若手、中堅が社内変革を起こすには?『HIP Fireside Chat 2019』レポ
児玉太郎 / 山川恭弘 / 小松原威 / 松谷卓也 / 渡瀬ひろみ / 石井芳明 / 榊原健太郎
2019.04.19

起業もスポーツと同じ。プレイヤーの人数が「強さ」に直結する

最後のセッションのテーマは、「日本から、世界に通用するスタートアップを誕生させるには」。登壇者は、内閣府の石井芳明氏と、日本・イスラエルに拠点を置きルワンダにも活動を広げるサムライインキュベートの代表取締役、榊原健太郎氏だ。

内閣府の石井氏は、科学技術・イノベーション担当企画官として、スタートアップの応援とオープンイノベーションの推進に取り組む。榊原氏が代表取締役を務めるサムライインキュベートは、国内外のスタートアップ150社以上に投資やインキュベーション支援を行うほか、大企業に対しても、オープンイノベーションなど新規事業創出の支援を行っている。

児玉:そもそもスタートアップは何に困っていて、どういった支援を必要としているのでしょうか。

石井芳明氏(以下、石井):まずは資金調達ですね。起ち上げ時、そして世界で戦うにあたってのスケールアップの資金が足りない。また、経営陣の人材不足に困っている企業もあります。そしてもっとも根本的な問題が「信用力」の不足です。国民の7割はスタートアップに興味がなく、むしろ起業はリスクが高いと捉えています。

資金、人材、信用力の不足。これらを解決するための取り組みの一つが、経済産業省で行っている「J-start up」。有識者が選んだ「世界で戦えるスタートアップ」を、官民で集中支援するものです。

内閣府 科学技術・イノベーション担当 企画官 石井芳明氏

つづいて児玉氏が「なぜ日本のスタートアップは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)になれないのか」と問いかけた。石井氏は二つの理由をあげる。一つは、「ある程度、国内にマーケットがあるから、そもそもグローバルを狙う起業家が少ないこと」。もう一つは、「起業家の数自体が少ないこと」。それを人気スポーツにたとえる。

石井:ぼくが子どもの頃は、人気スポーツといえば野球。しかしJリーグ発足後、三浦知良や中田英寿といったスター選手が生まれ、サッカーに人気が集まった。結果、才能ある選手が増え、かつては夢のまた夢だったワールドカップにまで出場できるようになりました。結局、数が質につながる。スタートアップもこれと同じです。

榊原健太郎氏(以下、榊原):大リーグでも、野茂英雄がロールモデルとなったことで、いまでは多くの選手が活躍していますよね。スタートアップにも、海外で成功するロールモデルが必要だと思います。

サムライインキュベート 代表取締役 榊原健太郎氏

イスラエルでは「一日=一生」。「近々ミーティングを」といえば、翌日には開催

さらに話は、「グローバルで成功できる経営者に必要な資質」という話題に移る。

榊原:私自身は、世界を変えるために起業して活動を続けています。こういった志を持てるかどうかは大きなポイントではないでしょうか。戦後、日本は世界銀行などから融資を受け、高速道路や発電所、新幹線などを整備し高度成長期を迎えました。このとき融資をしてくれた世界へ、そしていまの日本をつくった先人への恩義を返しながら、生まれてきた子どもたちにこの国を引き継ぐべきです。

過去を知り、未来を見据えることができている経営者は、いま自分が価値を生み出さなければいけない理由を明確に理解している。そういう経営者にはパワーを感じます。

これを聞いた石井氏は、内閣府が主催する「日本オープンイノベーション大賞」で、大企業の若手有志のコミュニティー「ONE JAPAN」が経団連会長賞を受賞したことに触れた。

石井:経団連はエスタブリッシュメントだと思うかもしれませんが、彼らも若き日はチャレンジャーでした。だからこそ、ONE JAPANのような団体に夢を持つ。実際、「最近は上司に内緒で机の下でプロジェクトを進める若手が少ない」と残念がっている経営者も少なくありません。

