INTERVIEW
ピラミッドの頂点は社長ではない。KDDIが徹底するベンチャーファースト論
中馬和彦(KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長〈KDDI ∞ Labo 長〉)

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2019.04.10

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日本の大企業のなかでも、早くからアクセラレータープログラムやファンドを立ち上げ、スタートアップ支援を行っているKDDI。8年間で10社以上のスタートアップのM&Aも手がけており、IoT通信プラットフォームを提供するソラコムを約200億円で買収したのも記憶に新しい。

CVCやアクセラレータープログラムを立ち上げる大企業が増えるなかで、先駆者であるKDDIに学ぶべきことは多くあるはず。そんな考えから、現在KDDI∞LABO長を務める中馬和彦氏を訪ねた。前任者の江幡智広氏から、2018年4月にバトンを受け取った同氏。組織ピラミッドの頂点に社長を据えない、KDDI特有の「ベンチャーファースト」な考え方や、「3層構造」の特殊な組織の秘密について教えてもらった。

取材・文:岡田弘太郎 写真:玉村敬太

「時代に取り残される」という危機感が、オープンイノベーションに注力するきっかけに

HIP編集部(以下、HIP):昨年、イノベーションリーダーズサミット実行委員会が発表した「イノベーティブ大企業ランキング2018」で1位に輝いたKDDI。世間的に「オープンイノベーションに熱心な大企業」というイメージが強いです。その中核を担うのが、アクセラレータープログラムを運営するKDDI∞LABOだと思います。どのような経緯で設立されたのでしょうか。

中馬:KDDI∞LABOが設立されたのは2011年。日本でも本格的にiPhoneが普及してきた頃です。それ以前、いわゆるガラケーの時代は、通信キャリアがそれぞれiモードやEZwebといった独自の回線網を引いて、基本的には専用インターネットしか見られない仕組みでした。基本的に使える機能も、もともと機種に搭載されているものが中心です。つまり、ネット環境も端末機能も、すべてKDDIが主導権を握っていました。

でもスマートフォンなら、パソコン用サイトも見られるし、アプリもユーザーが自分で選べる。iPhoneをつくりApp Storeを提供するAppleや、Androidを開発するGoogleらが覇権を握るようになったわけです。

そこからスタートアップが中心となって、新たなスマホアプリやサービスの開発も急速に進んでいった。私たちがスタートアップのコミュニティーに出ていかなければ、このまま時代に取り残されるという危機感が徐々に生まれていきました。

中馬和彦(KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長〈KDDI ∞ Labo 長〉)

HIP:それで、アクセラレーターに目をつけたと。

中馬:はい。KDDIはサンフランシスコにも拠点を持っているのですが、DropboxやAirbnbを輩出したY Combinatorのようなアクセラレーターが注目を集めていた頃でした。私たちも同様のスキームでスタートアップを支援できないかと考え、発足したのがKDDI∞LABOです。日本の事業会社のなかでも、アクセラレーターの立ち上げは初めてだったと思います。

翌年には、支援したスタートアップが成長した際にも投資を通じて支援しようということで、KDDI Open Innovation Fundもスタートしました。その後は、アクセラレータープログラム、ファンドを通じた出資、そしてKDDI本体へのM&Aと一気通貫でスタートアップ支援ができるようになりました。M&Aも、この8年間で10件を超えましたね。

KDDI∞LABO、KDDI Open Innovation Fund、さらには新規事業の企画などのオープンイノベーションに関する取り組み全般を担っている部署が「ビジネスインキュベーション推進部」です。現在、私はKDDI∞LABO長でもあり、ビジネスインキュベーション推進部の責任者でもあります。

イノベーションを推進するためには、インターネット領域以外に注力する必要があった

HIP:中馬さんがKDDI∞LABO長に就任されたのはいつ頃でしょうか。

中馬:前任の江幡智広(現:株式会社mediba〈KDDIグループ〉代表取締役社長)から引き継ぐかたちで、2018年4月からKDDI∞LABO長を務めています。KDDI∞LABOの設立当初は、モバイルインターネットの領域に注力しており、グーグルやGREE、コロプラなどとの協業を手がけた江幡が7年間組織を率いてきました。

4年ほど前からモバイルインターネット以外の領域、たとえば不動産や教育、医療といったリアルテックが盛り上がるなかで、私がバトンを受け取りました。

HIP:中馬さんが後任として抜擢されたのはなぜでしょうか?

中馬:昨今は5Gを筆頭に、インターネットとリアルが高度に融合したフィールドへ、イノベーションの舞台が移ってきました。私はBtoB、BtoC、海外事業、そして新規事業の立ち上げなど、モバイルやインターネットに限らない領域をこれまで担当してきたので、高橋誠(KDDI代表取締役社長)から後任を任されたんです。

HIP:リアルテックに本格的に舵を切ったわけですね。

中馬:そうです。KDDIでオープンイノベーションを推進してきた高橋が、新規事業担当役員から社長になったのが2018年。来季の成長戦略として、「オープンイノベーションで会社を変えていきたい」と掲げています。現在のKDDI全体の規模は約5兆円ですが、その主軸はまだまだインターネット関連の事業です。売上全体を底上げするイノベーションを推進するためには、インターネットに限定しないリアルテックの領域に注力する必要があったんです。

「組織の壁」は壊すべきではない。異なる組織文化を活かす、KDDIの「3層構造」とは?

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