレーターは「NewsPicks」編集長の佐々木紀彦氏が務めた。民間企業と行政の両方の視点から、モータリゼーション2.0の社会の実現に向けて何が必要なのか語ってもらった。


取材・文:HIP編集部 写真:豊島望

自動車業界はまさに、モバイルインターネットにおける「iモード」前夜

佐々木氏「このセッションでは『モータリゼーション2.0の社会』ということで、自動車業界に限らず、モータリゼーション2.0によって社会全体がどうなるか、という大局的な話をしていきたいと思います。」

佐々木氏の言葉を受け、中島氏によるDeNAが現在取り組んでいる自動車関連事業についての説明からセッションは始まった。

中島氏「DeNAは会社として注力していく6つの事業領域を決めていて、そのうちの1つが自動車です。DeNAのオートモーティブ事業は全部で4つの事業があり、そのうち3つの事業は既にスタートしています。直近の事業としては、『ロボットタクシー株式会社』という会社をロボットベンチャー企業のZMPさんと提携して立ち上げました。私はそこの社長も兼務しています。他には、『株式会社DeNA ロケーションズ』として韓国のベンチャーと提携して作っているスマホで使えるカーナビアプリや、駐車場シェアリングサービスの『あきっぱ!』さんと一緒に展開している事業。最後の1つはまだ発表できないのですが、車の所有のあり方を変える新サービスを現在仕込んでいるところです。」

中島宏氏(株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長)

2015年5月に自動車関連事業をスタートし、既に3つのサービスを展開しているDeNA。これまでインターネットサービス企業として活動してきた同社が、自動車産業へと参入したのにはどういった狙いがあるのだろうか。

中島氏「なぜDeNAが自動車産業への取り組みを始めたのか、というご質問をよくいただきますが、インターネットサービス企業であるDeNAが、自動車産業という市場をどう見ているかご説明します。近年、急速に自動車の情報端末化が進んでおり、法律やインフラも整ってきている。電気自動車や水素自動車の登場などエネルギーにも革命が起こり、世間は情報化社会の到来が叫ばれています。これほど大きな変化が同時に起きているということは、近いうちに新しいライフスタイルや社会システムが生まれるのではないかと考えています。」

現在の自動車産業は、パラダイムシフトが起こる一歩手前の状況であり、新たなパラダイムの下で生まれるサービスには、インターネットが関わってくると見て、DeNAは自動車関連事業を展開しているという。

中島氏「今、自動車業界がどういったタイミングなのかを例えるなら、モバイルインターネットにおける『iモード』前夜。自動車にインターネットが繋がり始めて、これから何かすごいことが起こりそうだけど、まだ何が起こるかわかっていない。そういうタイミングなのだと思います。」

インターネット企業が持つサービスを作り出す力で、自動車業界を発展させる

明確に何が起こるかは予見できてはいないが、期待が高まっている、それがモータリゼーション領域だ。中島氏のところにも、様々な問い合わせが寄せられているという。

中島氏「国内の都道府県や市町村から、『話を聞かせてほしい』『こういう課題があるから、解決に向けて動きたい』『一緒にプロジェクトをやってもらえないか』といったお問い合わせを多くいただいています。政府レベルで誘致の話をいただくこともあります。自動運転を促進し、産業として発展させていきたいと考えている国は非常に多いようです。」

発表前に想定していたよりも、ずっと大きい反響を呼んでいるDeNAのオートモーティブ事業。DeNAは今後、自動車業界でどのように事業を展開していくのだろうか。

中島氏「技術やデザイン、安全性や車体の性能など、自動車が元から持っている素晴らしい要素に、サービスを組み合わせていくこと。それがインターネット企業の強みを活かすポイントだと考えています。インターネット企業の本質は、ユーザーニーズをどうつかむか、ユーザー体験をどう設計するかといったサービスを作り出す力。この力を発揮して、自動車業界の発展に貢献していきたいと考えています。」