経営者の話題はさらに広がる。児玉氏から「海外と日本の経営者、起業家の違い」を尋ねられた榊原氏は、日本とは大きく異なる環境に身を置く、イスラエルの起業家の考え方を語った。

榊原:イスラエルでは、起業家も毎日17時に家に帰ります。いつミサイルが飛んでくるかわからない状況ですから、一日を一生と考えて、家族との時間を大事にする。そのあとに、家でまた仕事に戻るんですよ。ミーティング一つ取っても、「近々会いましょう」といえば、その日か翌日にセッティングされる。日本だと、「じゃあ来週」とかになりがちですよね。

社内の起業家にインセンティブを。日本の大企業に必要なものとは

セッションは後半。せっかく内閣府の石井氏が登壇しているということで、「民間視点で国にお願いしたいことはあるか?」と児玉氏が榊原氏に話を振った。

榊原氏は「大臣の半分を民間人にしてほしい。そうしたら日本は大きく変わると思う」と即答。じつは、イスラエルのネタニヤフ首相は、かつては民間のコンサル会社に勤務していたという。石井氏は「大臣は……どうだろう」と苦笑いしながらも、「ただ、省庁の幹部は民間経験者がやるべきだと思います」と答えた。

反対に、「国がインキュベーターやVCに対して期待すること」を問われた石井氏は、「TECH(テック)系ベンチャーを応援してほしい。世界に通用するスタートアップを生み出すには、日本の技術を伸ばす必要がある」と述べた。

セッションの最後は、児玉氏から二人へ向けた「大企業に求めることは?」の質問で締めくくられた。

榊原:日本の大企業は、社内で起業した人へのインセンティブがない。子会社の社長になっても、億万長者にはなれないわけです。投資を行うCVCの担当者も同じ。このバランスを考えた、思い切った人事制度、評価制度をつくってほしいと思います。

石井:最近は、新規事業に理解がある経営層も増えています。若手も新しいことをやらなければと思っている。そうなったとき、中間層の役割は重要です。間をつなぐ彼らが理解し、応援してくれる必要があると思います。

リラックスしたムードのなか、本音の議論が交わされた『HIP Fireside Chat 2019』。共通して語られたのは、トップの本気度、若手のチャレンジ心、そして中間管理職の理解と協力なくしては、大企業で新規事業は生まれないということだ。

失敗や志の重要性も印象的だった。「世のため、誰かのためと思って失敗を恐れずに頑張れば、周りが自然と助けてくれる。そして、その熱が徐々に全体に広がり、イノベーションにつながっていく」という渡瀬氏の言葉に、頷く参加者も多くみられた。

当日会場に集まったビジネスパーソンの多くは、激動の時代に生きる企業人として、何かしらの危機感を持っていることだろう。直接、新規事業に関わったり起業家になったりしなくても、誰かが何かを新しく始める手助けはできるはず。そういった仲間たちの後押しがあってこそ、企業内部からのイノベーションが生まれるはずだ。

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Profile

プロフィール

児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役 / キックスターター カントリーマネージャー)

1977年神奈川県出身。アンカースター株式会社代表取締役。幼少期を米国で過ごし、1999年にYahoo! JAPANに入社。ソーシャルメディア事業を担当。2010年にFacebookカントリーグロースマネジャーに就任し、日本にFacebookを浸透させるべく活躍。2015年にアンカースター株式会社を設立。2017年にはキックスターターのカントリーマネージャーに就任。海外企業の日本進出を支援するほか、国内外企業間のパートナーシップ支援事業や、芸術・アートに関する事業を複合的に監修。まだ日本にない事業を継続的に創出し、日本の生活環境・文化のアップデートを試みる。

山川恭弘(バブソン大学准教授)

