イノベーター、求む。経産省の人材育成支援プログラムが参加者を募集
石井芳明(経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 新規事業調整官)
2018.05.24

経済産業省が国内企業のイノベーション支援に取り組んでいることをご存知だろうか? 成長企業を集中支援する「J-Startup」、高い技術力や優れたアイデアを持つベンチャーをシリコンバレーなどに派遣する「飛躍 Next Enterprise」など、さまざまな取り組みが行われている。

なかでも、「人への投資」をテーマに、世界との架け橋になるイノベーター人材の創出を目指して2015年にスタートしたのが「始動 Next Innovator」。これまでに約370名もの受講生を輩出しているプログラムだ。今回、「始動 Next Innovator」をはじめとする、経済産業省主催のイノベーション支援政策について、都内で講演が行われた。壇上に登壇したのは、キーマンである経済産業省 新規事業調整官 石井芳明氏。「イノベーションを飛躍させる国のサポート体制」と題された講演と、過去のプログラム参加者とのディスカッションの様子をレポートする。

取材・文:冨手公嘉 写真:岩本良介

ThinkerからDoerへ。行動を起こす人を増やすビジネス支援プロジェクト

経済産業省のデータによると、国内にはおよそ1万社のスタートアップ企業が存在する。イノベーティブなビジネスを実現するべく各企業がそれぞれ挑戦を続けているが、そのなかでグローバルに活躍できる企業は数パーセントというのが現実だ。

そんななか世界のマーケットで戦える企業や成功モデルを創出していくことを命題として、経済産業省が立ち上げたのが「始動 Next Innovator」というプログラムだ。約5か月間の日本国内プログラムと、約2週間のシリコンバレープログラムで構成されており、イノベーションを起こすための実務的な方法論とイノベーターとして重要なマインドセットの体得を目指す。

「始動 Next Innovator 2018」プロジェクトページより

今年で4年目となる本プログラムのスローガンは「ThinkerからDoer」へというもの。普段の生活や職場で感じた課題や、思いついたアイデアを「直ちに実践」することこそがイノベーションの創出につながるという考えのもと、改革の担い手を育てていく意気込みが感じられる言葉だ。

このプロジェクトを通じて「格好いい大人」を増やしたい。

本講演の会場となったのは、次世代ビジネスモデル創造・事業化支援施設「Ignition Lab MIRAI(イグニッション ラボ ミライ)」。経済産業省とともに「始動 Next Innovator」の運営事務局として参画する株式会社WiLが森ビルとともに立ち上げたインキュベーションオフィスだ。講演は石井氏によるイノベーション支援プロジェクトの概要説明から始まった。

経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 新規事業調整官 石井芳明氏

石井:「始動 Next Innovator」では、日本の次世代のイノベーションを担う人材を育成するために、若手起業家や、大企業で新事業開発を担う人材を公募・選抜し、実践的なプログラムを実施しています。120名の参加者のなかから、優秀な人材を20名選考してシリコンバレーに派遣、現地のベンチャーエコシステムのなかで武者修行してもらうことも行っています。

国内プログラムの最大の特徴は、ビジネスの最前線で活躍する面々が講師やメンターとなって指導を行ってくれるということですね。シリコンバレープログラムに参加できる人数は限られてしまいますが、参加者同士がその目標に向けて切磋琢磨し、交流をすることで、それぞれの事業計画がブラッシュアップされていく。その経験を所属する事業や企業へフィードバックしてくれることも期待しています。

「始動 Next Innovator」のキーワードとなるのが「多様性」だ。失敗を恐れず、誰もがチャレンジできる空気を醸成し、イノベーションを起こすためには、コミュニティーの多様性が重要なのだと石井氏は語る。また、ビジネスにおけるチャレンジを促すことで「格好いい大人」を増やし、若い世代のチャレンジも促したいのだという。

石井:「始動 Next Innovator」は、大企業のみならず、ベンチャーや中小企業の担当者がフラットに交流を続けることができる場です。2017年度の参加者のうち、女性の割合は25%ほど。年齢層も20代から50代までと幅広い方が参加してくださっており、「多様性」を感じられる場になっていると思います。

私はこのプロジェクトを通じて世に「格好いい大人」を増やしていきたいんです。たとえば、サラリーマンをやめて経営者を目指す人。あるいは企業のなかで新規事業を立ち上げるなど、アクションを起こす人ですね。

たとえ失敗したとしても、チャレンジしている大人って格好いいんですよ。そんな大人の存在が増えていかないと、やっぱり若い世代にもつながっていきませんから。そういった意味では、「始動 Next Innovator」は「事業」に対してというよりも、人を育てていくということに焦点を当てています。

結局、人に投資をすることが一番効率がいい。

こういったイノベーション施策において、補助金や融資などのサポート先を決定する際、データや実績も大事だが、最終的に経営者の想いが一貫している企業が困難に強く、成長していく。これまで多くの経営者と関わるなかで、石井氏はそう確信しているという。つまり、ビジネス支援政策としても、人へ投資したほうが効率がいいということだ。

石井:企業の客観的な情報をベースに支援をするというのは公的支援の基本的な手法です。たとえば「一定の条件に合致したら補助金を出します、税制を優遇します」という支援の方法は、客観的な実績や数字を重視した、公平な判断が可能です。

しかし、イノベーション創出の世界ではこの方法が、必ずしも将来性や投資の成功につながるわけではないんです。客観的なデータではそれほどではなくとも、経営者やマネジメントなどの「人」が確固たる志を持っている企業が大きく伸びるケースが多々ありました。

そこで「始動 Next Innovator」では、初年度にもともと100人だった募集人数を120人に増枠したんですよ。なぜかというと、選考を行うなかで客観的な参加基準とは異なる面白い人や、光るアイデアを持っている人に出会うことができたからです。ワイルドカードとして彼らを採択してみると、やはり20人のなかからボーンと伸びる人が出るんですよ。

いつ、どんなかたちで芽が出るかはわからないんですけど、そういう成長を見るのは楽しみですね。もちろん最初から優れた成果を出し、そのまま伸びていく人もいます。人材の成長曲線というのはなかなか予測できないんですね。

石井:「始動 Next Innovator」は、そうした多様な人々が切磋琢磨できる場でありたいんです。一人きりでやっていると、熱量をキープするのが難しいときもありますが、普段は触れ合うことのない社外の人の熱量に触れることは、大きな刺激になりますよね。

シリコンバレーでのプログラムも、まったく違うスピード、熱量で動いている人たちに触れ合えるからこそ意味があるわけです。そうした経験が自分を変えるきっかけになるはずです。

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過去の参加者たちが「始動 Next Innovator」で学び得たこと、そのメリットを語る