Apple、楽天を経てR/GAカントリーマネージャーになった筈井氏が語る日本市場攻略のコツ
筈井昌美(R/GA 東京オフィス マネージング・ディレクター)
2017.09.28

“スタートアップへ出資を行い、既存のエージェンシーでは解決することのできなかった問題に取り組もうとしています。

HIP:コンサルティングやエージェンシーといった機能は、日本の広告会社も持っているものですよね。ベンチャー支援事業とは具体的にどのようなことを行なっているのでしょうか?

筈井:スタートアップの力を使って、R/GAのクライアントのビジネスを変革することを目的としています。スタートアップへ出資(ファイナンシャル・キャピタル)を行うだけでなく、われわれのノウハウやナレッジを提供(クリエイティブ・キャピタル)することによって、最先端のアイデアやテクノロジーに高いデザイン性や戦略性が加わる。これらをクライアントに提供することで、既存のエージェンシーでは解決することのできなかった課題に取り組もうとしています。

また、日本ではまだ展開していませんが、アメリカではメジャーリーグ球団のロサンゼルスドジャースとともにベンチャー企業への投資を行うアクセラレータープログラムを進めています。こちらは参加のスタートアップ企業のテクノロジーやソリューションを組み合わせる事により全く新しいサービスを開発したり、さまざまな成果が出始めているので、そういったプログラムを日本向けにローカライズして展開していけたらと思っています。

われわれR/GAはイノベーションが企業のDNAとして根づいており、そのため自らのビジネスモデルを継続的にDisruption(破壊)し続けています。既存のエージェンシー業務だけでなく、コンサルティングやベンチャービジネスに注力しているのは業界に変革を促すことがR/GAの大きな目的としてあるからです。

“スマートフォンが浸透していったように、グローバルで巻き起こっていることは日本でも起こります。

HIP:筈井さんは、R/GAを日本に展開するための責任者、カントリーマネージャーを担当されていますが、日本市場の性格をどのように捉えていますか。

筈井:日本の消費者の特徴として、新しいものには慎重であまり手を出さないのですが、いったん価値を理解したら一気に受け入れてくれるというのがあります。ただ、消費者に根本的に違いはなく、時間差はあれどもグローバルで起こっていることは日本でも起こり得ると考えています。これは私がApple在籍時に行なったキャンペーンでも確信しました。

HIP:どんなキャンペーンでしょうか?

筈井:「iPhone3G」が発売になった2008年、日本ではまだまだ「ガラケー」が中心でした。日本のユーザーはそれまでの携帯電話に不満があったわけではないので、積極的にiPhone(=スマートフォン)を購入する動機がなかったのです。

ただ、われわれは「iPhone3G」使ってもらえさえすれば必ずユーザーは価値を理解していただけると考え、「iPhone for everybodyキャンペーン」を実施したんです。これは通信キャリアの販売奨励金を使ってユーザーの初期購入コストを下げ、まず「iPhone3G」を使ってもらう狙いで行ったキャンペーンです。

HIP:「本体代金の負担が実質ゼロ円」といったキャンペーンですね。

筈井:はい。ただ、Appleには当時製品の価値を下げるようなキャンペーンはダメという方針があり、このキャンペーンについて「ディスカウントではないか」と本国からNGが出ました。

そこでわれわれは「ディスカウントではなく、デバイスの価値を伝えるためのキャンペーンだ。価値さえ認められれば、iPhoneのシェアは一気に増えるので、まずはこれを実施する必要がある」と掛け合ったんですね。そして、日本においては例外的にGOサインをもらえたのです。

HIP:すごいですね。どのように説得したのでしょうか?

筈井:当時Appleには販売するためのいろいろな制約がありましたが、そのやり方では日本では売れないと、いくつもの販売アイデアをパートナー企業と連携して地道に本社に提案して説得をしたんです。最初は跳ね返されましたけど、泥臭く提案を続けるうちに、徐々にアイデアが採用されていきました。こうして少しづつ信頼を勝ち取っていった結果「iPhone for everybodyキャンペーン」を行うことが決まりました。

「iPhone 3G」発売当初、3か月ほどはなかなか売上が伸びなかったのですが、過去にiPodを発売したときも一度認知が上がれば一気に売上が伸びるというデータがあったので、当時「iPhone for everyoneキャンペーン」は売り上げ向上の起爆剤として必要なアクションでした。その後は急速にシェアを伸ばすことができたんです。

“カントリーマネージャーに必要なのは、好奇心とフレキシビリティー。

HIP:そういった外資系企業でのご経験はカントリーマネージャーの仕事に通じる部分も多くあると思います。R/GAではどのようなことを意識して仕事に取り組んでいますか?

筈井:好奇心ですね。世界中のクライアントと協働しつねに新しいことをやっていくので、そのスピード感や答えのない状況のなかでチャレンジすることを自分が楽しめないといけません。文化や商習慣の違いに対応できるフレキシビリティーも必要ですね。

また、カントリーマネージャーはグローバルで起こっていることを日本へ、日本で起こっていることをグローバルオフィスへというように双方向に情報を伝えていく必要があります。私はとくに後者が大事だと考え、一緒に動いている国内チームの情報をつねに吸い上げ、発信するように意識しています。

というのも、これまでのキャリアのなかで海外本社のチームに対して自分の持つ価値を伝えることの重要さを学んだからです。先ほどお話ししたiPhoneの話がいい例ですが、日本の消費者の特徴を正確に捉えていることを本社のスタッフに伝え、彼らを説得できたからこそキャンペーンは実現できました。こうした国内外の認識のギャップを埋める経験を積んできたことは、海外オフィスと仕事を進めるうえでの自信につながっていますね。

HIP:そもそも、海外の企業や、カントリーマネージャーの仕事に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

筈井:大学時代に留学していたミシガン州での経験は大きいですね。田舎だったので日本人も少なく、日本に対しての知識もないので「ひな祭りって何?」「なぜこどもの日があるの?」などと聞かれたときにちゃんと英語で説明できるようにならないとコミュニケーションできない環境でした。自分が日本の文化について説明できないのが悔しくて、そこから日本の文化に関して必死に勉強するようになりました。そうして、彼らとコミュニケーションできるようになると、彼らは日本の文化を面白がってくれたんですよね。このとき「伝える方法さえ持っていれば文化の橋渡しをすることができる」と感じた経験は、いまの仕事につながっていると思いますね。

HIP:今後について、関心のあることがあれば教えていただけますか?

筈井:小さい頃から親しんでいた伝統工芸に関心があります。日本の工芸品はその価値をどう伝えるかという点に苦戦しています。グローバルな市場で日本の古き良き伝統工芸の価値を理解してもらうためにはどうすればいいのか? これはカントリーマネージャーの仕事に通じるところがあります。

価値の伝え方で悩む企業の問題をクリエイティブやテクノロジーによって解決し、グローバル市場に紹介していきたいです。そして最終的に日本を元気にすることができたら、それ以上わくわくする仕事はありませんね。

Profile

プロフィール

筈井昌美(R/GA 東京オフィス マネージング・ディレクター)

Appleにて日本におけるiPhoneビジネスの立ち上げ、楽天グループにて全社横断のモバイル戦略に従事、その後スタートアップ企業と協働しながら、IoTやAI、AR / VRなどの最新テクノロジーを活用したマーケティング戦略を立案、実施。2017年1月、R/GAに入社、現職。

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