専門領域はアントレプレナーシップ。起業学、経営戦略および国際ビジネスの分野で教鞭をとる。慶應義塾大学法学部卒業後、ピーター・ドラッカー・スクールにてMBA(経営戦略論)を取得。起業学博士(テキサス州立ダラス校)。博士課程進学前に10年間、日本の電力・通信業界にて、大企業での新規事業開発やスタートアップの設立等に従事した経験を持つ。2018年、ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)ジャパン / ベンチャーカフェ東京代表理事就任。

小松原威(株式会社WiL Partner)

2005年に慶應義塾大学法学部卒業後、日立製作所、海外放浪を経て2008年SAPジャパンに入社。営業として主に製造業を担当。2015年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに日本人として初めて赴任し、デザイン思考を駆使して日本企業の組織・風土変革、イノベーション創出を支援。2018年にWiLに参画。『日経産業新聞』新風シリコンバレー連載陣の一人。

松谷卓也(株式会社プロジェクトニッポン 代表取締役)

2003年、リクルート在籍時に「日本に起業文化を確立する」というビジョンを掲げ、経済産業省後援事業として「ドリームゲートプロジェクト」を発足。2004年、国からの財政依存なしに自立運営するための運営会社として、株式会社プロジェクトニッポンを設立、代表取締役就任。2007年、「ドリームゲートプロジェクト」の民営化を実現させる。2014年1月、大企業とペンチャーのマッチングにより、日本から世界へ通じるイノベーションを起こす取り組み「イノベーションリーダーズサミット」を発足。昨年の来場者数は1万人を超え、アジア最大級のオープンイノベーションイベントとなっている。

渡瀬ひろみ(新規事業開発コンサルタント / 個人投資家株式会社アーレア 代表取締役 / 商工中金 社外取締役 / マックスバリュ西日本 社外取締役)

1988年京都大学卒、リクルート入社。入社4年目に、社内新規事業提案制度でブライダル情報誌事業を起案。「市場小さく事業が成立しない」という理由で落選しながらもマーケット性を粘り強く証明し、事業化まで牽引。以来、新規事業畑を歩む。ブライダル、住宅、ベンチャー支援、クラウドソーシング、ビジネスポータルなどの領域で、月刊誌、フリーペーパー、インターネットサイト、イベントなどの新規事業を手掛け、プロジェクトリーダー、編集長、事業責任者を歴任。2010年3月退職、新規事業コンサルティングの株式会社アーレア設立。2013年、ベンチャーキャピタル事業の株式会社トライアムパートナーズ設立。株式会社ぱど(ジャスダック上場)代表取締役社長を経て、上場企業および投資先ベンチャー企業複数社の経営に携わる。ベンチャーキャピタリストとしてだけでなく、個人投資家としてもスタートアップ育成に携わっている。

石井芳明(内閣府 科学技術・イノベーション担当 企画官)

1987年、岡山大学法学部法学科卒業。1996年、カリフォルニア大学バークレー校留学(単位履修)。2000年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒業(国際経営学修士)。2012年、早稲田大学大学院商学研究科卒業(商学博士)。1987年、通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策等に従事。2003年に経済産業政策局産業組織課へ、2006年に中小企業基盤整備機構資金支援課へそれぞれ配属。2008年に大田区産業経済部産業振興課課長。2011年、地域経済産業グループ地域経済産業政策課、2012年、経済産業政策局新規産業室を経て、2018年から現職。

榊原健太郎(株式会社サムライインキュベート 創業者 代表取締役 共同経営パートナー)

1974年名古屋出身。関西大学卒業後、アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)などを経て、2008年にサムライインキュベートを設立。2014年にイスラエルへ移住しブランチを開設。2018年にルワンダ拠点の子会社設立。「できるできないでなく やるかやらないかで 世界を変える」を理念に掲げ、現在国内外のスタートアップ累計150社以上(グループ全体)に投資、インキュベーション支援するほか、大企業のオープンイノベーションをはじめとする新規事業創出支援を行う。

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