HIPとビジネス系ニュースアプリ「NewsPicks」によるコラボレーションイベント「HIP Conference」の第1回目が2015年7月27日に開催された。初回のテーマは「自動車」。「『モータリゼーション2.0×都市』〜都市におけるモビリティの可能性〜」と題し、3つのセッションが繰り広げられた。
本稿では、カンファレンスの締めくくりに行われたラップアップの様子をレポート。小泉進次郎衆議院議員が登壇し、株式会社ニューズピックス 取締役、NewsPicks編集長の佐々木紀彦氏による公開インタビューが行われた。
自動運転走行をはじめとする新たな技術を推進する立場を取ってきた小泉氏。彼ならではの画期的な提案も飛び出すなど、ラップアップにふさわしく活発な議論が繰り広げられた。
取材・文:HIP編集部 写真:豊島望
新しいものに抵抗しがちな国や役所を中から変え、先端技術を受け入れる環境整備を進めていく
佐々木氏「小泉さんは、自動運転車などの『モータリゼーション2.0』に関する取り組みを先頭に立って推進しているイメージがあります。なぜ、これほどまでに強く推進されていらっしゃるんですか?」
小泉氏「ドローン、遠隔医療、自動運転走行といった新しい技術を取り入れるための環境整備を国としてやっておかないと、これから訪れるであろう技術の進歩速度がより一層速くなる時代に追いついていけないと考えているからです。そういった新しいものに抵抗しがちな国や役所を、中からどうやって変えていけるかに取り組んでいます。」
佐々木氏「なるほど。具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?」
小泉氏「内閣府大臣政務官という立場で、平将明副大臣と組んで検討会を作りました。国家戦略特区を活用し、『近未来技術』と呼ばれる技術を実証できる場を作っていくために、何が必要かを考えるところから始めています。」
佐々木氏「限定された地域でもいいから実証できる場を、と。」
小泉氏「そうです。本日のカンファレンスの話を聞いていたらわかるかと思いますが、自動運転走行についてはいろんな観点から議論されています。まず国としてやらないといけないのは、完全自動運転走行ができるという環境整備のための努力。これを国際的にやらないといけない。」
佐々木氏「国際的に、というのはどういうことなのでしょうか?」
小泉氏「1949年に作られた『ジュネーブ条約』では、ドライバーがいないと自動車を運転してはいけないということになっているんですね。今、国連の欧州経済委員会の下の作業部会では、条約ができて以来初めて改正の機運が高まっているんですが、日本はまだオブザーバー参加の状態。まずは、オブザーバーではなくて、早く正式なメンバーになるべきだ、と。国際社会の中で、完全自動運転走行を実現するための議論をリードしていく立場にならなければいけないと考えています。」
ビジネスチャンスを捉え、できるところからガンガンやってもらいたい
佐々木氏「国際的に議論をリードしていく立場になるには、どういったことが必要になるのでしょうか?」
小泉氏「できる限り『経験』をする必要があると考えています。現在の日本の道路交通法はジュネーブ条約を受けて作られているので、運転手は人でなくてはいけない。ですが、完全自動運転走行の世界になれば、運転手は人とは限らないんですよね。そうすると、運転手をどう定義すべきなのか。こうしたことも、これから時間を掛けて議論していかないといけません。」
佐々木氏「議論をしてくためには経験やデータが必要だ、と。」
小泉氏「そうです。国家戦略特区を使い様々な実証をして、必要なデータを持った上で『日本はこれだけ国内で経験をしてきました』と国連で言えるようにする。そうやって国際社会の議論をリードしていけるようにしたいですね。」
佐々木氏「経験やデータを蓄積するための環境自体はかなりできているわけですよね? 意欲さえあれば、実証実験ができるようになっている。」
小泉氏「国としては国家戦略特区という環境を整備しました。自動運転という新しいライフスタイルをもたらす可能性があるものが生まれたときに、どうビジネスチャンスを捉えて、新しいサービスや事業を生んでいくか。これは民間の役割で、国の役割はそういったサービスや事業が生まれる環境を作ることです。」
佐々木氏「小泉さんとしては、民間の取り組みを全力で応援していくということですか?」
