INTERVIEW
現金は、面倒くさい。みずほが銀行初のキャッシュレスサービスを開発した理由
辻和幸(株式会社みずほフィナンシャルグループ / 株式会社Blue Lab) / 山本圭二(株式会社みずほフィナンシャルグループ / 株式会社Blue Lab)

INFORMATION

2019.05.30

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「まずはやってみる」。堅実な大手銀行員のマインドを動かしたトップの姿勢

HIP:一般的に銀行員の方々は、堅実なイメージがあります。Blue Lab内でも、新たな試みに躊躇する方が多かったのでしょうか。

山本:はい。最初は、みんな慣れなかったし、すぐには変わりませんでした。ただ、当時トップの山田(みずほ銀行の前専務執行役員。デジタルイノベーション部の担当役員とBlue Labの代表取締役社長を兼務していた)が自ら「とにかくやってみる」という姿勢を見せてくれたことで、みんなの意識が少しずつ変わっていったと思います。

たとえば、山田自身が積極的にキャッシュレス決済に関して勉強したり、それを早急に実践に移したり。そういったトップの姿勢を見ると、自然と「自分も自発的にやろう」というマインドになりますよね。

HIP:「まずはやってみる」というマインドが浸透したおかげで、スタートアップのような動きが取れるようになったと。これによって、BlueLabは治外法権的に動けて、スピーディーにJ-Coin Payローンチへと進んだわけですか。

:いえ、そう簡単にはいきませんでしたよ。J-Coin Payは、為替や決済など、さまざまな領域に関わるサービスです。すでに、みずほ銀行としてはそれぞれ別のサービスを提供しています。たとえば、為替なら「インターネットバンキング」、決済ならデビット式のスマホ決済サービス「みずほウォレット」です。

われわれは、そこに横から入っていくかたち。いずれも、たくさんのステークホルダーがいたため、しっかりとケアする必要がありました。J-Coin Payをみずほ銀行のなかでどういった立ち位置にするのか、同じ領域にどう納得してもらうのかを調整するのは、非常に大変でした。

まずは部長を味方に。大組織で物事をスピーディーに動かす方法

HIP:その大変な局面を、どのように乗り切ったのでしょうか。

:やはり、味方をつくることです。もっといえば、役職が上の味方です。大きな組織では、横同士、末端の担当同士がやりあっても、物事は進みません。どちらにも正しい側面があるので、いわば宗教論争になりがちだからです。

大組織はトップダウンで物事が決まるので、上で検討してもらって、下に降ろしたほうが話は通りやすい。だから、まずは部長を味方にして、そこから役員を説得してもらうなど、検討のステージを高めることが大事。そのためにも、具体的な事業構想や、そこにかける熱意を部長に伝えて、共感を得るのが先決です。

山本:この考え方は、外部との連携においても同じですね。たとえば、提携行になってもらうために、地方銀行にセールスに行きます。そのときは、トップの山田が自ら出向く。当然、相手もトップが対応します。すると、話が早い。

従来のやり方は、社内でも取引先でも、まずは企画書や提案書をつくり、それを投げて、上長に確認してもらい、さらに取締役に上げて……といった流れ。決定まで2、3か月かかることも多かったです。しかし、Blue Labは、「とりあえず決定権者にアポを入れて、そこから考える」ということを徹底しています。スピード感は変わりましたね。

お金が硬貨や紙である必要はない。J-Coin Payが実現したい「現金のない世界」

HIP:J-Coin Payのサービスは始まったばかりです。今後の展開や目標を具体的に聞かせてください。

:まずは、とにかく提携銀行と加盟店を増やすこと。やはり、いちばんの理想は、日本の全邦銀にご参加いただくことですね。このサービスで、誰もが便利に過ごせる社会を実現したいので。しかし、各行の戦略もあるので、実現が難しいことは重々承知です。サービスの充実を進めながら、地道にアプローチしていきたいと考えています。

加盟店に関しては、各店のアプリに対してどう入り込めるかが、これからの課題です。

HIP:「各店のアプリ」とは、ユニクロやヨドバシカメラなどが出している、ポイントが貯まるアプリのことでしょうか。

:そうです。彼らからすると、店頭では自社アプリを広げてもらいたいはず。顧客も、ポイントアプリを開いてポイントを貯めて、その後にJ-Coin Payを開くのは面倒です。

だったら、ポイントアプリ上でそのまま決済できるのがいちばんいいですよね。ですから、加盟店のアプリのなかで決済時にJ-Coin Payを連携できるような仕組みを検証中です。これなら、広がりも持てますし、加盟店も導入しやすいですよね。

山本:ほかにも、経費清算や給与支給をJ-Coin Payで完結する仕組みも開発中です。給与支給については、法改正が必要ですが、実現するとキャッシュレス社会に向けて大きく変わる。

個人的な話ですが、私の子どもが幼稚園に通っていたとき、保育料は幼稚園指定の口座からの引き落としでした。家賃なども同じようなケースがありますよね。メイン以外に、複数口座を持っている人も少なくないでしょう。

J-Coin Payで給料が支給されれば、そこからメイン口座や引き落とし口座に振り分けることが可能になると考えています。提携行が増えれば資金移動先の選択肢も増える。そうなれば、手間もかからないですし、手数料も抑えられます。

店頭での支払い、個人間のやり取り、口座間の移動……など、現金はなにかと面倒なことが多い。しかし、J-Coin payを起点にして電子マネーでやりとりできれば、「現金がない世界」に近づけるはずです。

:ささいなことでいえば、財布からお金を取り出して払うのも面倒ですよね。ぼくはリュック派なのですが、買い物のたびにリュックを降ろして財布を探して現金を出して、本当に手間です。

そもそも、お金は、物を得るときの媒介手段。大昔に物々交換から始まって、やがて石や貝が「お金」の役割を担い、それが硬貨や紙になった。

時代に合わせて進化してきたことを考えると、より便利なものになるべき。いまの技術なら、硬貨や紙である必要もないはずです。だからこそ、キャッシュレス化はさらに進み、より快適に過ごせる社会が実現すると思っています。

Profile

プロフィール

辻和幸(株式会社みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 キャッシュレスビジネスチーム シニアデジタルストラテジスト / 株式会社Blue Lab シニアデジタルストラテジスト)

2016年に大手IT企業から株式会社みずほフィナンシャルグループに移籍。J-Coin PayではマーケティングやアプリのUXデザイン、事業開発などを担当。

山本圭二(株式会社みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 プラットフォームビジネスチーム デジタルストラテジスト / 株式会社Blue Lab デジタルストラテジスト)

地方銀行から出向。地方銀行においては、中小企業や大企業RMに従事。

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