東京大学×ソフトバンク。Beyond AIが目指す新しい産学連携のあり方
萩谷 昌己(東京大学 Beyond AI 研究推進機構長) / 國枝 良(ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット AI戦略室 企画室 室長)
2021.07.30

研究のプロと事業のプロが、同じゴールに向かって併走する

HIP:これまでにも東京大学、ソフトバンクそれぞれで産学連携の取り組みは何度も行われてきたと思います。そうした経験も踏まえ、産学連携プロジェクトを成功させるためのポイントを教えてください。

國枝:もっとも大事なのは、大学と企業がお互いに共通のゴールを持つことだと思います。

たとえば今回の取り組みでいえば、「日本のAI研究のエコシステムをつくる」というゴールがあり、そのためには中長期研究だけでなくハイサイクル研究が必要であるということ。これを参画するすべての人が理解していないと、なかなか一枚岩にはなれません。結果的に、大きな成果にまでたどり着かなくなってしまう。

特に、大学と企業とでは、文化も商習慣もまるで異なります。当然、今回のBeyond AI 連携事業を進めるなかでも、両者の間で認識の齟齬が出てくることは想定していました。ただ、同じゴールを見据えていれば、そこも修正しながら末長く取り組んでいけるのではないかと思います。

HIP:萩谷先生はいかがでしょうか?

萩谷:國枝さんがおっしゃるとおり、ゴールの設定と共有はとても大事だと思います。そのうえで、互いの役割、プロジェクトに提供できる価値を明確に示すことではないでしょうか。東京大学側の価値でいえば、総合力。あらゆる分野において、世界トップレベルの研究が行われているという強みがあります。

いっぽうで、ソフトバンクさんに対して私がもっともすごいと感じる点は、事業化に向かう意欲や推進力です。一般的な大企業との共同研究だと、どうしても既存事業の延長線上になりがちなのですが、まったく新しい分野にチャレンジしようとするソフトバンクさん意欲には驚かされました。

また、私たちの研究のなかから事業化につなげられそうな種を適切にチョイスする「目利き力」のようなものにも驚かされます。私たち研究者はどうしてもシーズ志向なので、それをいかにビジネスに結びつけるかという点に難がありますから。

そうした双方の強みを理解し合い、うまく掛け合わせることが産学連携を成功させるもっとも重要なポイントなのではないかと思います。

コロナ禍だからこそ、社会的意義が強くなった「次世代AIシミュレーター」

HIP:ハイサイクル研究の第一弾プロジェクトとなる、「次世代AIシミュレーター」について、教えていただけないでしょうか?

國枝:デジタルの空間上に小田急電鉄の海老名駅の周辺エリアを再現し、人流・交通・購買・来訪者の属性といったデータを使って、人々の流れや行動を可視化・予測するシミュレーションを行います。

こういった可視化・予測の研究はほかでも行われていますが、AIやビッグデータを使って可視化するだけでは、お客さまの課題は解決しない。そこが研究とビジネスの違いでもあります。

たとえば、この分析結果に基づいて、来訪者のスマートフォンに情報を通知したり、クーポンを発行したり、施設内のデジタルサイネージに情報を表示したりすることで、人々の行動変容を促し、地域全体の最適化・活性化に貢献できるソリューションの開発を目指しています。

『次世代AI都市シミュレーター』イメージ

HIP:具体的に、どのようなデータを収集・分析していくのでしょうか?

國枝:今回の研究では、個人情報に該当しない、統計データを利用する予定です。

たとえば駅の改札データ、商業施設の売上データ、あるいはソフトバンクのグループ会社がサービスとして提供している流動人口データなど、さまざまなビッグデータを組み合わせ、相関性を分析しながら、なにをどこまでできるのかを探っていくことになります。

現時点で活用可能な統計データを集めて、シミュレーター上に展開し、可視化をすることで、どのように人が動くのかを検証し、リアル空間に仕掛けを設置していく。そんなイメージですね。

研究対象予定エリア(小田急線海老名駅および周辺施設)

HIP:現在はコロナ禍で「密」を避けることが求められています。シミュレーションに基づいて、バスのダイヤ改正やクーポンなどのインセンティブを設計し、人の流れを誘導できるようになれば、社会的にも意義のある取り組みになりそうですね。

國枝:そうですね。もともとは地域活性化を目的に、いかに人の流れを呼び込むかという点にフォーカスした施策でしたが、昨年からの社会情勢を受けて、新しい意味や責任が加わったと認識しています。

今後はあえて人の流れを分散させたり、密を回避したい人が自然と行動変容できるような仕掛けを考えていく必要もあるかもしれません。結果的に、より社会にとって意義のある研究テーマになったのかなと感じていますね。

AIとビッグデータをつかったサービスは、日本では個人情報保護の観点などもあり、不安に感じる人も少なからずいます。今回の取り組みでは、個人情報に属さない統計データのみを使ってAIができることを明示し、信頼を得る、そういうサービスをつくっていけたらと思います。

HIP:あらためて、Beyond AI 研究推進機構の今後の展望、目指す未来について教えてください。

萩谷:特に私が期待しているのは、やはりAIと他分野の融合による、新たなジャンルの創造です。

すでにスタートしているものとして、素粒子や天文学の分野とAIを掛け合わせたプロジェクトがあります。膨大な素粒子のデータをAIで解析する。あるいは宇宙の星の動きのビッグデータを解析することで、ダークマターのような物理現象を探求していく。

これがビジネスにどう結びつくのか、と思われるかもしれませんが、素粒子現象の研究を活用することで、AIのアルゴリズム自体を進化させることもできるかもしれません。

これを10年20年、さらには50年100年と続けていくことで、どんな分野が生まれていくのか。私自身も楽しみにしています。そのためにも、この取り組みを成功させ、エコシステムをつくり上げていきたいですね。

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プロフィール

萩谷 昌己(東京大学 Beyond AI 研究推進機構長)

東京大学大学院情報理工学系研究科コンピューター科学専攻教授。1957年生まれ。1980年東京大学理学部情報科学科卒業。1988年京都大学理学博士、1992年東京大学理学部助教授、1995年から現職。専門は計算モデル、ソフトウェア検証、分子コンピューティング、分子ロボティクスなど。日本学術会議会員,情報科学技術教育分科会委員長として,文系理系の学部学科を包含する情報学の定義の策定にも携わる。

國枝 良(ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット AI戦略室 企画室 室長)

1975年生まれ。電力系通信会社を経て、ソフトバンクに入社。通信機能搭載のデジタルフォトフレーム『フォトビジョン(PhotoVision)』の企画を担当。その後、法人向けケータイカスタマイズサービス「Bizフェイス」や、個人宅の屋根を借り受け実施する太陽光発電事業「おうち発電プロジェクト」など、個人法人問わず、数多くの新規サービス、事業立ち上げにプロジェクトリーダーとして携わる。夢は、次世代のソフトバンクづくりに貢献すること。

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