小泉氏「できるところからガンガンやってほしいですね。たとえば、DeNAさんは球団を持っていますよね。横浜スタジアムでの試合中、ピッチャー交代時にマウンドまで人が車を運転してピッチャーを連れてきますよね。あれをぜひ、自動運転車にしてほしいです(笑)。球場の中は道路交通法関係ないですから、今すぐでもできると思いますよ。このように、できるところから始めていく。」
佐々木氏「そのアイデアは今思いついたんですか(笑)?」
小泉氏「さっき聞きながら思いつきました。そういえばできるよなあ、と。」
佐々木氏「すばらしい。中島さん(※『モータリゼーション2.0の社会』のゲスト、株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長)、いかがでしょうか、今のご提案。」
中島氏「ありがとうございます。えーと……いろいろ調整しなくてはいけないことが思い浮かんでちょっとクラクラしているんですけど(笑)、やる方向で進めたいと思います。」
小泉氏「私はDeNAの2軍本拠地の横須賀スタジアムが地元なので、2年連続で横須賀スタジアムの始球式に出ているんです。ぜひ次回の始球式は、自動運転車でマウンドに行きたいですね。」
起きうるリスクを法律や規制で全部抑えようとするのなら、イノベーションなんて諦めたほうがいい
佐々木氏「環境を整備するのが国の仕事とのことでしたが、用意された環境である国家戦略特区では、具体的にどんなことが行われているんですか?」
小泉氏「今、注目しているのは新たに国家戦略特区に指定された秋田県の仙北市ですね。自動運転車から少し話がずれますが、同市が今力を入れているのはドローンです。仙北市は面積の約6割が国有林で、この土地ならドローンを飛ばして落下したとしても、人的・物的リスクが少ない。山中に電波が届くか、急傾斜のところではどうかなど、色々と実証しています。」
佐々木氏「ドローンといえば、首相官邸に落下した事件が一時期ニュースになりましたね。」
小泉氏「あの事件が起きたときに一番避けたいと思ったのは、一気に過剰規制が入ること。日本は、何か事件があったときに過剰な規制をしがちで、1のアクシデントやリスクで10のチャンスを潰す国です。起きうるリスクを法律や規制で全部抑えようとするのなら、イノベーションなんて諦めたほうがいいですよ。ドローンだって落ちるリスクはあるんだから、リスクをわかった上でどういう環境を用意するか。自動運転車も自動車である以上、事故は必ず起きますから。リスクをわかった上で環境を用意することが重要ですよね。」
佐々木氏「全力で進められる環境を、ということですね。」
小泉氏「あと、産業界全体で『できる範囲の自動運転走行を目指しましょう』と歩調を合わせていく雰囲気も避けたほうがいい。トヨタでも日産でもホンダでも、どこでも構わないから、突っ走れるところは突っ走ってほしいですね。」
佐々木氏「たしかに、どこか1社が突き抜けているという印象はありませんね。」
小泉氏「自動車メーカーは、GoogleとAppleがどれだけ自動運転走行への参入に本気なのかを睨んでいます。議論を重ねることも重要ですが、それだけではいけません。『もう少し彼らの様子を見ていよう』と躊躇していた結果、あっという間に市場を席巻されたケースが他の分野であったわけですから。」
佐々木氏「家電やエレクトロニクスですね。」
小泉氏「GoogleやAppleと自動車メーカーとの違いは、ビジネスモデルにあります。自動車メーカーは販売台数が利益に直結しますが、GoogleやAppleは台数とはあまり関係なく、サービスなどの領域で利益を生むと考えられます。日本はビジネスモデルの異なる相手と自動運転走行という分野で勝負して、利益をとっていけるのか。これはしっかり考えたほうがいいと思います。」
製造業の改革を進めるドイツと似た背景を持ちながら、危機感が薄い日本
佐々木氏「泉田さん(※『モータリゼーション2.0と自動車』でモデレーターを務めた、株式会社ナビゲータープラットフォーム 取締役 アナリスト兼Longine編集委員長)は、ご自身の書籍『Google vs トヨタ』の中で、自動車のサービス化と新しいビジネスの誕生を予測されていますよね。自動車産業のこれからをどう捉えていますか?」
