やっと技術が追いついてきた。VRのパイオニア・水口哲也が語る「バーチャルを超えた」未来
水口哲也(クリエイター・ゲームデザイナー)
2016.10.07

1980年代、学生の頃からVRを研究し、「ゲーム×VR」の可能性を模索してきた水口哲也氏。映像と音を融合させたシューティングゲーム『Rez』など数々の先鋭的なゲームを生み出してきたほか、映像表現と音楽を融合させたユニット「Genki Rockets」のプロデュースなどの活動も行ってきた。また「アルスエレクトロニカ賞」をはじめとした世界的な賞も数多く受賞している。

VRの醍醐味である「さまざまな感覚の融合」をいち早く世の中に提示してきた「VR研究・実践のパイオニア」でもある水口氏は、今年2016年、『Rez』の完成版と言える『Rez Infinite』を発表する。VRで楽しめるようになったゲーム『Rez Infinite』の制作を通じ、彼が現在考えているVRの可能性とは。そして、30年近くVRに触れてきた水口氏が描く、VRのある未来とはどういったものなのだろうか?

取材・文:市來孝人 写真:大畑陽子

頭の中にある発想は、音も映像も触覚もつながっている。その発想を顕在化できるものがVRだった。

HIP:水口さんは学生時代からVRについてリサーチされていたそうですね。1980年代というと、まだVRという言葉さえも知る人は少なかったのでは。

水口:そうですね、当時は「Virtual Reality」という言葉が出てきたばかりでした。アメリカ航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究センターが開発した「仮想環境表示システム」というVRの実験映像を見たときに「なんだ、これは?」と衝撃を受けましたね。

HIP:当時は水口さんの中で、どのようにVRを捉えていましたか?

水口:僕の中には「シナスタジア=共感覚」というテーマがあって、音、映像、触覚が組み合わさった体験をエンターテイメントに置き換えることをいつかやってみたかったんです。大学ではメディア美学を専攻していたのですが、表現は「映像メディア」や「音のメディア」のように、それぞれ切り離して考えられることが多い。だけど頭の中にある最初の発想や妄想は、もともと音も映像も触覚もつながっていて、境目はない。いつかその発想をエンターテイメントとして顕在化できるものとしてVRを見ていました。

HIP:そんななか、セガに入社されたのはなぜだったのでしょうか?

水口:当時はインターネット前夜だったこともあり、個人が創作活動を行うにはいまよりも難しく、VR開発に必要なUnityなどの開発エンジンも一般化されていなかった。個人で何かを始めるには大変な時代だったんです。思い描いていたような新しい形のエンターテイメントを作るにはゲーム会社かなと、この世界に飛び込むことを決めました。

HIP:入社後はどのような仕事をされていましたか?

水口:テーマパーク用のアトラクションの企画などを作っていましたが、すぐに「VRを使ったゲームを作りましょう」という提案をしましたね。

HIP:1990年代、まだエンターテイメント分野ではVRが活用されていない時代ですよね。

水口:新しいものなので、社内で説明するのが大変でした(笑)。それから、すでにVR機器を開発していた英国や米国の会社などを視察して、海外の技術者も巻き込んで実現の可能性を検討しましたが、上手くはいかなかったですね。ディスプレイの解像度、それを生成するグラフィックエンジンの性能、センサーなどあらゆる技術がチープでしたし、デバイスも重くて……技術面が追いつくまでVRをやるのは難しいな、とテストの段階で判断したんです。今回の『Rez Infinite』は、テクノロジーが追いついて、「やっとこの時代が来たな」という思いで作った作品です。

VRではまったくフレームがない世界が実現できる。そして、映像は立体視、音響も立体音響。まったく違う体験ですよね。

HIP:今回発表された『Rez Infinite』の前身となる『Rez』(2001年)も、映像と音が融合した先鋭的なゲームでした。『Rez』はどのような思いで作られたものだったのでしょうか?

水口:音楽って、世界中どの言語の人でもつながれるものですよね。音楽を聴いたり歌ったりすると、その場にいる人たちが自然と盛り上がる。音楽の力を使えば、そういった人の能力をうまく引き出して、面白いだけではない、最高に気持ちがいいゲーム体験が作れるのではないかと思い、実験を重ねました。みんなの音楽に対する経験をちょっと使わせてもらって、新しい体験を生み出したいと思って作ったゲームです。いろいろなDJやミュージシャンにも開発に参加してもらいました。

HIP:発売後の反響はいかがでしたか?

水口:最初は爆発的に売れたわけではないんですが(笑)、ちょうどネットが普及し始めた頃だったので、ゲームのファンになってくれた人たちが世界のあちこちでエバンジェリストのように感想をずっと発信し続けてくれたんですよね。それは15年経ったいまでも、続いています。『Rez』を何度もやり続けてくれる人が多いのは、この音楽に根ざした本能的な体験がプレイした人に何かプラスの影響を与えているからだろうなあと、時間が経てば経つほど感じるようになりました。

HIP:『Rez Infinite』は、『Rez』の続編としての位置づけですか?

水口:いや、完成版みたいなものです。もしVRの時代が来たら、真っ先にVRで『Rez』を作ろうと決めていたので、いまのテクノロジーでできる、でき得るものを作りたかった。もともと『Rez』の制作時も、頭の中ではVRのようなイメージを描いていましたから。しかしどんなにイメージを膨らませても、最後は3:4のテレビ画面のフレームに押し込めないといけなかったですし、解像度も当然低かった。それが、VRではまったくフレームがない世界が実現できる。そして、映像は立体視、音響も立体音響。まったく違う体験ですよね。

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新たな表現の時代へ。120年以上の映像の歴史を経てVRがイノベーションを起こせる理由