ITサービス売上日本一・富士通の危機感。「つくれるコンサル」が新たな価値をつくる
柴崎辰彦(富士通 デジタルフロント事業本部長代理 )
2018.01.31

企業に対しITのソフトウェアやサービス、システムなどの販売を行うITサービス市場の売上において、2013年から2016年にかけて国内トップを維持する富士通株式会社。それを支えるのは数多くの優秀なSE(システムエンジニア)の存在だが、富士通は「新時代のSEのあり方」を具現化するべく、2017年より新しい職種「デジタルイノベーター」を誕生させた。

「このままでは、富士通の未来はない」という強い危機感のもと、今後3年間で1,200人を養成するという「デジタルイノベーター」。そのミッションは、これまでのSEに課せられた「指示書どおりに確実なシステムを納品する」という業務だけでなく、クライアントとともに新たなビジネスやサービスをつくる「共創」を推し進めること。その成果として、2017年11月に、AIチャットボットを搭載したコミュニケーションサービス「CHORDSHIP」が発表された。

なぜ、「デジタルイノベーター」は誕生したのか。そして、これからのSEの働き方を、企業のデジタルソリューションを、どのように進化させていくのか。立ち上げに深く関わった、デジタルフロント事業本部の柴崎辰彦氏と、デジタルイノベーターのモデル人材にもなった、生川慎二氏に詳しい話を聞いた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

デジタルイノベーターとは、これから求められる新しいSE像を具現化したもの。

HIP編集部(以下、HIP):デジタルイノベーターと聞いても、具体的なイメージが湧かない読者も多いと思います。どのような職種なのか教えていただけますか。

柴崎辰彦氏(以下、柴崎):デジタルイノベーターは、富士通が定める新時代のSE像「SE4.0」を具現化したもので、クライアントに対して「つくれるコンサルタント」のようなサービスを提供することを目指しています。

これまでのSEは、クライアントからヒアリングした情報をもとにシステムを設計し、正確に運用することが求められていました。しかし、これからはクライアントとともに課題に向き合い、解決するためのアイデアを提案し、ビジネスをドライブさせる存在になることが求められてくると思います。

そういった課題から、2017年に新設された部署「デジタルフロント事業本部」の一員として、デジタルイノベーターという職種が生まれました。

富士通 デジタルフロント事業本部長代理 柴崎辰彦

HIP:なぜいま、クライアントとともに課題に向き合う、新たなSEのあり方が必要になっているのでしょうか。

柴崎:富士通が得意とするのは、企業に必要なITシステムを設計・開発するSI(システムインテグレーション)。日本全体の売上の約25パーセントを誇っています。そのSI事業のなかでも、企業内のさまざまな情報を記録・保護するSoR(※1)を得意としてきました。

しかし、この7、8年で状況が変わってきました。SoRのように業務を効率化するだけでなく、ビジネスを変革するためのシステムや、顧客とのコミュニケーションを変革するSoE(※2)のような、攻めのシステム開発が求められている。

そのためには、富士通が培ってきたSoRのノウハウとはまったく違う、クライアントと視線を合わせながら課題を発見し、スピーディーにつくる開発体制が必要になるんです。

※1 System of Recordの略。会計や生産、販売などを中心とした業務処理や記録のためのシステム。おもな利用者は企業の従業員。

※2 Systems of Engagementの略。顧客の体験の向上や、新規事業を創出するためのシステム。おもな利用者は企業の顧客。


HIP:その状況に対応できる人材、デジタルイノベーターを育てることが、デジタルフロント事業本部の重要な役割なんですね。

柴崎:はい。新しい時代に対応した「SE4.0=つくれるコンサル」を実現するために、デジタルイノベーターのなかでも役割を分担し、チームで動ける体制をつくりました。クライアントとコミュニケーションをしながらプロジェクト全体を統括する「プロデューサー」。新たなビジネスやサービスのアイデアを考える「デザイナー」。アイデアをすぐにプロトタイプに落とし込み、現場のフィードバックを反映しながらサービスを完成させる「デベロッパー」。この3者によるチームで、クライアントの強みと富士通の技術を掛け合わせたシステム開発を行っていくイメージです。

デジタルイノベーターによる共創プロデュース

昇進できなかった挫折から、積極的に社外とつながりを求めるようになった。

HIP:クライアントと「共創」することの重要性について、もう少し詳しく教えてください。

柴崎:はい。デジタルイノベーターの仕事は、クライアントとの「共創」を前提としています。それは、オープンイノベーションと言い換えてもいいでしょう。

多様性に溢れた変化の激しい世界で、新しいモノを生み出すためには、一社だけの力では難しい。いろんなプレイヤーが得意な力を持ち寄り、共通の目標に向かってものづくりを進める必要があると感じます。

実際に富士通ではこれまでも「共創」をコンセプトにした活動をしてきました。いま、取材をしていただいている「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」も、富士通の社員だけでなく、一般企業の方や地元住民が集い、共創のためのコミュニケーションを行うためにつくられたスペースです。

「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」

柴崎:また、2012年に立ち上げたイノベーションプラットフォーム・メディア「あしたのコミュニティーラボ」では、創造的なイノベーションが生まれ、成長し続ける「人にやさしい豊かな社会」を目指し、その実現にはどういうコトが必要なのかを日々考え続けています。

イノベーションプラットフォーム・メディア「あしたのコミュニティーラボ」

HIP:いずれも柴崎さんが中心となって生み出されたプロジェクトだそうですね。「共創、オープンイノベーション」の重要性に気づいたきっかけは何でしょうか。

柴崎:じつは、通信機器の事業部にいた30歳のときに、係長への昇進を遅らされるという挫折を経験したんです。理由は、ひとつの部署の仕事しか経験していなかったから。そう聞かされて、内に籠もっているだけではダメだと感じ、積極的に社外に出ていくようになりました。

展示会や見本市に足を運んで、いろんなことを学び、ライバル企業のブースにも顔を出す。20数年前には珍しい行動で、名刺を破られたこともありました(笑)。そのうちに段々と人脈もできて、外部の知恵を自分の仕事にも活かせるようになった。それが自分にとっての「共創」の原体験かもしれませんね。

ただ、富士通にも、外部の知恵を活かす文化はもともとありました。部門や職種の壁を越えた、富士通の新しいビジネス創造をテーマに「PLY」で開催したハッカソンを、SE出身の副社長である谷口典彦が見学したことがありました。そのときに、「その昔、われわれSEはお客さんと一緒に、同じ釜の飯を食い、場合によっては寝袋まで持ち込んで、業務をどうシステム化するか一生懸命ディスカッションしていた。まさにいま君たちがやっている、ハッカソンの内容そのものだったよ」と教えてくれたんです。谷口は、富士通のSoR開発においてさまざまな大プロジェクトを手掛けた人。そんな人の言葉だけに、とても印象深かったですね。

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