INTERVIEW
人生100年時代、ヘルステックで生活はどう変わる? HIP conferenceレポート
相澤仁 / 前田祐二郎 / 井上裕太 / 廣部圭祐 / 川嶋孝宣 / 宇野大介 / 乗竹亮治

INFORMATION

2018.08.30

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健康データを集めて活用するうえで、個人情報の問題は一丁目一番地。

2018年5月に制定された「次世代医療基盤法」は、ヘルステックにとって追い風になると見られている。カルテや検査データといった医療機関が持つ患者の個人情報を、匿名化すれば患者の承諾なしに、大学や企業の研究開発などに活用できるようになったからだ。しかし一方で、「集めたデータは誰のものか?」という新たな議論も起きている。

川嶋:健康に関するデータを集めて活用させていただくうえで、やはり個人情報の問題は一丁目一番地としてあります。難しいのが、もちろん「個人情報を守ります」とはお約束するのですが、一般の方にとっては匿名化の技術の仕組みや安全性が、なかなか100%は理解しにくいことですね。

廣部:FAITでは、利用開始時にユーザーから許諾をいただき、ユーザーと弊社との両者でデータを持つ契約を結ぶことにしています。

川嶋:匿名とはいえ、患者のデータの所有権を完全に病院や企業のものにするのは難しいと考えています。やはりデータ提供者側の立場で考えることが大事ですよね。

廣部:一方で、そもそもバイタルデータを集めるにあたって、異業種から参入したソニーにとっては法規制の問題もまだまだ大きいです。データの取得、解析にあたっては、主に3つの技術が必要です。生体からデータを取得するセンサー、それをクラウドとつなぐ通信技術、そして得られたデータを解析するAIです。このうち現在、AIコンピューティングや通信の品質には各社それほど性能差がなくなっており、イノベーションが起ころうとしているエリアはセンサーなんです。

センサーの精度を上げるためには、最終的に身体の一部に埋め込むインプラントがもっとも良い。しかし優れたセンサー技術があっても、インプラントとなると法規制が障壁になってしまうんです。

健康な人に「これを使えばいいことがありそう」という期待感をいかに感じてもらえるか。

質疑応答では、さまざまな企業に務める人から疑問が寄せられた。なかには登壇者と近しい「イノベーションラボ」に属する方もあり、この領域にプレイヤーが増えていることを感じさせた。

質問者:「新規事業を立ち上げるまでのスピード感」はいかに早められるでしょうか。

宇野:ライオンとしては、イノベーションラボが組織された事実がまさにスピード感を求められている証左と思っています。私たちはもともと研究者なので、どうしても自分で手を動かしたくなってしまう。でもイノベーションのスピードを早くするためには、それをぐっと我慢して、「自分よりもっとできる人」に任せることだと思っています。要するに、オープンイノベーションを取り入れるのです。

質問者:多様なデータを取得して予測に活かすためには、「健康な人」のバイタルデータを得ることも重要だと思います。健康な人に使ってもらうために、どのような工夫をしていますか?

川嶋:若くて健康な人に対しても、「かっこよさ」「美容」など、健康のなかに含まれるテーマを通じて介入していくことが大事だと思っています。ユーザーの求めるバリューが何か、まだ私たちも試行錯誤しているのですが、そこに切り込んでいくのがいいのではないかと。

宇野:ライオンで私が担当してきたのは、主に医薬部外品である歯磨剤の分野で、これはあくまで予防のためのもの。だから医薬品と違って、明確に「こんな治療ができます」とはいえないのです。だからこそ「どんなインセンティブを与えられるのか」「これを使えばもっといいことがありそう、という期待感をいかに与えられるか」をいつも考えていましたね。

廣部:FAITは「UI」をポイントにしています。社内のクリエイティブチームが、ゲームに始まりあらゆるサービス、商品のデザインを手がけていることもあり、高齢者にも喜んでデジタルのプロダクトを使ってもらえるようなUIづくりにこだわりを持っています。

ヘルスケアのデータ分析はアプリが担い、人間力に優れた「かかりつけ医」が医療の根幹になっていく。

セッションの後には、モデレーターを務めた井上氏、乗竹氏によるラップアップが行われた。

井上:私が勤めるQuantumでは、ヘルスケアだけでなくいろいろな業界の新規事業のお手伝いをさせていただいています。イノベーティブなサービスを提供するにあたっては、先ほどのお話のようにUIが非常に重要で、いかに気持ちよく使ってもらうか、1秒でも早く、ワンクリックでも少ない動作で扱えるかというところに、サービスが大きく広がっていくかどうかの分かれ目があるんですね。

今日お話を聞いていて、医療もそういう段階に入ってきているんだなと思いました。もちろん倫理面などのヘビーなトピックもあるんですが、デザインの心地よさを考える、いわばライトな悩みもそこに同居している。

