大企業には「黒船」が必要だ。WiL伊佐山元×元Facebook児玉太郎が語る日本企業再生の鍵
伊佐山元(WiL 共同創業者 CEO)
2017.09.20

日本の大企業において、社内でのイノベーションの必要性が謳われるようになって久しい。長い伝統のなかで築いてきた技術や経験、そして大規模に展開できるアセットを持ちながら、ベンチャー企業のように身軽にアイデアを実行に移せないジレンマ……多くの大企業社員は、似たような悩みを抱えているはずだ。

そこで今回は、大企業とベンチャーをつなぎイノベーションを加速させんとするWiL共同創業者CEOの伊佐山元氏、Facebook Japanのカントリーグロースマネージャーを経て、海外企業の日本進出を支援するアンカースターを設立した児玉太郎氏に、この隘路からの突破口を尋ねた。二人の対話は、日本の大企業に軽やかなブレイクスルーをもたらすヒントに満ちていた。

取材・文:宮田文久 写真:玉村敬太

第四次産業革命といわれるいま、製造業もITに食われるかもしれない可能性が出てきたわけです。

HIP編集部(以下、HIP):「日本で大企業のイノベーションは可能か」というのが今日の本題です。まずお二人がこうした課題にどう取り組んでいらっしゃるのか教えてください。

伊佐山元(以下、伊佐山):WiLではベンチャー企業への投資に加え、大企業における新規事業、ジョイントベンチャーの企画と育成を行なっています。たとえるなら、江戸時代の長崎における「出島」のような場所を大企業の外につくり、「治外法権」の場を設ける、という事業です。会社のしがらみやルールのなかでは、思い切ったチャレンジができない。ならば、面白いことを考えていても実行に移せない人が集える場所をつくろう、という発想です。

WiLの本社は先端の知見が集まるシリコンバレーに置いているのですが、東京のオフィスと連携しています。日本の大企業がベンチャーと協業し、経営人材、ノウハウなど社外にある知識や経験を取り入れることによって新たなサービスやプロダクトを生み出す。それを社会に実装するところまで支援しようというのが、私たちが行なっている事業の本質なんです。イノベーションによって新しい価値を社会に提供する社外「研究所」というイメージですね。いわば「出島」に「黒船」を招くことで、日本の社会や企業に変化をもたらしたい、という試みなんですね。

WiL共同創業者CEO 伊佐山元氏

児玉太郎(以下、児玉):私はかつてFacebook Japanの代表をしていたのですが、そのとき多くの日本企業とパートナーシップと結んで仕事をし、一緒に成長できたことが忘れられない思い出になりました。そうした体験をもっと味わいたい。そこで、アンカースターという会社を立ち上げて、さまざまな海外企業を招き、日本の企業との刺激的なパートナーシップでイノベーションを起こす事業を行っています。伊佐山さんのたとえに習うならば、アンカースターでは「黒船」を停泊させるための錨(アンカー)の役割を担っているわけです。黒船と協業するのか、もしくは敵対するのかなどさまざまな反応があるとは思いますが、結果的に日本の企業が前進すると信じています。

イノベーションというのは「不満」から生まれることが多いと思うんです。アメリカでは異なる人種やバックグラウンドの人々が共存しており、日常のなかでも言葉が通じなかったり、衝突や不便が多い。対して、日本ではほとんどの人が共通言語である日本語を理解できますし、インフラ面などでも整備が行き届いている。そういった「便利さ」に囲まれたイノベーションが起きにくい環境に対して、外からの刺激を与えながら変化をもたらしたいと考えています。

アンカースター株式会社 代表取締役 / Kickstarter ジャパンカントリーマネージャー 児玉太郎氏

HIP:業態は異なれど、日本の大企業に新たな出会いを創発し改革をもたらそう、という点では一致していらっしゃるんですね。国内でイノベーションを掲げる企業が増加しながらも、大きな成果が出ていないという現状についてはどのように感じていますか。

伊佐山:基本的にはポジティブな動きとして捉えています。たしかに内実は伴わなければいけませんが、イノベーションというのはやはり人々をドキドキさせる、チャーミングな概念だと思うんですね。それをみんなが目指しはじめたということは、危機感の現れであり、肯定的に考えていいと感じます。

児玉:私もイノベーションがあちこちで考えられていることは、いいことだと思います。日本の企業が自分たちの取り組むべきことに気づきつつある、ということですから。

HIP:AirbnbやWeWorkなど、海外で急激に成長したベンチャーが、その勢いのまま一気に国内まで入ってくるようになりました。日本の大企業もこれまでとは異なる仕事のやり方やスピードが求められるのではないでしょうか?

伊佐山:IT業界では、以前から世界中で経営の劇的なスピードの変化が起こっていました。しかしそれが、近年IT業界の外にまで広がってきた。これまで、日本は製造業が圧倒的に強く、ITの影響はあまり受けていなかったわけですが、人工知能やIoTが注目を浴び、第四次産業革命といわれる現在、製造業もITに食われるかもしれない、という可能性が顕在化してきたわけです。

具体的には自動車メーカーがUberやGoogle、Appleに怯え、ホテル業界がAirbnbに恐怖する、というフェイズに入ってきた。これまで国内企業の経営陣は「ITは若い人の文化」だと考え、「シリコンバレーはすごいよね」というように対岸の火事として認識していました。それが自分の産業に迫った瞬間に、危機意識のアンテナが立ち「イノベーションを起こさなきゃ!」と焦っている状況だと考えています。

児玉:ITによって簡単にサービスがグローバル展開できるようになりましたね。B to Bサービスを展開している海外のベンチャー企業が日本進出を考えているというので話を聞くと、「現時点だと、まだ日本には500社くらいしかお客さんがいない」と言う。「え、もういっぱいいるじゃないか!?」とこちらは思いますよね(笑)。最初からグローバルな視点でサービスを設計していれば、各地にオフィスを構えずとも広がっていくんです。

日本のサービスもそういうふうに設計すればいいのに、という話を日本企業の担当者にすると「いや、海外展開はまだなんです」と言うんです。マーケティングも進めなければいけないし、事務所やカスタマーサービス、利用規約も準備しなければいけない、と。「いや、やりようによっては明日からできるよ」と話すんですが……ここに大きな意識やスピードの差がありますよね。

そもそも、日本にはきちんとビジネスの「完成予想図」を持っている企業が少ないんです。Facebookは「世界の70億人を全員つなげる」という明確な完成予想図がありましたが、日本企業は「前年比6%の成長」というように目の前の「存続」を考えがちです。彼らに「完成予想図」について尋ねても、口当たりのいい「ビジョン」しか出てこない。

そうした意識を変えることが、イノベーションへの第一歩ですよね。

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大企業イノベーションの成否を分けるのは、トップの覚悟と才能を受け止める「キャッチャー」の存在

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