泉田氏「車をハードウェアとして見るよりも、他の産業に対して大きなインパクトを持つ『キラーアプリケーション』として考える発想が広がると捉えています。そう考えると、車というハードウェア単独でお金を稼ぐよりもサービスとして稼ぐという目線に切り替えないと、日本が今まで培ってきた強い自動車産業が壊れてしまう。これには危機意識を感じています。ドイツでは、製造業をどうやってIT化するか、車をどうやってコネクティブにするかという考え方になっていますね。」
小泉氏「ドイツは『インダストリー4.0』という製造業の改革を国を挙げてやろうとしていますよね。この改革は、高齢化社会の到来、原発の停止による立地条件の悪化、そしてGDPの4分の1を占める製造業が厳しくなってきた環境の中で、世界におけるドイツ製造業の立ち位置をもう一度強くしていこうとするもの。ドイツが『インダストリー4.0』をやろうと覚悟を決めて踏み出した背景と、日本の背景って、面白いほど似ていると思いませんか?」
佐々木氏「同じですね。むしろ日本のほうが深刻ですよね。」
小泉氏「なのに、危機感が薄いんです。アクセンチュアが行った『グローバル CEO調査 2015』という調査で、日本とグローバルの経営者それぞれに調査をしていて、この結果が面白いんです。『1年以内に競合企業が市場を一変する商品やサービスを投入する見込みはあるか』と問うたときに、グローバル経営者は6割でイエス。一方で、日本の経営者は2割なんです。そして、『IoTをどういうものだと捉えているか』を問うても、グローバル経営者は過半数が新たな産業やビジネスの創出だと回答していて、日本の経営者は過半数が生産性向上・業務効率化だと捉えている。私はこの意識の違いに危機感を持っていますね。」
佐々木氏「こうした意識の違いはどこから生まれるんですかね? 琴坂先生(※『モータリゼーション2.0のサービス』でモデレーターを務めた立命館大学経営学部国際経営学科准教授)、どうでしょうか?」
琴坂氏「非常に難しい質問ですね。ひとつあるとすれば、海外では経営者がリスクを取ったとしても利益が残るよう、社会としても組織としても整備されているということがあると思います。そのような環境があると、経営者もどんどんリスクを取りながら新しいものを作っていく。対して、リスクを取りにくい組織は、生産性向上や業務改善などすでにあるものを何とかしていくという保守的な動きが多くなってしまうんです。」
佐々木氏「自動車業界の場合は、その環境が変わる可能性が大いにあるわけですよね。」
琴坂氏「組織というものは今までの強みがあるので、すぐに変えることは難しい。そうすると、既存の企業を変えるのではなくて、DeNAさんのような新しい企業が業界に入っていき、社会や政府がそういった企業を支援しながら既存企業との連携を図っていくというのが、日本では有効なのではないかと考えています。」
今やるべきことは、2020年に「やっておいてよかった」と思える成長のエンジンを社会に組み込むこと
佐々木氏「様々な変化が起きようとしている中で、変化に対応するために大事なことは何なのでしょうか? 政府が政策でひっぱるのも不自然だと思いますし、民間の力だけでも無理だと思います。ドイツのように、政・官・財が一体となってコンセプトを作ったりするのがいいのでしょうか。」
小泉氏「私は、ビジネスの世界では国の役割をあまり過大評価すべきではないと思うんですね。国が主導してうまくいったケースって、一体どれだけありますか? 技術の進歩がこれだけ速い中で、国が『これは儲かりますよ、伸びる産業ですよ』ということがわかったら苦労しないですよね。5年前に、スマホがこれだけ世の中を席巻することをわかっていた人なんてほとんどいませんし。これからの時代は、国の役割として環境整備にもっと力を入れるべきだと思う。一つひとつの産業に手を入れていくよりも、民間が意欲を阻害されない環境作りに国は力を入れるべきです。」
佐々木氏「あくまでも国は環境作りに徹することが大事だと。」
小泉氏「そうです。オリンピック・パラリンピック後に日本は正念場を迎えると思っています。2020年を超えると人口減少がより進んで、2025年には団塊の世代が全員75歳になる。その頃には、中国は世界で最大のGDPの国になる可能性がある。この関係を見越したとき、今やるべきことはオリンピック・パラリンピックの後に『やっておいてよかった』と思える成長のエンジンを組み込むことなんです。今から5年間で、後の世代に『前の世代が頑張ってくれた』と思ってもらえることをできるか。私はまだまだ力不足だけれども、政治の先輩たちにも同じ認識を持ってもらいながら、一緒にやっていきたいなと思いますね。」