INTERVIEW
地方銀行発のビジネスコンテストとして10年。「X-Tech Innovation」が築いた、地域とスタートアップの巨大ネットワーク
永吉健一(みんなの銀行 取締役頭取、ふくおかフィナンシャルグループ執行役員)

INFORMATION

2025.06.16
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:佐藤翔 編集:HIP編集部、篠崎奈津子(CINRA)

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スタートアップを支援することが銀行ビジネスの発展にもつながる

HIP
永吉さんはX-Tech Innovationを通じてスタートアップの事業を支援するだけでなく、ご自身も日本初のデジタルバンクである「みんなの銀行」の立ち上げをはじめ、さまざまな新規事業を推進しています。「事業を支援する立場」と、「自らが事業を推進する立場」の両輪を担うことになったきっかけは何だったのでしょうか?
永吉

私が新規事業の担当になった10年前は、そもそも銀行内で新しいビジネスを立ち上げるという発想自体が珍しく、同業他社を見渡してもほとんど事例がありませんでした。そんななかで、当時のトップから「10年後の銀行業界を想像して、今から新しいことをしよう」と言われスタートしたのですが、社内には新しいことをやるカルチャーもノウハウもなく、やり方がまったくわからない。事業のアイデアすら、なかなか浮かびませんでした。

このまま自分たちだけで頑張ろうとしてもジリ貧だと思い、すぐに「外」へ出ていく必要があると考えました。銀行の外へ出て、技術やアイデアを持った外部のスタートアップと接点を持ち、これまでのビジネスのやり方や考え方を根本的に変えていかなければならないだろうと。

HIP
当初はどんなアプローチで、スタートアップとつながろうとしていましたか?
永吉
まずは冒頭でも話したFinTech関連のイベントに足を運んで、何とか交流を持とうとしていました。ただ、実際に顔を出してみると、銀行員とスタートアップの間には、想像以上に大きな隔たりがあると感じたんです。
HIP
どのような面で、そう感じたのでしょうか?
永吉

もう全てですね。服装、カルチャー、言葉、考え方、さまざまな面で見えない壁を感じてしまって。イベント会場で、スーツにネクタイ姿の銀行員同士がグループをつくって固まっていたのが、それを象徴していました。これではいつまでたっても自分たちは「向こうの世界」へは行けないと痛感しましたね。

この壁を破るためには、彼らの世界にもっと踏み込んでいかなければならない。X-Tech Innovationを立ち上げたのも、もともとはビジネスコンテストを通じてスタートアップと深くつながるためでしたし、2016年にはiBankマーケティングという企業内スタートアップを設立しました。我々もスタートアップと同じ土俵に立ち、同じコミュニティのなかで積極的に交流をはかりながら、どんどんコラボレーションをしていこう。それを自分たちの糧にしていこうと考えたんです。

実際、X-Tech Innovationをきっかけに生まれたつながりは、私たちの新規事業にも大いに役立っています。みんなの銀行や、ふくおかフィナンシャルグループとして何か新しいビジネスを立ち上げるときにも、膨大なネットワークを活かして必要な技術を持った協業相手を探すことができる。銀行内の狭い世界に閉じていた頃と比べて、遥かに可能性が広がっています。

HIP
X-Tech Innovationで事業を支援する側に立つことが、結果的に自社の新規ビジネスを加速させる糧にもなる。良い相乗効果を生んでいますね。
永吉
それに、X-Tech Innovationを発展させていくことは、新規事業だけでなく従来の銀行ビジネスにも大きなメリットがあると考えています。たとえば、私たちの取引先である地場の企業がスタートアップと協業し、地元で新しいビジネスを展開するとします。当然、事業には資金が必要ですから、「融資」という実需も出てくるでしょう。そうなればマッチングだけでなく、本来の銀行業務でも貢献できるようになる。そんなふうにいろいろなことがつながって、一緒に地域の産業を盛り上げていく。それは、地域のお役に立つという地方銀行の本来の役割を果たすことにもつながると思います。

革新的な技術やアイデアが続々と。国内屈指のハイレベルなビジネスコンテストに

HIP
永吉さんは立ち上げ時から10年間にわたり、X-Tech Innovationに関わり続けています。10年前と現在を比較して、最も変化したことは何でしょうか?
永吉

一番は、応募者のサービスのクオリティが格段に上がっていること。それにともない、私たち審査をする側の「目利き力」が相応に高まっていることだと思います。

始まったばかりの頃は正直、どこにテクノロジーが使われているのか、どこに新規性があるのかがよくわからないサービスやアイデアもありました。しかし、いまはAIを含めたテクノロジーが当たり前に組み込まれたうえで、ほかとの違いや先進性をしっかり訴求できているエントリーが増えています。

選考を行う我々も、その技術やアイデアがどれくらい革新的なものなのか、実現可能性や発展性はどの程度あるのか、といったところを選考段階で目利きできるようになってきました。審査する側に知見や判断材料がなく、ほぼすべてのアイデアが一次選考を通過していた当初に比べると、かなりハードルも上がっていると思います。

HIP
ちなみに、2025年1月開催の10周年大会では、新しい試みとしてテレビ東京の番組『田村淳のTaMaRiBa』とコラボレーションを行いました。コラボの目的と成果を教えてください。
永吉

『田村淳のTaMaRiBa』は、「地域と日本を変えていく!ビジネス共創番組!」がコンセプトで、X-Tech Innovationの理念と通じるものがあります。そこで、10周年大会に合わせ、「大学生だって、innovationをX(クロス)しよう!」という、番組と連動した特別企画を実施することになったんです。これからの社会を担う若い大学生の柔軟なアイデア、高い熱量を持ち込むことで、ビジネスコンテストに新しい風を起こせるのではないかという期待もありました。

たとえば、イベントで登壇してくれた東京大学大学院の学生さんは、「若者の挑戦機会創出 × 地方創生で強い日本をつくる」といった、熱のこもったプレゼンをしてくれました。具体的なアイデアというより決意表明に近いものでしたが、聴いていた大人たちも勇気をもらい、大いに刺激を受けたと思います。

HIP
今後、X-Tech Innovationをどのように発展させていきたいか。また、この取り組みを通じてどんな未来をつくりたいか、あらためてお聞かせください。
永吉

地方銀行はあらゆるリソースを駆使して地域を活性化する、「プラットフォーマー」であるべきだと思っています。そのリソースとは、従来の金融機能だけでなく、いろいろな人をいろいろなかたちでつなぐマッチング力も含まれます。

X-Tech Innovationがさらに発展・拡大すれば、より多くのマッチング機会が生まれるでしょう。そこに次世代を担う若者も参加することで、継続的な共創が起こり地域経済が盛り上がるはずです。また、そこから地域課題の解決につながる革新的なサービスも生まれてくる。そうした事例を一つでも多くつくれるよう、今後も長く続けていきたいと考えています。

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プロフィール

永吉健一(みんなの銀行 取締役頭取、ふくおかフィナンシャルグループ執行役員)

九州大学法学部卒業。1995年、福岡銀行入行。経営企画を中心とした業務に就き、ふくおかフィナンシャルグループ発足やiBankマーケティング立ち上げに従事。みんなの銀行を構想段階からリードし、2022年に頭取就任。

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