ゼロから理解する「VR」後編:ゲーム以外での領域でこそ期待されるVR×ビジネスのいま
株式会社Mogura 代表取締役社長、「Mogura VR」編集長 久保田瞬
2016.08.22

医療・教育・産業を変えつつあるVR

ゲーム以外の分野でOculus Riftなどのゲーム由来のVRデバイスの活用が模索されるようになったのはごく最近のことです。最も活用が期待される3つの分野が、医療・教育・産業。医療の場合は精神的なトラブルを抱える患者にとってトラウマになっているシーンをVRで再現し、体験させることで克服が期待できるとのこと。他にも、手術のシミュレーションとして、例えば心臓の手術であれば、心臓の構造をモデルとしてスキャンし、手術前に患部の詳細を把握するなどの使用法も期待されています。

つまるところ、これまで再現することが難しかったシーンも、VRを用いることで再現可能になるということです。教育分野でもこれは重要で、テキストや映像でしか学べなかったことがVRを通じて体験として学習できるようになってきています。例えば、Oculusには宇宙・太陽系のガイドをVRで受けることができる『Titans of Space』という有名なコンテンツがあり、これまで体験することができなかった太陽系のスケール感を身をもって知ることができるのです。また、この冬に発売が予定されている『ファイナルファンタジーXV』を、先日PlayStation®VRで試遊させていただきましたが、目の前にいる敵モンスターを見上げるという体験は初めてでした。スケール感を身体で感じることができるのも、VRが可能にしたことではないでしょうか。

建築業界にも変化が訪れつつあり、モデルシミュレーションにVRを活用することで、建て始める前に建物の中を実際に歩いてみることが可能になっています。また、不動産業界の内覧では、360度カメラを用いた事例も多く生まれています。例えば、住宅情報サイトHOME’Sを運営する株式会社ネクストは、レゴとOculus Riftを活用し、イメージする間取りをブロックで表現するとディスプレイ上に3Dの部屋として出現する「GRID VRICK」を開発しました。

GRID VRICK

ドイツの自動車メーカーのアウディも、VRを用いてハンドルを握るところまで試乗の体験を行える仕組みを開発し、そのフィードバックを実際のプロダクト開発に生かしています。

3Dプリンターでものを作る前にプロトタイプで確かめるように、「体験」も作る前に確かめることができる。そうなると、産業の分野にも大きな変化をもたらす可能性がありそうです。広告業界でも、人の目線の動きをトラッキングすることで広告の最適化を図れるかもしれません。いまWebの世界で行われている最適化が、リアルの世界でも進んでいくのではないでしょうか。

Audi’s VR Car Showroom Experience with HTC Vive – CES 206

エンターテイメント業界での活用もさらに進んでいくでしょう。ライブの撮影やミュージックビデオとの親和性は高く、少しずつ事例も出始めています。しかし、例えばステージの真ん中で、目の前のアイドルを感じられる体験ができればユーザーは嬉しいのでしょうか? 話はそう単純ではありません。なぜならば、本当にステージ上に自分がいたとすれば、アイドルが自分のことを認識するのが自然です。つまり、自分に向かって手を振ったり、ウィンクをしたり、何らかのアクションをしてくれない限り、いくら距離が近づいても疎外感が発生してしまうのです。ライブで何よりも重要なのはそれとは真逆の一体感です。このあたりの最適解については、いままさに各社が試行錯誤しているところでしょう。

スポーツに関しても、現段階ではテレビに分があります。数十年来積み上げられてきたライブスポーツのカメラ・編集技術によって「観るエンタメ」にまで昇華されているため、これをVRが代替するためにはコンテンツ面で何らかの再発明が不可欠です。テレビがあってもなお現地観戦に行く人は一定数必ずいるので、その欲求を満たすための再現が鍵となるでしょう。

このように、今後はゲーム以外の領域におけるVRの発展が期待されています。VRに関する報道はどうしてもゲームに寄ったものが多く、一般ユーザーからするとまだまだ手の届きにくいものというイメージを持つ人も多いかもしれません。ですが、何かをシミュレーションするにあたりハイスペックなPC1台とOculus Riftのようなデバイスの合計20万円程度で済むとなれば、ビジネスとしては十分お手頃だと言えるのではないでしょうか。

「VRは体験しないとわからないメディア」

VRの情報を紹介するウェブサイトを運営していながら感じる最大の課題は、「VRは体験してみないとわからないメディア」だということです。これまでも時代ごとに文字、写真、動画と新たなメディアが生み出されてきました。例えば動画を見たことがない人に、文字だけでテレビとは何かを伝えることができるでしょうか? 10月にPlayStation®VRが全国展開したときに起きることは、戦後の街頭テレビ、もしくはファミコン発売時に持っている友達の家に「なんだなんだ?」と皆が集まった感覚に近いかもしれません。スマートフォンのように皆が一気に使うことで普及が早まるというものでもないので、広がっていくには非常に時間がかかると思われます。

VR業界に参入しようとしている企業に言えることは、コンシューマーに普及するタイミングを見極めてコンテンツを作れるようにしておくべきだということです。いまはまだ一般コンシューマーが問題なく買える価格にまでは落ちていないため、ノウハウを貯める時期だと考えています。そしてまだ体験をしたことがない人は、まず「HTC Vive」や「Oculus Rift」のようなハイエンドデバイスをイベントや店舗等で体験することをお勧めします。そしてビジネスに携わっている方は「ゲームなのか? ゲーム以外なのか?」といった枠を取り払った上で活用を考えていただきたいと思います。

Microsoft HoloLens – Transform your world with holograms

最後にVRの未来についての私の考えを述べたいと思います。VRが普及した先には、VRとAR(拡張現実)の融合が進むのではないかと思っています。メガネのスイッチのようなものでVRとARの切り替えが自在にできるようになり、バーチャルなものを現実に呼び出すことが可能になる。つまり、バーチャルな世界にのみ閉じるのではなく、実際のリアルな世界とも接続するのです。そうなったとき、人間の新たな感覚が創発され、考え方や価値観にまで影響を及ぼしていくかもしれません。

Profile

プロフィール

久保田瞬

ネトゲ廃人から国家公務員、ベンチャー企業勤務を経て、「Mogura VR」編集長。株式会社Mogura 代表取締役。VRジャーナリスト。国内外を取材で飛び回り、VR業界・VRコンテンツなどの最新情報、動向に精通。株式会社Moguraは"VRを「あたりまえ」に。”をキャッチコピーに、VRの普及と業界の盛り上げを目指してメディアなど各種事業を展開中。

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