「ソニーらしさ」を取り戻す。危機感から生まれた、新規事業創出プログラムの舞台裏
田中章愛(ソニー 新規事業創出部 toio事業室統括課長)
2017.11.24

アイデア段階からお客さまの意見を聞き、価値を確認することで、スピード感が生まれる。

HIP:経営陣を含む社内全体の危機感を解消するために、SAPはどのようなものであるべきだと、田中さんは考えたのでしょうか。

田中:「新規事業の立ち上げをスムーズにし、加速させるためのプラットフォーム」であることですね。つまり、入り口から出口までをしっかりと用意してあげる、ということが重要な課題でした。アイデアから試作品を経て、製品として出荷し、事業として成立させるところまでを支援できる、トータルなプラットフォームを目指しました。

具体的には、定期的にオーディションを開催してアイデアをつのり、そこで合格したら、予算をつけて事業化へのサポートをしていく、という流れです。

HIP:プロジェクトを「加速させる」には、なにが必要なのでしょうか? SAPが起ち上がってから約3年で、13のアイデアが事業化されているというスピード感は特筆すべきことだと感じます。

田中:スピード感へのこだわりは、留学時の経験が大きかったです。アメリカのスタートアップでは、最低限の機能を持った試作品でユーザーの反応を見ながら進める「リーンスタートアップ」が当たり前。その方法を取り入れて、SAPでもアイデア段階からユーザーの意見を聞き、どこに価値を感じているのかを確認しながら、プロジェクトを進めています。

HIP:試作品のクオリティーは荒くてもいいので、ユーザーが価値を感じているポイントを、細かく何度も確認することが重要になってくる。

田中:そうですね。過去の製品開発では極秘で開発を進めて、製品発表で初めてお客さまの目に触れるというケースが多かった。しかし、そのやり方だと、前例のない企画の場合には、つくり手が想定する価値とお客さまが求めている価値にズレが生まれてしまうことがあります。

アイデア段階でどこに価値があるのかを理解することで、必要な機能を絞ることができ、商品化までのスピードアップにもつながる。もちろんアイデアの段階で知的財産権を取得するなど、そのプロジェクトを守るための最低限の手続きはやっています。

HIP:なるほど。留学の経験以外で、田中さんが感じていた課題がSAPに反映された点はありますか?

田中:いま取材をしていただいているこの場所、「Creative Lounge」の設立ですね。このラウンジは、ソニーCSLで「ToyAlive」の試作品をつくったときのように、軽いノリで試せる工房のような場所があったらいいな、という思いがもとになっています。

「Creative Lounge」のいいところは、自分の所属先に関係なく実験ができること。部署の設備を使わなくても、なんとなく思いついたアイデアを試せます。実物になった製品があれば「これ、おもしろいでしょ」と説得もしやすくなる。企画書で説明する前に製品をつくれるのは大きなメリットです。

HIP:これまでは試作品をつくるのも大変だった?

田中:工作室がある部署もあるのですが、部署に特化したものが多いので十分な設備がそろっているとは限らない。工作室がない部署は、つき合いのある工場などにつくってもらうしかありませんでした。もちろんどこかにお願いするとお金もかかります。

「Creative Lounge」には3Dプリンターがあるので、「CAD」などで設計図をつくれば、すぐに試作品がつくれます。どの部署にいても、アイデアがあれば挑戦できるようになりました。

豊富な人材とインフラがあるからこそ、SAPという取り組みを最大限活用することができる。

HIP:従業員12万人以上、売上高7兆円を超えるソニーだからこそ、SAPのような取り組みの効果がより強く発揮されるという点はありますか?

田中:ソニーが持つインフラと人材を利用できる、ということは大きいですよね。小規模で歴史も浅いスタートアップが苦労するのは、販路の確保や工場での製造ノウハウの部分。特に製造業のスタートアップはそれが顕著です。しかしソニーの場合は、製造だけでなく、他分野でも高い技術を持ったエンジニアや、知財、マーケティングなど、さまざまな知見やノウハウを持った人材も豊富ですし、実際の販路やインフラも持っています。

また、ソニーはさまざまな事業を手掛けているので、異なる分野の人間からアドバイスをもらえるのも大きなポイントです。SAPのオーディションに応募されたアイデアは、ソニーグループの人間なら誰でも見られる機会をつくっています。そこで興味を持った人が、そのプロジェクトの仲間になってくれることもある。

「toio」の場合も、途中で新メンバーが加入し、製品化するためのクオリティーやスピードが向上しました。人と人とが出会うきっかけとしてもSAPは重要な役割を果たしています。

HIP:お話をうかがっていると、SAPは「ソニーらしさ」を取り戻すための取り組みのようにも感じます。

田中:ソニーの設立趣意書には「真面目なる技術者の技能を最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という言葉があります。「放課後活動」にしろSAPにしろ、こういった取り組みはソニーのDNAに染みついているのでしょう。そういうDNAを持った社員を埋もれさせず、十分に活用できる仕組みはつねにあるべきだと思います。

HIP:最後に、大企業でスタートアップ的な取り組みをすることの重要性について教えてください。

田中:必ずしも大企業だからこそSAPのような仕組みが必要とは考えていません。たとえば、国家的な巨大インフラを立ち上げて、それをもとに利益を上げていくタイプの企業は別のやり方があるでしょう。しかしソニーのように、人に寄り添って文化をつくるような、つまり人や時代の変化に追従して製品やサービスを生み出す分野は、変化のスピードが速くなれば当然そこについていく必要があります。

そのためには、小さくスピーディーに始めて、スケールを大きくさせていくスタートアップ的な方法論がより重要になっていくでしょう。今年からヨーロッパでもSAPオーディションが開催されていますが、国内外に関わらず、新規事業をやりたい人がいれば、SAPは拡張し、変化していくと思います。既存の事業の延長上にはない事業がどんどん立ち上がればいいですね。

Profile

プロフィール

田中章愛(ソニー 新規事業創出部 toio事業室統括課長)

2006年にソニー株式会社入社。機械・メカトロニクスエンジニアとして協働型ロボットやエンターテイメントロボットの研究開発や留学での研究活動を経て、2014年よりソニーの新規事業創出プログラム(SAP)の立ち上げ・運営に携わり、ハードウェア製品のプロトタイピング・商品化・事業化に従事。「toio」のプロジェクトリーダーとして、製品の企画・開発を試作段階から担う。

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