乗竹:20年くらい前からの銀行業界の変化に似ていますよね。かつては現金主義のこだわりが強い世の中で、買い物をするにも土日にATMからお金を引き出せなくて不便していました。しかし、いまやコンビニでも24時間お金を引き出せ、気軽にクレジットカードでオンラインショッピングもするようになった。同様の変化がヘルスケアにもくるはずです。自分のヘルスケアデータをポケットに入れて持ち歩き、病院で見せるような未来。そこにパラダイムシフトがある。

一方で、医療業界では「かかりつけ医」の価値が見直され始めています。厚生労働省で医務技監を務めていらっしゃる鈴木康裕さんは、最近のインタビューで、今後医師の役割が「病気や患者の分析」「患者への説得」「治療の責任を取ること」の3つに集約されていくだろうと仰っている。つまり、ヘルスケアのデータ分析はAIを使ったアプリなどが担うようになる一方で、人間力に優れた「かかりつけ医」が日本医療の根幹になっていくのかもしれません。

井上:今回は大企業、大学、スタートアップと、それぞれの領域のプレイヤーが協働していることが感じられました。ヘルステックの未来が楽しみです。

Profile

プロフィール

相澤仁(株式会社フィリップス・ジャパン マーケティング&BCD兼戦略企画・事業開発統括本部長)

1985年日本電信電話株式会社入社、MCIワールドコム 日本法人社長、アクセンチュア パートナー、シスコ・システムズ執行役員などを経て2017年7月より現職。

前田祐二郎(東京大学 ジャパン・バイオデザイン東京 共同プログラムディレクター)

「医療現場感×クリエイティビティー×ビジネス」をデザインする「医学博士×歯科医師」。臨床診療に従事後、2013年には大塚製薬株式会社医薬品事業企画部で海外事業に従事し、その後2014年6月スタンフォード大学にて医療機器発明起業人材育成プログラムであるバイオデザインプログラムGlobal Faculty研修を修了。2015年より、東京大学医療イノベーションイニシアティブ特任助教。2015年にジャパン・バイオデザインを設立、共同ディレクター。メドテックデザイナーズ代表、アイリス株式会社ディレクター、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、デジタルハリウッド大学大学院大学院生。

井上裕太(株式会社QUANTUM CSO、QUANTUMGLOBAL Inc. CEO)

マッキンゼー・アンド・カンパニーで日米欧における経営コンサルティングに従事後、フリーランスとして大企業やスタートアップの経営と新規事業創出を支援し、『WIRED』特派員も兼務。文部科学省では「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」を発案、プロジェクトオフィサーに就任。2014年QUANTUM創業に参画し、大企業やスタートアップとの共同事業開発をリードしている。九州大学ではデザインとSDGsを基軸とした産学連携を担う。グッドデザイン賞審査委員、フォーカス・イシュー・ディレクター。ACC賞クリエイティブイノベーション部門審査委員。

廣部圭祐(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部門 SF-Project)

2004年、ソニーエリクソンモバイルコミュニケーションズ株式会社に入社。携帯電話・スマートフォンの製造とサプライチェーン管理に従事したのち、2015年にソニーの新規事業提案制度(SAP)を契機に、ヘルスケアIoTサービスの新規事業立ち上げをリード。筑波大学等との共同研究も経て、2017年10月より「Fit with AI Trainer(FAIT)」のサービスがスタート。

川嶋孝宣(株式会社フィリップス・ジャパン ヘルステックソリューションズ・ソリューション事業推進部長)

1994年に帝人株式会社に入社、その後、新日本監査法人、日本IBMを経て、2017年11月より現職。

宇野大介(ライオン株式会社 研究開発本部 イノベーションラボ所長)

1990年ライオン株式会社入社。入社以来、研究所にて約20年、歯磨剤開発に従事。その間にクリニカブランド ブランドマネージャーに就き、その後約5年間、歯磨剤の生産技術部門に所属。2018年よりイノベーションラボ所長就任。

乗竹亮治(特定非営利活動法人 日本医療政策機構 事務局長)

日本医療政策機構設立初期に参画。慢性疾患領域における患者アドボカシー団体の国際連携支援プロジェクトや、震災復興支援プロジェクトなどをリード。その後、国際NGOにて、アジア太平洋地域を主として、途上国や被災地での防災型医療施設の建設や、途上国政府と民間企業および国際NGOが共同参画する医療アセスメント事業などに従事。東京都「超高齢社会における東京のあり方懇談会」委員。政策研究大学院大学客員研究員。慶應義塾大学総合政策学部卒業、オランダ・アムステルダム大学医療人類学修士。米国医療支援NGO Project HOPE プロボノ・コンサルタント。

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