行政が考える、次世代の都市交通システム

佐々木氏「次は、黒須さんに自動運転やモータリゼーションに関連して、国としてどういった政策を掲げているかなど、包括的にお話いただければと思います。」

黒須氏「これからの自動車を考えていく上で『asitamobility(アシタモビリティ)』という標語を掲げ、人々に笑顔をもたらす安全な交通社会を目指して、次世代の都市交通システムの検討が進んでいます。自動運転トラックの対列走行、交通過疎地域における運送や、車が集めることができるさまざまな情報をどう活用していくかという、ビッグデータ活用にも注目が集まっています。」

黒須卓氏(国土交通省自動車局総務課 企画室長)

海外では既に一歩進んだ取り組みも始まっていると黒須氏は語る。

黒須氏「イギリスやアメリカでは、スピードを出しやすい、急ブレーキが多いなど、運転手の運転傾向に合わせて保険の内容や料金を変えられるサービスが始まっています。こうしたIT情報を活用した取り組みも検討していきたい。」

さらに黒須氏は、自動車についてこれから検討すべき点をこのように言及する。

黒須氏「これからの自動車を考えていく上で必要な視点は、大きさが変わるということ。既にコンパクトカーは存在していますが、さらに超小型モビリティが発展するとどうなるか。自動車の超小型化は都市の構造を変えるのか、物理的な変化についても議論する必要があります。」

都市への影響という点では、物理的な変化に加えて、交通量への影響も考えられる。都市において渋滞が発生することは悩みの種のひとつだが、こうした課題もテクノロジーを活用することで解決される可能性もある。

黒須氏「シンガポールでは都心部に入るのに500ドルが必要になる『ピークロードプライシング』を採用していますが、日本では交通量の調整に経済的インセンティブを設定されたことはありません。一方、高速道路には既にETCが入っていますし、これから技術がますます進化していくことを考えると、ICTを使った需給量の調整も可能性としては考えられます。」

イノベーションのためには、社会の受容性が必要

佐々木氏「ここからはお二人にお話を伺っていきたいと思います。いろいろ思い描かれているモータリゼーション2.0の世界を実現するために、ハードルになるものは何なのでしょうか?」

黒須氏「社会の受容性は重要です。たとえば自動運転によって事故が起きてしまった、人の命が失われてしまった、財産が失われてしまった、というときに、責任の所在の話になる。そうなったときに、社会が受け入れられる仕組み、考え方がきちんと検討されなければいけません。」

佐々木氏「ドローンの例を見ても、事故が起きるとかなり騒がれますもんね。」

黒須氏「ドローンは典型的な例ですよね。ドローンは、事件が起きるまではいろんなことを解決する手段だと言われていました。ドローンの可能性を否定するわけではないですが、気をつけなければならない部分もあることがわかりました。良い部分と気をつけるべき部分、両面があるということは自動運転車も同じですね。」

佐々木氏「中島さんはいかがですか?」

中島氏「みんなの『やりたい、変えてほしい』という声ありきで物事は進んでいきます。物事が進まないとなかなか声は上がらないため、にわとりたまごの話ではありますが、やはり声が先に出てこないといけない。なので、ニーズを顕在化させるということが一番大きなハードルです。」

佐々木氏「何か良い事例が生まれてくると、モータリゼーション2.0の後押しになるのでしょうか?」

黒須氏「全国的に大きくスタートさせるよりも、特区など始めやすいところから小さく始めていくのはひとつのやり方かなと思いますね。」

中島氏「形を先に見せてしまうのが手っ取り早いと思います。そのために、国家戦略特区などは追い風になっていますよね。その中で事業者側が何をしたいか希望をあげないと、国家側も対応できません。」

佐々木氏「民間企業から希望を伝えていくことが重要なんですね。現状、政・財・官は分離していると言えるのでしょうか。」

黒須氏「そうですね。国が仕掛けなければできなかったということは実はほとんどありません。やはり、ニーズの顕在化に向けた事業者側の意欲が原点だと思います。」

佐々木氏佐々木氏「政・財・官の交流を深めるというのも『HIP Conference』のテーマの一つでもあるので、交流が増え、事例が増えていくと良いですね。お二人ともありがとうございました。」

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